第42話 継承
継承者の願いで精霊の性質が決まる……。
それは圭が望んだという事。
攻撃を基とする……綺流を。
「圭に会ったか……」
「……はい」
俯く僕に貴桐さんは、そうかと呟いた。その声は、僕の心情を察しているようで、静かな低い声だった。
きっと貴桐さんは、圭がどんな状態であの塔にいるのかを知っていたのだろう。
「一夜……継承者と宿は少し違う。咲耶のように宿自身が精霊を持つのと、宿から精霊を継承するのとでは、精霊の力を利用出来る量が違う。だから『契約』するんだよ。その力を最大限に利用する為にな」
「それに誰もが継承出来るとも、契約出来るとも限りません。そして契約出来たとしても、完全に利用出来るかどうかも分かれるところです」
「継承……契約……」
理解したつもりでいたはずだったが、その理解の少しズレを感じた。だけど咲耶さんが言っていたように、綺流を僕は扱いきれない……その理由は分かった気がした。
僕は宿であっても、その精霊を継承したのは圭という事なんだ。
だけど……契約する為に差し出した心臓は……僕の中にある。
貴桐さんが言った言葉を思い出した。
『お前の中にある圭の心臓……それは圭が『契約』の為に差し出したものだ』
『それがお前の中にあるんだ。理解しろ』
……理解。それって本当は……。
『契約に差し出したものを、お前が持っているんだぞ』
僕が……持っている。
「……貴桐さん……」
僕は、顔をあげると、貴桐さんを見た。
貴桐さんは、真顔で僕をじっと見ながら、言葉を待っている。
「……圭は……別人のようでした。僕が知っている圭じゃない。だけど……」
思い返される、平然と口にした冷酷な言葉と態度。
……だけど。
……涙が……止まらなくなった。
『…… 一夜……』
「……僕の名を……呼んだんです……」
あの時の圭の表情が目に焼き付いて、声が耳から離れない。
互いに伸ばした手を掴む事が出来たなら、圭と共に戻って来れたのだろうか。
そんな後悔が胸を苦しくさせたが、圭は伸ばした手を掴めない事は知っていた……いや、掴むつもりはなかったんだ。あの涙は、僕に『ごめん』と伝えていた……。
だけど……本当は助けて欲しいと言いたかったんじゃないのか……? 圭……。
僕は、圭と今の自分の思いを重ね合わせて、考えた。
継承者の願いで精霊の性質が決まる。
綺流を呼び出したのは圭だ。
圭は……。
塔に復讐する気だったんだ。
自分の両親を殺した……あの塔に。
そんな思いを僕に隠して、行ってしまったんだ。
何度も思った。
なんで何も言ってくれなかったんだって。
そう思うのと反対に、言ってくれていたとしたら、あの時の僕に何が出来ただろうとも思った。
……結局。
圭を引き止めるという言葉は、同じだったんだ。
行くなって、僕は言うだけだった。
一人で立ち向かおうとした圭に、今の僕は何が出来る……?
主様と呼ばれていた男は、綺流の継承者を探しているんだ。
きっと綺流の存在は知っているのだろう。ただ、扱える者がいない。
綺流も何を考えているのか分からないし、敵なのか味方なのかもハッキリしない。
だったら……。
「僕が……継承者になればいいんですよね……?」
貴桐さんと咲耶さんを見つめながら、僕はうっすらと微笑んだ。
「一度、僕から離れてしまった綺流を、僕が継承者として繋がればいいんですよね……? それが僕には出来る……だって僕は『宿』なんだから」
継承者の願いで決まる精霊の性質。綺流は圭が願った精霊だ。
そしてあの時、聞いたあの言葉。
『それで……圭が作り上げるものが完成しますから』
あれは。
僕の事だ。




