第23話 呼覚
目を覚ますと僕は、自分の家にいた。
自分の家、といってもここは、圭の家だが。
なにやら階下でカタカタと物音がする。
僕は、ベッドから身を起こして、階下へと下りた。
物音がするのは、圭の両親が診療所を開いていた時の診察室だ。
圭の両親がいなくなってから、使う事もなくなったが。
「何を……しているんですか?」
貴桐さんに従える男たちが、薬剤の置かれている棚で、なにやら調べているようだった。
「ああ……目が覚めましたか。すみません、勝手に」
男の一人がそう言って僕に頭を下げた。
「いえ……構いません。今はもう……使う事もないですから。それよりも、よくここが分かりましたね。僕……眠ってしまったようで……」
「貴桐さんは、思考が読めるんですよ」
「そう……なんですか……」
だから僕の頭を触ったのか。
……凄い人なんだな……貴桐さんって。
「柯上 圭……彼と共に過ごされていたんですね」
「……はい」
「それにしても……凄いですね。どの薬剤も独自で調合されている。ご存知でしたか? これ……」
男は、棚の奥の方から、薬剤の瓶を一つ手に取った。
「幻覚剤ですよ」
「……幻覚剤……?」
……そんなもの……置いてあったっけ……?
「ええ。ただ、使用頻度は少ないみたいですが。そうですね……この瓶が開けられたのは、一度きり……そんなところでしょうか」
「一度……?」
「それと……この幻覚剤……」
「え……なんですか……」
「何の為にどなたが作られたのでしょう……?」
「どういう……事ですか……?」
「シャーマニズムの概念では、トランス状態になる事で、超自然的存在との繋がりを持てると言われています。つまり……『精霊』と」
男の言葉に僕は、言葉を失った。
……まさか……これを圭が……?
「まあ……実際のところ、何処までが本当なのか、試す気にもなれませんがね……」
男は、そう答えて瓶を棚に戻した。
「圭は……どんな状況でいるんですか? 分離って言ってましたよね……? それってどういう事ですか?」
僕の問いに男が答える。
「能力の高い者は、構築している知識体系が他人には理解不能なんです。それを使えと言われても、理解出来ないものを使える訳がありません。それを分け与える為の分離…… 一種の催眠術ですね。他人の意識を他人に入れる。一時的なものでしょうけど。目が覚めた後は相当気分が悪いらしいですよ」
「催眠術って……そんな事を……」
「正直、本当のところは、実際に見た訳じゃないので、分かりませんけど……」
「一体、なんで……何の為にそんな事を……?」
「塔のトップが能無しって訳にいきませんよね?」
「どういう事ですか……それ……」
「僕が気づいたのは、塔のトップ……主様自体に、呪術医としての能力は低いんじゃないか……と」
「だから……他人の力を借りているって事ですか」
「確証はありませんけどね」
「あなた方は、それ程の知識を持っていて、貴桐さんは驚く程の能力を持っている……あなた方は、何の為にここまでの事を……? 塔に入って中を探っていたんでしょう? 見つかったら危険だと知っていながらも」
「そうですね……呪術医というものは、医術と呪術が一つになったものです。当然、呪術だけを行う、呪術師という者が存在したという事ですよ」
男は、うっすらと笑みを見せていたが、口にした言葉は、酷く残酷なものだった。
「医術に介入しない呪術師は、災いをもたらす悪人同然……僕たちは、その生き残りなんです」




