第48話 答
僕と貴桐さんは外に出た。
やってみるとは言っても……。
僕は、隣に立つ貴桐さんを振り向く。
「なにで……描くんですか……?」
率直な疑問だった。
ただ描けばいいってもんじゃないよな……。
それに……塔で会った圭は、血を使っていた。
確か……貴桐さんは……。
初めに見た時は、足を地面に滑らせながら描いていた。
そして侯和さんの時は、貴桐さんの声が響いた後に、地面から浮き上がってきた。あの時、貴桐さんは足を使わずに描いたって事だ。呪文だけで……? 呪文だけだったよな……それで円を描くなんて、凄い呪力だ。
ああ、でも貴桐さんは……。
『俺は、そこにないものを使う』
そう言っていた。
僕が喚起法円を描いて、それに呪力を持たせる事が出来るかどうかと思うのも……。
ここには何もない。
ただあるのは、貴桐さんも言ったように、頭の中に構築した知識だけだ。
「使うのは、こことここ」
貴桐さんは、そう言いながら自分の頭と胸辺りを指差した。
「はい……」
つい、気の抜けたような返事になってしまった。
「なんだよ?」
「貴桐さんみたいな威力っていうか……そういうの……」
貴桐さんが描いた喚起法円からは、光が放たれていた。
あの威力は、やっぱりそれだけの力が込められていた訳だから……もし僕が描いた喚起法円から光が放たれなければ、何の呪力もないと証明されてしまう。
貴桐さんの呆れた溜息が流れた。
「お前さあ……考え方が上に飛び過ぎじゃねえ?」
「え……いや……でも……やっぱりそういうのないと……ダメなのかなって……」
「お前の目標、そこに置くな」
笑みを見せた顔で、貴桐さんはそう言った。
僕は少し、その言葉に理解が遅れた。
だって……貴桐さんみたいにって思ったのは、本当だったから。
でも、次の言葉で直ぐに理解した。
「今から、これからやる事は、俺と同じ事じゃない。お前がやろうと思った事だ」
そうだった。
僕が気づき、理解し、それをやると決めた。
どうすればいいかは、自分が分かっている。だから目標は自分の中にある。
「最終的なイメージ……頭に叩き込んでおけよ」
「はい」
僕は、地面に石で印と同じ円を描いた。
そこに描かれていた文字も、正確に。
何が始まったんだと、侯和さんたちも外に出て来た。
「おい……貴桐……」
少し心配そうな侯和さんの声が聞こえた。きっと僕が何をやろうとしているのか分かったのだろう。
「余計な事は言わなくていい」
貴桐さんが、冷たくも侯和さんにそう言った。
「だって……お前……反対じゃなかったのか」
「お前、うるせえな。始まっちまったもんはやるしかねえだろ。大体、侯和、お前がなあ……ああ、もういいや。お前を今更、責める気もない。取られる前に取っちまった方がいい状況だっていうのは、俺だって分かってる。塔にいる圭……あいつはやばい。あれは姿とある程度の知識を持ってる圭の分離……塔は、分離して圭が隠したものを探してる。それは当然、綺流と繋がる為に必要なものだろう」
「貴桐……」
「圭は綺流と契約を交わしているんだ。塔にしてみれば圭の体は、絶対に必要だ」
「……ああ」
「もし……いや。圭がどうしてそうしたのかを考えたら、自然に答えは出たよ」
貴桐さんが侯和さんに言った言葉は、驚く事もなく、理解出来たんだ。
外に出る前に貴桐さんと話した中で、そう答えに行き着いた。
僕の中にある圭の心臓。
塔で見た圭……勿論、生きていた。
『それを持っていてくれれば……必ず……必ず俺は戻るから』
「塔にいる圭の心臓……別人のだろ」
だから僕は、やらなくちゃいけない。
絶対に。
僕は、円を描きながら呟いた。
「約束だからな……圭……」




