第4話 弱者
冷たくも言った僕に、綺流は楽しそうにも笑みを浮かべる。
『僕の事は……知らない方がいい』
「……そうですね」
綺流は、そう答えてクスリと笑った。
僕は、そんな綺流を横目でちらりと見ると、自分の掌を見つめた。
「何か、お気になる事でもおありですか」
「……ああ……うん……ちょっとな……」
そこにはないもの。
それはそう簡単に手に入れる事など出来なかったものだ。
ブリコルールが生んだもの……。
医術にしたって、呪術にしたって、人が出来る事には、限界がある。
医術の限界は呪術を巻き込み、医術の延長を呪術で補っただけの事だ。
それは所詮、心理的不安を解消するだけに過ぎなかったが、一日でも長く生き延びる事が出来たなら、呪術という神秘に縋らずにはいられないのが人なのだろう。
そうして生まれた呪術医は、この上ない権力者となり、いつの間にか出来上がった組織が、ヒエラルキーを作り、支配を強めていった。
そこから外れる者は、個人主義者であって、認められる事はなく、既に権力を手にした呪術医が、どれ程の能力を持ち合わせていたかなど不鮮明ではあったが、その権力に抗う事は出来なかった。
例え、そのやり方が間違っていると分かっていても、組織に立ち向かう勇気など持っている者などいなかった。
弱者は強者に、その信念までも捻じ曲げられる。迫害という名の元に。
「……その呪術は、犠牲の上に成り立っていた。一人助かれば、一人は死ぬ。二人助かれば、二人死ぬ……まるで死の順番が決められているように繰り返されていた。次は誰の番だと……。だけどね……病に苦しむ者は、一日でも楽に生きられる日が来たなら、それを奇跡だと呼ぶ。でもそれは、自分が生きる一日が、誰がが生きられなかった一日なんだよ。でもね……そういった感覚は……麻痺していくんだ」
「それを……見つけましたか。犠牲のない呪術を」
「……どうだろう。分からない。一つ言える事は、誰かを助ける為に誰かを犠牲にするという考え方は、僕にはないという事だ」
「……そうですか」
「僕は、あいつらが言う個人主義者だ。だから狙われたんだろう」
「そのようですね」
だからこそ、立ち向かえる力が欲しかった。
『目覚めろ……! 目覚めろっ……! 目覚めて超えろ……!』
あるはずのないものだった。
そう……。
僕が僕を使い果たすまでは。
「綺流……もう一度、見せてくれないか」
「……私は構いませんが、見たくないのではなかったのですか」
綺流は、僕を試すような目線を向け、クスリと笑う。
横目で綺流を見る僕は、フッと静かに鼻で笑う。
「……成程……。そのお変わりよう……ますます興味を抱きます。……いいでしょう」
綺流の手がスッと動く。
再度、映し出されるものは、僕の記憶の繰り返しだったが。
「あははは……」
笑いだした僕に、綺流の目線が僕へと向いた。
「どうされましたか」
僕は、目の前に映し出される、あの時の僕の姿をじっと見つめながら口を開く。
「……ハズレ……か」
真っ直ぐに前を見据える僕。綺流の視線を感じていたが、振り向かずに言葉を続けた。
「そう思うなら……後悔させてやろうか」
目の前の僕を映した自分の目を、じっと見つめながら言葉を続けた。
「弱者程、地の底を知る者はいない。地の底を知った弱者は、光を見るの為の術を知る」
そう僕が答えると、僕を見る僕の目が、蒼く光った。