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第50話 逆

 「これでいいんだろ……侯和」

 貴桐さんは、そう言って侯和さんを振り向いた。

 侯和さんがゆっくりとこっちに歩み寄って来る。

 新たに描かれた喚起法円を眺めると、静かに笑みを漏らして呟く。

 「……再構築されたか」

 再構築……。

 「ブリコラージュ……したって事ですか……?」

 僕の問いに貴桐さんが、ふうっと長く息を漏らした。

 「……貴桐さん?」

 複雑な心境なのは感じ取れた。それは僕も同じではあった。

 綺流と繋がる印をここに手に入れたとしても、それが終着点な訳じゃない。

 ここからまた始まるんだ。

 「……巡り合い……か……」

 貴桐さんは、円を見つめたまま、ゆっくりと言葉を吐き出した。

 「何処かで流れが変わっても……必ずそこに行き着くようになっている。避けて通る事自体が無理なんだろうな……」

 「……貴桐さん……」

 貴桐さんは、肩越しに僕を振り向くと、ふっと静かに笑みを見せた。

 「お前は一つだけ、呪いを間違っていたな」

 「え……?」

 何処で……? いつ……?

 「侯和に聞くといい」

 少し焦る僕の肩をポンと叩くと、貴桐さんは侯和さんに(めくばせ)をした。

 侯和さんの視線が僕に向く。

 「一夜……」

 その目は、切なげにも悲しそうだった。

 「ごめんな。重いもん……背負わせちまった」

 僕は、首を横に振った。

 「謝らないで下さい。自分で決めた事です。僕がそうしたいと思った事です。だからそんなふうに思わないで下さい」

 苦笑になったかもしれないが、笑みを見せながらそう答えた僕に、侯和さんは静かに二度頷いた。

 苦笑になったかも、と思ったのは、そう答えている自分の言葉の方が、自分の内面よりも上に行っていると気づいていたからだ。だから僕が自分で言った言葉は、自分自身に言い聞かせている……そう気づいていた。

 だから貴桐さんも、僕が間違ってたって言ったのかな……。

 「僕……気づいた事があるんです。綺流が現れないと思った瞬間に、自分の力量の後悔よりも、綺流に対する怒りの方が大きかった……そしたら、綺流が現れた。……足りていないって言われました。そして……」

 僕は、侯和さんと貴桐さんを見ると、言葉を続ける。

 「善悪の判断は継承者にある……と。だから僕は、その判断が正しく出来るよう、自分本位な感情に支配されないようになります」

 自分に出来ないと思ったら、力を貸してくれないからだと綺流のせいにした。

 怒りに任せて、全てを壊してしまいたくなった。

 少しずつ、少しずつでも築き上げてきたものまで、無駄になってもいいと投げ出したくなった。

 これじゃあ……綺流が言ったように、足りていないよ。こんな思いじゃ、誰も救えない。


 僕は……。

 侯和さんたちと初めて会った時の事を頭に浮かべた。


 『僕は、これでも呪術医なんだっ……!』


 「僕は、呪術医なんです。だから判断を誤ってはいけないんです」

 侯和さんは、そう言った僕の両肩に手を置くと、僕を真っ直ぐに見てこう言った。


 「一夜……『大丈夫』だ」

 その言葉に僕は、驚いた顔で侯和さんを見ていた。


 大丈夫という言葉は、使う事の出来た唯一の呪い。


 「()()()()大丈夫だよ、一夜」

 繰り返されるその言葉に、貴桐さんが言った言葉の意味が分かった。


 壊れてしまいそうな心を『麻痺させる呪い』を掛けた……。

 だけど……。

 僕の中の鼓動が音を立てる。熱いものが湧き上がって来るような感覚が、胸を震わせた。

 ……真逆だった。

 これから先に向かう為の自信。不安さえ消してしまうような穏やかな思いが安心を伝えた。


 僕は、貴桐さんを振り向くと、貴桐さんは二度頷きを見せた。

 そして、ニヤリと笑みを見せると僕にこう言った。


 「な? 間違っていただろ?」


 僕は、その言葉に笑って頷いた。


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