第47話 呼
「やってみるか」
貴桐さんの言葉に、僕は躊躇った。
貴桐さんが僕に何をやらせたいのかは、分かっていた。
「……」
言葉も返せず、ただじっと貴桐さんを見ていた。
「分かったんだろ? だったらやってみるかって言ったんだ」
「やるって……」
「お前の胸にある『印』……それを描け」
「これと同じものを……? 喚起法円としてですか……? だけど……」
……出来る自信がない。そう伝えれば、自分が納得出来る答えが返ってくるだろうか。
いや……それは単に言い訳だ。
それでもこの間、色んな事を考え、自分なりに構築してみたが、後少しのところで繋がりが消える。ああそうか、と思っても、次に来るのは何故、だった。そして、僕が構築出来そうだったものが、バラバラになった。
それで今、圭が何を使ったのかに気づいても、これを僕の頭の中で構築し、繋げられる自信がなかった。
……僕は、頭の中で考えて、その考えたものを行動に起こすまでに至っていない。
確実だと思える自信のなさが、そうさせなかった。
最後にやるのは自分……。
貴桐さんたちから色々と教えて貰っても、この手に掴む事が出来なかったら……貴桐さんたちを失望させてしまう……そんな不安さえあった。
貴桐さんが診察室を出る。
後を追わない僕を、貴桐さんは振り向いた。
「……繋がらない……か?」
「……貴桐さん……」
やっぱり……侯和さんが言っていたように、貴桐さんに隠し事なんて出来ないよな……。
「……はい」
僕は、返事をすると俯いた。
貴桐さんが僕へと引き返す。
僕の前に立った貴桐さんに、僕は俯いたまま答える。
「……圭と会った時……塔にいた圭は、喚起法円を描いていました……人の……血で……」
「その話は聞いただろ」
「同じ……だったと思います……この印と……」
「それで?」
言いづらそうに少しずつ言葉を漏らす僕に、苛立ったような貴桐さんの低い声が降りた。
「『下等なら無用』」
貴桐さんのその言葉に、顔をあげた。
顔をあげた瞬間に受け止める、真っ直ぐな目は強く、僕の不安を捕まえる。
「それは俺も同感だ」
そうなんだ……その言葉が引っ掛かっていた。
あの言葉の意味は、喚起の失敗を意味させていた。
それ以下の能力なら、いらないと。
もし……失敗したらと、僕もあの言葉を使うのだろうか……。使うのだろう。そう思うのも嫌だった。
「……貴桐さん……僕は分からないんです。そこに綺流がいるのに、他に何を呼び寄せようとしているのか……だけど綺流は、圭に従っているとも思えなかった。バラバラなんです。繋がらないんです」
「だろうな」
「え……貴桐さん……分かっているんですか……?」
「分けたって言ってただろ」
「はい」
貴桐さんは、僕の頭に手を置いた。
「お前が持ってるんだ」
「……はい。それは分かっています。だけど……」
「印と圭の心臓……」
「……はい」
どうしたんだろう……貴桐さん……。
僕が分かっていると答える事を言ってくる。そんな事はもう、何度も聞いたし、答えているのに……。
「お前は、圭を下等だと思うか?」
「そんな……思う訳ないじゃないですか」
「じゃあ、自分を信じるんだな」
「貴桐さん……?」
「圭は、お前に自分の一番大事なものを渡したんだ。それがないと生きられない、大事なものをだ」
「……はい」
「やってみろ。何を使ったのか分かったんだろ」
「でも……」
「咲耶から聞いてるだろ。分離したものを何処かに隠したんじゃないかと。圭は何処に隠したと思う?」
貴桐さんは、僕の頭に置いた手を下ろすと、僕の胸を指差した。
「後はお前の心次第だ。頭じゃない」
考えた。頭で考えて、心で考えた。
あの時……僕を結果的に助けてくれた綺流。
圭と会っても、圭の心臓は反応を見せず、静かだった。
なのに綺流を目の前にした時は、苦しいくらい鼓動が強かった。
喚起法円の中に入った後……最後に見た圭は、僕が知っている圭で……。
……気づかない……。
『……こんな状態で気づかないようでは……使えませんね……』
綺流の言葉を思い出し、ハッとする。
それに繋がるように圭の言葉が思い起こされた。
『俺は……いつでも自由になれるから』
使った呪法……。
統御と懇願。
バラバラになった知識が構築されていく。
呼び出すものは……。
僕は、貴桐さんに強い目を向けて言った。
「やってみます。だって……」
僕の言葉に貴桐さんは、ニヤリと笑って僕の頭をポンと叩いた。
「綺流の中に……圭が隠したものがある」




