第51話 見
暫くの間は忙しかったが、流行病が収束すると、塔に属さない呪術医は扉を閉めた。その中で塔に属する呪術医もいた。
塔が許容した事で、少しは緩和されるかと期待した者もいたが、変わる事はなかった。
状況はどんどん悪くなり、新たに塔に属した呪術医が、塔に属さないと扉を閉じた呪術医を踏み台代わりにするような行為に出た。扉を閉めたというのに、塔に属さないと答えを出した呪術医の排除が始まろうとしていた。それは、新たに塔に属した呪術医が、自身の待遇の期待をそこに懸けたからだった。
「結局は、炙り出されたようなもんだな」
溜息混じりに貴桐さんはそう言い、更に言葉を続けた。
「どのくらいの呪術医が残っていたか、把握する機会になっちまったってところだろ。俺たちが塔にいた時は、動きを見せない呪術医まで探す事なんてなかったからな。動きを見せなきゃ、知られる事もなかったって訳だ……」
「それも覚悟の上でやったのは、何処も同じじゃないのか。感染が広がり続ければ、自分たちだって無事じゃ済まない訳だし、治せる術を持って何もしないで黙って見てる事が出来なかったって事だろ……それ自体に後悔はないんじゃないか」
侯和さんはそう答えたが、やはり表情は翳りを見せていた。
勿論、僕も穏やかじゃない。
僕たちも、いつここに踏み込まれるか分からない。
圭の両親の知り合いの呪術医が名を貸してくれたお陰で、ペイシェントだけが僕たちの存在を知っているだけだが、彼もやはり塔に属さないと答えを出したから彼が心配だ。
「覚悟ねえ……それって何の覚悟?」
貴桐さんは、少し呆れたように溜息をつき、侯和さんにそう言った。
「おい……なに言ってんだよ……貴桐……」
「それでも塔に属さないって言ってんだよ、その呪術医たちは。知っているはずだよな、どれ程、酷い境遇になるかなんてさ。自分たちが本当にそうなっても構わないと思って、扉を開けたとは思えないねえ」
みんなの視線が貴桐さんに向いた。
貴桐さんは、笑みを浮かべながら僕たちを見て、こう言った。
「潰される覚悟だと思ってんの? 冗談だろ。俺だったら、迎え撃つ覚悟だな」
貴桐さんの言葉に僕と侯和さんは少し驚いていたが、咲耶さんたちは貴桐さんを見つめながら微笑んでいた。それは貴桐さんを誇らしく思っているという表れであった。
「じゃあ、俺たちも準備に入るか」
「おい……貴桐……」
「それだけの術を持ってるから、拒否出来るんだろ。宣戦布告じゃないのか」
「宣戦布告……」
僕は、貴桐さんの言葉を呟き、息を飲んだ。
怖いなんて……思うもんか。
数日後、塔の者たちがこの近くで動き出している事を察した僕たちは警戒していた。
そして、その日がやってきた。
庭で大きな物音が響くと、炎が上がった。
とうとうこの日が来たかと、僕たちは迎え撃つ覚悟で外に出た。
だが……。
「ああ……やっと見つけた。やっぱり生きていたか。まあ、お前の生死なんかどうでもいいって思ってんのは、俺以外の連中だけだ。どうせ呪術師なんか何の役にも立たないってな……」
お前の生死……? 呪術師……。
……貴桐さんを……探していた……?
十数人の男たちを引き連れた男は、貴桐さんに鋭い視線を向けて言葉を続ける。
「だが……その呪術師がどれだけ危険な存在か……俺とお前なら分かるだろ? なあ、タカ……いや……貴桐」
「ははは……」
余裕にも笑う貴桐さんは、前に歩を踏み出すと男の前に立ち、皮肉に言った。
「危険ねえ……? 使い方を誤ったらそうなるだろうな。だが……お前、呪術師だったっけ?」




