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第40話 感傷

 「……そうですか」

 「驚かれないのですね」

 「……見てませんから……それに……髪の色ももう変わってますし……なんか今更……ですよね」

 苦笑が漏れた。

 「……咲耶さん」

 「はい」


 『塔の中で『彼』と会わないよう願っています』


 あの言葉は……。

 「分かっていたんですよね……? 咲耶さんは」

 彼と会えば、こうなる事を。

 「でも僕は……これでいいんだと思う事にします」

 「…… 一夜さん」

 「僕は『宿』で、『彼』を宿していたのは僕なんでしょうから」

 僕は、ベッドから下りて窓辺に立つと、月を眺めながら口を開く。

 「塔が呪術医を集めて、表向きは健全な治療だと思わせているけれど、そこに集まるペイシェントは『材料』に過ぎない。塔に属さない呪術医を排除するのは、その『材料』を逃さない為……助けを求められる場所を作らないという事ですよね……。そして、それが間違いだと言える者を作らない為……それを救える者も作らないという事」

 僕は、ゆっくりと咲耶さんを振り向いた。

 「奇跡を起こせる者を作らないという事ですよね。それが出来るのは塔だけのもの……それを決定的にすれば、全ては塔の思いのまま。いづれこの世、全てが塔になる」

 咲耶さんは、椅子に座ったまま、僕を見ていた。その表情は、僕の言った言葉を認めていた。


 「……等為(らい)可鞍(かくら)

 咲耶さんの呼び声に、等為さんと可鞍さんが部屋に入って来た。

 二人は、咲耶さんの後ろに立つと、咲耶さんの肩に片方ずつ手を置いた。

 目を閉じる咲耶さんは、一呼吸、間を置くと目を開けた。

 「……咲耶さん……」

 目を開けた咲耶さんの目の色が、赤い光を見せた。

 明るい茶色だった髪の色は、金色に輝き、それは今の僕と同じであると証明していた。

 じゃあ……等為さんと可鞍さんは……。

 咲耶さんは、椅子から立ち上がると僕の前に立った。

 「僕も『宿』なんです。何故、そうなったのか、お教えしましょうか」

 静かに笑みを見せて話を始める咲耶さんの言葉を聞く僕は、少し開いたままのドアの隙間から貴桐さんが辛そうな表情で聞いているのが視界に入っていた。


 「僕たちは生き残りだと言いましたよね……」


 『医術に介入しない呪術師は、災いをもたらす悪人同然……僕たちは、その生き残りなんです』


 「そもそも僕たち呪術師は、願望を叶える為の祈祷や占術を目的としていました。それが的中すれば当然、人々の信頼の目は厚くなり、その神秘は誰もが欲した事でしょう。ですが僕たちが持つ呪術とは、他にも大きく分ければ、類感呪術、感染呪術があります。聞いた事があるでしょう。直接、手を下さなくても、相手を苦しめ、殺す事が出来る……と」

 「……咲耶さん……」

 「勿論、人に対して使う事はありませんでしたが、どうですか? これが人の病を作った原因だと言われたら……見方が真逆に変わるんですよ」

 それは自分の持っている力が、善悪の天秤を掛けられて、悪になりたくなければ塔に属せと脅迫されていた。

 「それを拒否した僕は……目の前で……家族も仲間も……愛する者も殺されたんです」

 咲耶さんは、窓の外から見える月に視線を向けて、悲しげに答えた。

 そして僕に視線を向け直すと、咲耶さんはこう答えた。


 「僕が生きているのは『宿』だから……それは……」

 だから……僕は、生きている……。


 「死んだ者の魂が僕の中に『宿った』からです」


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