第29話 覓
体に何の症状も現れない内は、まだ大丈夫だと他人事のように構える。少しずつ、いつもと違う体調に気づくが、日常生活に支障がなければ、気のせいだと信じようとしない。
そして、ギリギリのラインに立って初めて気づく。初めて本気で思う。
死にたくないと。
その焦りは、刻む時に急かされ、自分の代わりになる者を探す。
自分の『部品』を。
「…… 一夜……貴桐か、俺を助けたのは」
侯和さんが目を覚ましたのは、翌日の夜だった。
ベッドの上で天井を見つめる侯和さんは、自分が目を覚ました事を受け入れたくなさそうだった。
「俺は助けた訳じゃない。逃げようとする奴を捕まえただけだ。逃げんじゃねえよ。俺はまだ、諦めた訳じゃねえ。それに、残った奴らの事なんかどうでもいいなんてな、お前、死んだら地獄に落ちるぞ。まあ、その後に俺が死んだ時には、上からお前を見下ろしてやるけどな、ははは」
「貴桐……」
貴桐さんの皮肉めいた言い方に、侯和さんは苦笑した。
「もう一度……始めればいいだろ。それが出来る体、そこにあるんだからよ」
「体一つあったって……何が出来るんだ……結局、何も出来なかったから、こんな様なんだろ……俺は、何も見つけられない。ただ黙って見ているしかないんだよ……」
侯和さんの悲観的な言葉に貴桐さんは、少し苛立ったように息をついた。
「お前……何の為に呪術医になったの?」
侯和さんは、天井を見つめたままで、言葉を返さなかった。
「じゃあ、何にもするな。黙って、ただ黙って見てろ」
貴桐さんの目は鋭く、口調も強かった。
……貴桐さん。
侯和さんの気持ちも分からない訳ではないけど、貴桐さんの気持ち……分かって欲しかった。
そう言いたかったが、僕は言葉を飲み込んだ。
僕が言う事じゃない……。
侯和さんの目が貴桐さんを見たが、貴桐さんは侯和さんと目線を合わせなかった。
そして貴桐さんは、侯和さんに背中を向け、部屋を出て行こうとする。
……気まずいな。
これからみんなで力を合わせられたらと思っていただけに、切なくなった。
貴桐さんと侯和さんとの距離が開いていく。
部屋を出る貴桐さんは、肩越しに侯和さんを振り向くと、言葉を残してドアを閉めた。
「いい気分になれるか? 死人を見送るのとおんなじだ」
侯和さんは、天井を睨むように見ていたが、自分の手を顔の上でギュッと握ると、勢いよく起き上がり、ドアへと向かった。
「貴桐っ……!」
侯和さんがドアを開けると、貴桐さんが前に立っていた。
「……貴桐」
驚いた顔の侯和さんに、貴桐さんは腕を組むとニヤリと笑みを見せる。
「どうせ黙って見てられねえんだから、グダグダ言ってんじゃねえよ、侯和」
……なんだか。
なんだかんだでも、いい関係なんだなって思った。
「探し求めて手に入れろよ、侯和」
貴桐さんの言葉に侯和さんは、貴桐さんの両肩を掴んで頭を垂れたまま、分かったと頷いた。
「お前らの求める、本物の呪術医ってヤツを俺にも見せてくれ」




