第62話 媒体
間接的に……。毒を……使う……。
『僕たちが持つ呪術とは、他にも大きく分ければ、類感呪術、感染呪術があります。聞いた事があるでしょう。直接、手を下さなくても、相手を苦しめ、殺す事が出来る……と』
「ちょっと待って……だけどそれって……」
それは掛ける呪いにもよる事だろう。
直接、手を下さなくても、相手に届く……。それは思いのままって事……。
「媒体があるって事ですよね……?」
「うん。それが?」
「じゃあ……その媒体があれば、逆に使う事も可能って事ですか?」
「……ふうん? 逆に……ね?」
僕の問いに差綺は、口元を歪めて笑った。
「君……面白いね」
差綺は、丹敷の後ろに立つと、丹敷の首元に両手を添えた。
「おい……差綺……」
「通常、媒体は術師の元で、そのもの自体に呪いを込める。勿論、媒体になる訳だから、その媒体には繋がりを持てるものがなければならない。互いに共通するものを通じて、呪いを感染させるんだ」
「呪いを……感染……」
そう言葉を聞くと、果てしなく大きなものが、見えないまま広がるという怖さを感じさせる。
僕たち呪術医が使う呪術と、根底にあるものは違うように思えるが……。
だけど結果として、辿り着くものには違いはない。
『だが……その呪術師がどれだけ危険な存在か……俺とお前なら分かるだろ?』
『危険ねえ……? 使い方を誤ったらそうなるだろうな』
あれって……差綺の事……?
丹敷の肩越しに顔を覗かせて見せる差綺の目が、赤く光った。
「でも……僕はね……」
丹敷の首元の蜘蛛の巣の印が赤く染まり、まるで血管のように体に広がり始めた。血管で作られた蜘蛛の巣みたいだ。
そして差綺の首元の蜘蛛が、丹敷に張り巡らされた巣へと動き始め、心臓部分で止まった。
「媒体を動かす事が出来るんだ」
媒体を……動かす……。
差綺は、指先で蜘蛛にそっと触れた。
「いつの間にか忍び込んで、繋がりになるものを拾って来る事も……ね? 虫刺されなんかは、注意した方がいいよ? ね? 丹敷?」
「は……お陰で俺の中に流れる血は、お前と同じだ」
血が同じ……。
「あ……ああ!」
つい、声をあげて納得してしまった僕に、差綺と丹敷の視線が向いた。
「なに?」
「なんだよ?」
「え……あ……えっと……いや……その……」
貴桐さんの言葉を思い出してしまった僕は、返答出来ずに言葉を濁そうとする。
『だが……お前、呪術師だったっけ?』
……言えない。
口籠もっている僕の心を察したのだろう。貴桐さんが笑い出した。
「なんで笑ってんだよ? 貴桐」
丹敷の視線が貴桐さんに向く。
「いや……知らない方がいいって事もあるって事だ」
「あ?」
丹敷は、不満そうな顔で、貴桐さんを睨む。
……分かっていないんだ。
丹敷自体に呪術師としての力はなかった。差綺がその血を丹敷に感染させたって事だ。
互いに持つものが同じになったとしたら、間を繋ぐ媒体は、逆からも使える……つまり、丹敷からも媒体を通じて差綺に繋がれるという事だ。
差綺が持っている蜘蛛から引かれた糸が、丹敷と差綺を結びつける。
互いに持つ蜘蛛の巣の印がある限り……。
……印。
僕が圭から貰ったあの印は、まだ僕の胸にある。
という事は……。
僕は、胸に手を当てて、心臓の鼓動を確かめる。
生きている限り、心臓の動きは止まる事はない。だが、心臓にも休む時間はあるんだ。
低く静かな音が長く続いた後に、高く短い音がする。そして音のしない静かな間が少しだけある。それが心臓の休む時間だ。
圭の中にある心臓は……来贅だ。
『私を殺すなら、圭を殺すといい』
このタイミングをうまく使えるようになれば、取り戻せるかもしれない。




