第22話 違動
起こる事が一つの事に結びついていっている事は、気づかずにはいられない事だった。
僕が塔に来た事も。
塔に来て、侯和さんたちに会った事も。
そして圭の事、彼の事。
僕の体の中に託された、圭の心臓。
これは圭が望んだ事なのだろう。
その為に貴桐さんたちが動いたのも、圭の思いのまま……。
貴桐さんが言っている事は、そういう事なんだと思った。
だけどそこには、誰もが自分でそう行動を起こそうと思い、動いた事であって、動かされていた訳ではなかった。僕だってそうだ。
なのにそこには、望むべきものが揃っていた……その結果に、引き寄せられているものの大きさを感じずにはいられなかった。
自分の意思はそのままに、そこに他人の意思が干渉し、関わった者の意思全てが一つになるようだ。
「……これから……どうするんですか」
行くあて……あるんだろうか。
だって……これは逃亡になるんだよな……彼らにとって。
侯和さんも貴桐さんも、塔を出たからといって、それでいいとは思っていないだろうし……。
「うーん……そうだな……」
侯和さんは、そう呟きながら貴桐さんに目を向けた。
貴桐さんは、何故か僕へと目線を向ける。
「お前、家、何処?」
「え……僕の……家……ですか……?」
それって……もしかして。
貴桐さんは、ニヤリと笑うと、僕の肩に腕を回す。
「じゃ、行こうか。お前の家」
「え……本気ですか?」
「勿論、本気」
「はは……そう……ですか」
「俺たち、行くところねえし。まさか、見捨てるとか言わねえよな?」
……その目力、凄い圧だな……。
「……分かり……ました」
ねえ……圭。
これも圭が望んだ事なのか……?
なんだか賑やかになりそうだよ……圭。
圭がいなくなって、ずっと一人だったから。
どうにかしようとしていても、僕一人ではどうにもならないんじゃないかって、本当は挫けそうになっていたんだ。
「ほら、早く行くぞ。夜が開ける前に動かねえと、誰に見られるか分からねえからな」
「貴桐……お前の行動力にはホントに敵わないな」
「このまま一夜と離れる訳にもいかねえだろ。それに……」
「……ああ」
「探し始めるよ、奴ら」
「……ああ。『継承者』をな」
……継承者……?
「なあ……侯和……これはお前の『望んだ事』……なのか?」
貴桐さんは、そう言いながら僕の頭にそっと手を触れた。
「……かわいそうに」
……誰が……かわいそう……?
「重いもん、背負わせやがって」
……それって……誰が……? 僕が……? 圭が……?
貴桐さんは、誰に言っているんだろう。
それがはっきりと感じ取る事が出来ないくらい、貴桐さんの呟きが、遠くに聞こえるようだった。
僕の頭に触れる手が、なんだか少し重くて。
その手の重さに押されて、思考を止められるようだった。
「あれ……? なんだか……眠くなって……」
「……貴桐……お前、一夜に……何を……」
「聞かせる気か? 残酷過ぎる」
……残酷……?
声が……遠くなっていく。
体の力が抜ける僕を、貴桐さんが抱えたまでは分かっていた。
遠くなっていく意識の中、ぼんやりと聞こえた貴桐さんの言葉は、僕の心には残らなかった。
「今はまだ…… 一夜に聞かせたくはない。それとも侯和……何も分からないままの一夜に、全てを背負わせる気じゃないだろうな? ただでさえ、心臓二つ抱えてんだ。死ぬぞ」




