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第2話 存在

 傷一つない体。あれだけのダメージを与えられたというのに、傷痕さえ残っていない。

 体の痛みもない事も、今更ながらに気づく。

 ……何が……起きた……?

 「あなたは……」

 僕は、彼の存在が何者なのかと、それを最初に聞きたくなった。

 僕がこうして生きてここにいる事も、彼のその存在に関わりがあるのだろう。そう思った。

 僕と彼の繋がり……。精霊使いの継承者……僕が……?

 だとしたら彼は……。

 僕は、彼の姿を改めてよく見る。

 ……確かに……そうだよな。さっきの力だって……。

 長く伸びた白い髪が、陽の光に反射して、キラリと光る。

 透き通るような白い肌。繊細な顔立ちは何処か神秘的で、見る者を惹きつけるだろう。

 真っ直ぐに向けられる蒼い瞳に、吸い込まれてしまいそうだ。

 僕の目線をじっと捉える彼の目に、小さく息を飲んだ。

 あまりにも僕が彼を見過ぎたからだろう。

 彼は、ゆっくりと瞬きをすると、クスリと静かに笑った。

 「あ……その……」

 戸惑う僕に、彼は笑みを見せたまま、答える。

 「綺流(きりゅう)とお呼び下さい。藤邑 一夜(ふじむら いちや)……さん」

 ……僕の名を……。僕を知っているのか……? なんで……?

 「どうして……僕の名を……」

 「あなたが私を呼んだのですよ」

 「僕が……あなたを……?」

 あ……。

 彼の言った言葉が、頭の中で繋がっていく。

 僕が……精霊使い……。じゃあ……彼は……やっぱり。

 「理解頂けたようですね」

 彼は、満足そうに笑みを漏らした。

 「……あなたが僕を……助けてくれたのか……。でも……僕は……あなたを呼んで……これから何を……?」

 何を……するというのだろう。

 何をやるというのだろう。

 何を……やればいいのだろう。

 そう問いながらも、僕は分かっている。答えは出ている。

 助かったからって……それで終わりじゃない。終わりでいいはずがない。


 耳に残って離れない言葉。

 悔しかった。苦しかった。

 ……それでも掴めやしなかった。

 指先一つ動かせなかった事に、後悔さえ消えていった。

 あれ程の苦しみを与えられても、立ち向かえる力が僕にはなかった事に。

 自分の無力さが、僕の存在を消していくようだった。

 何もないなら、最初から足掻くだけ無駄だと。


 『なんだ……これもハズレか。残念だな』


 ……みんな死んだ。殺された。

 そして、あいつは何かを……誰かを探してる。

 その度に、あの時と同じ事が起きているんじゃないだろうか。

 あいつの目的はなんだ……?

 あいつを探さなくては……。


 「答えは出ているようですね」

 「あ……」

 僕の表情に表れたからなのか、だけどまるで僕の心を読んでいるかのようだ。

 彼が精霊なら、隠し事など無理なんだろう。

 「あなたのお気の召すままにお使い頂ければ……と」

 「……僕の気の召すままにって……何……」

 綺流は、クスリと笑みを漏らすと、僕に答える。

 「どのような事であろうと、あなたが望む事全て……思いのままに」

 じっと見つめるその蒼い瞳が、冷ややかに光った。

 「僕が……望む事全て……思いのまま……?」

 驚きながら言う僕に、綺流は笑みを浮かべてこう答えた。


 「ええ。あなたが殺せと言えば、殺します」


 冷酷にも言ったその言葉に、僕は息を飲んだ。

 言葉に詰まる僕に、彼は続ける。

 続けられた言葉は、僕の揺れ動いた心を固めるように強く響いた。


 「勿論……躊躇なく」


 笑みを止めた蒼い瞳が、僕の目を捉えて離さない。

 僕は僕で、目を逸らすにも、何故か逸らす事が出来なかった。

 天秤に掛けた、二つの思いが僕を迷わせる。


 だけど……僕は、気づいている。

 どちらの心が重いかを。

 僕は、強い目を向けて、綺流を見た。

 綺流は、そんな僕の心など、見通しているのだろう。興味深そうにもクスリと笑う。


 僕が見た残酷は。

 僕の心の中に残って、植えつけられた。

 僕が与えられた苦しみは。

 僕の体に染みついた。


 「綺流……」


 僕は今。

 どんな顔をして、こんな言葉を言っているのだろう。

 今の僕の存在は。

 何者にでも敵う存在になったと言えるのだろうか。

 それでも僕は……。


 「僕が望む事、全て……思いのままに。僕が殺せと言ったら……殺せ。勿論、躊躇なく」


 ……今の僕は、本当に僕なのだろうか。

 そんな疑問が頭の中を掠めていった。

 だけどそれは、直ぐに消えてなくなった。


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