第41話 覚悟
「咲耶さん……咲耶さんは、僕に『彼』と会って欲しくなかったように感じましたが……どうしてですか。咲耶さんは、等為さんと可鞍さんと共にいる……だったら僕も彼と会っても疑問はないはずです。どうしてですか」
咲耶さんが僕を見る目は、変わらなく悲しげで、吐き出す言葉は、僕に言うのが辛そうにも聞こえた。
「精霊とは守護神のようなものです。その者を守る為にその者の側にいる……ですが、守られるという意味は、一つではありません。一夜さん……あなたが持とうとしている覚悟は、あなたを守ろうとする精霊を『利用』する覚悟に出来ますか?」
「利用する覚悟……」
僕は、咲耶さんの言葉を聞いて、綺流が僕の体の中に入り込んだ時に思った事が頭に浮かんだ。
利用しようと思った……だけど……僕にそれが出来る自信はなかった。
僕と綺流は姿は似ていても、その知識体系は……なんだか少し……。
「違うものだった……」
「一夜さん……? 違うって何がですか?」
「僕と圭は同じ知識体系だと……だけど僕の中にいたはずの彼は……似ているようで……少し違っているように感じたんです」
「扱いきれない……」
「え……?」
咲耶さんは、真剣な目を僕に向けて言葉を繰り返した。
「扱いきれていないんです。あなたから離れた精霊が、あなたの思考より上をいく……そういったところでしょう」
「僕の思考の上を……?」
「ええ。ですが……結果は、間違ってはいなかったはずだと思いますが、どうでしょうか」
「あ……」
……確かに……綺流があんな行動を起こさなければ、僕はここに戻って来れなかったかもしれない。
それに僕は、なんだかんだ思考を巡らせて悩んでも、結果的にこれで良かったと思っている。
「柯上 圭……彼がそう望んだのでしょうね」
「圭が……?」
「あなたの中に宿っていた彼を柯上 圭は呼び出した……不完全であった彼を侯和さんが手を貸し、そしてあなたから気を一つ持って行き、より完全な状態になった訳です。そして本物の『宿』であるあなたとまた会った事で、あなたが『継承者』に相応しいか確かめられたかもしれません」
「継承者……」
『精霊使いの継承者』
「彼の名を聞きましたか」
「はい。綺流と言っていました。そう呼んでいたのは圭だけでしたが……他は先生と……」
「……綺流」
そう呟く咲耶さんは、眉を顰めた。
「咲耶さん……?」
「そうですか……綺流ですか……」
「どうしたんですか……何かあるんですか……?」
なにやら不穏を感じさせる空気感に、貴桐さんが部屋に入って来た。
「……貴桐さん……」
貴桐さんは、もう話すしかないだろうと、咲耶さんに眴をした。
咲耶さんは、目を伏せると静かに頷いた。
貴桐さんが僕を見ながら、口を開いた。
「死者が残す魂は、その者を守る為に精霊となる。だが精霊は、継承者の願いで精霊の位置が決まるんだ」
「精霊の位置……?」
「ああ。言わば、精霊の種類……性質だ」
「性質……」
「等為や可鞍のように守護を基とする精霊、そして……綺流は」
貴桐さんが真剣な目を向けて言う言葉に、僕は返す言葉を失った。
「攻撃を基とする精霊だ」
それは圭が初めから攻撃を目的として塔に入ったと……言っているようなものだった。




