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第57話 手中

「あなたの命……頂けません」


 僕が丹敷の胸に置いた手の上に、侯和さんの手が重ねられた。

 互いに目を合わせると、互いに頷く。

 あり合わせの材料……ブリコラージュ。

 繋ぎ合わせる為に必要なものは、揃っている。

「……戻って来て下さい。僕の声……聞こえますよね」


 フワッと柔らかい風が丹敷の体を包んだ。

 首元に置いた蜘蛛の巣が、パアッと淡い光を放つと、バラバラになった体を繋ぎ合わせるように糸を伸ばし、絡み付いた。

「……丹敷が使った呪法を……構築し直したのか」

「はい。彼の体は…… 一度、バラバラにされていますね……? 来贅にですか?」

「……ああ。だが丹敷は、その呪法を持っていた。全てを絡め取り、くっついて離れないようにな……」

「この蜘蛛の巣の印が体にある限り……バラバラになった体は繋ぎ止められる……ですが……」

「なんだ……? 一夜」

 僕は、貴桐さんを見て答える。

「……ないんです」

「ない……? 何がだ?」

「彼の体の中に……心臓がないんです」

「心臓が……ない……だと?」

「それなのに彼は……どうして生き続ける事が出来たんでしょうか……?」

 丹敷の胸に手を置いた時に分かった。

 空洞がある……そこは本当なら心臓がある場所だ。

「多分……ずっと以前からありません。こうなる前……ここに来た時にも持っていなかったはずです」

「……嘘だろ……そんな……馬鹿な……」

「侯和さんが戻って来れたのは、心臓があったからだと言っていましたよね」

「……ああ」

「彼にはないんです。それでも……」

 丹敷の体が繋がると、蜘蛛の巣が丹敷の首元に張り付くように戻った。

 青ざめていた顔は血色が戻り、目は開けなかったが呼吸音が聞こえた。

「それでも血液は循環され、この方は……生きています」

「……」

 僕の言葉に黙り込んだ貴桐さんは、ゆっくりと後ろを振り向いた。僕は、貴桐さんの目線を追ったが、そこはまだ光の柱が立ち上がったままだった。

 貴桐さんは、じっとそれを見つめていたが、歩を進め出した。数歩、足を進めたところで立ち止まると、前を見据える。

 貴桐さんは、何かに気づいたようだった。

 ……まだ……来贅が……。


「……それなら……ここにある」

 僕が抱えた不安の通り、来贅の声が、光の柱の中から聞こえた。

 光を押し退けて、来贅が姿を見せた。だが、貴桐さんが描いた円の中からは、出て来る事はなかった。

 僕は、来贅が差し出した手を見て驚く。

「それ……心臓……」

 来贅が手にしている剥き出しの心臓は、鼓動を見せていた。

 それは間違いなく丹敷のものだろう。

 ……動いている……何故……。

「……来贅……お前……」

「貴桐……無理に取り返しても構わんが……いや……返そうか……?」

 来贅は、そう言って意味ありげな笑みを見せた。

 貴桐さんは、来贅を睨んだまま、手を出そうとはしなかった。

 そんな貴桐さんの様子に来贅は、楽しそうに笑う。

「どうした? 貴桐。私は構わないぞ。返してやろうか」

「……ダメだ、貴桐。あれに手は出せない」

 侯和さんの言葉に、貴桐さんは分かっていると頷いた。

 来贅は、手出し出来ないと分かって言っているのだろう。僕たちを見ると嘲笑し、言葉を続ける。

「まだ……答えていなかったな」


 『それが私を侮るペテン師だとしても、塔に入ると来た呪術師を迎え入れたのは、何故だと思う?』


 来贅が答えるその言葉に、僕の中から込み上げる思いが、吐き出てしまいそうだった。

 苦しくて、苦しくて。

 奪われたものがそこにある事に、縛られる。

 取り返したくても、取り返したら。

「生きるか死ぬかは、私から離れるか離れないか、それだけで決まる。その足掻きを見るのは悪くはない」

 ……そこで終わる。

「従順になる者……隙を見ようと足掻く者……取り入った方が生きやすいか、取り入るつもりで近づき、私を倒すか……そこに起きる互いの感情が、互いを蹴落とし私に近づく……皆、自分の事だけに必死だ。結果、何が出来たと思う?」

 来贅は、クスッと笑みを漏らすと、言葉を続けた。


 それは、冷酷な感情を持っているのはどっちだと、言葉を突きつけられたようだった。


「ヒエラルキー……あれは私が作ったものではない。お前たちが勝手に競い合い、作ったものだ」


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