表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/161

第43話 悲痛

 「僕が継承者になればいいんですよね」


 貴桐さんと咲耶さんは、そう答えた僕を真っ直ぐに見つめた。

 二人が向けるその目は強くもあったが、僕を不憫にも思っているようにも見えた。

 「……侯和。入って来い。お前には、一夜に説明する義務があるだろう」


 貴桐さんは振り向く事はなく、侯和さんにそう言った。

 僕からは侯和さんの姿は見えなかったが、貴桐さんはずっと侯和さんが部屋の外にいる事を知っていたのだろう。

 「……侯和……不完全だった『彼』の『材料』はお前だっただろーが……」

 それでも侯和さんは、返事をする事もなく、部屋に入って来る事もなかった。


 「()()()()()()()()()()()()()()()精霊の継承者に、一夜はなると言っている。説明しろ、侯和。それを果たすのがお前の責任だ」


 ……貴桐さん……?

 「侯和ーっ……!」

 中々部屋に入って来ない侯和さんに、貴桐さんの苛立った声が響くと、侯和さんがゆっくりと入って来た。

 「……貴桐……お前だって、宿が見つかった事に安心しただろう……」

 「……これじゃあ、話が違う」

 「本物の宿が見つかれば……より完全な……」

 「それが『綺流』だとなれば、話は別だ……!」

 「貴桐……」

 「お前だって分かっている事だろう。精霊の姿は見えやしない。それを等為や可鞍のように人の姿として、まるで人のように見る事が出来るのは、当然、力があってからこそ……そして精霊を持つ事が出来るのは、思い……魂と心の重なりだ」


 綺流という名が出ただけで、こんなに穏やかじゃなくなるなんて……。


 「だから……心臓なのか。だから心臓なんだろう! 宿がどう動くか知らない? 圭の事は知る事は出来ない? 判断の是非は宿にあるってお前、言ったよな? それはこういう事だったのか? ただでさえ酷な状況だっていうのに…… ふざけるなっ!」

 「貴桐さんっ……」

 僕は、侯和さんに掴み掛かった貴桐さんを止めに入ったが、貴桐さんは侯和さんの胸元を掴んだまま離さなかった。

 「……ごめん……貴桐……」

 「俺に謝るな……」

 「ごめん……」

 「謝るなっ……! 侯和っ……!」

 貴桐さんは、侯和さんの胸元をグッと掴んだまま、悔しそうな顔をして頭を垂れた。

 「俺に……謝るな……」

 「……ああ」

 ……貴桐さん……侯和さん……?

 二人が何かを重く抱えた様子に訝しがる僕は、咲耶さんが代わりに答えてくれるかと思い、咲耶さんを振り向いた。

 僕と目が合う咲耶さんは、切なそうな表情で、横に首を一度だけ静かに振った。

 僕は、また貴桐さんと侯和さんに視線を戻す。

 貴桐さんは、頭を垂れた姿勢を変える事はなく、侯和さんを掴む手は怒りからなのか、震えていた。

 そして貴桐さんは、目を閉じると、苦しそうにも絞り出すような声でこう言った。


 「侯和……お前は……綺流を扱える継承者を探していたんだな……」


 貴桐さんの言葉に侯和さんは答えなかったが、貴桐さんは言葉を続ける。

 「精霊が何になるかは願いで決まる……圭は確かに綺流を望んだのだろう……元々は宿が持っていた精霊が宿に戻り、継承者になるというのなら扱えるようになるだろう。だが、圭はそこまで本当に望んでいたか? 一夜だって……!」

 貴桐さんは顔を上げると、侯和さんを睨むように見た。


 「綺流は納得出来ない……アレに『心』を重ねたら……何も感じなくなるぞ。人を殺す事も……何の躊躇もない。それを一夜にさせるつもりか」


 少し間があいた後、侯和さんはゆっくりと口を開く。


 「そうなっても仕方がないんだ……」

 侯和さんは、そう呟くと悲しげな目を僕に向けて言った。


 「声にならない悲痛な魂が残した苦しみと憎しみが……その思いを遂げてくれと『宿っていた』んだから」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ