第19話 闇偵
最初からそのつもりだったって……?
「立てるか?」
貴桐さんは、僕を起こそうと腕を回した。
僕は、貴桐さんに支えられながら、ゆっくりと立ち上がった。
「……どうして……ですか……?」
「何が?」
「あの嵐……貴桐さんなんでしょう……? もし……」
もし……僕が助けなかったら……。
「お前が助けなかったら、俺が殺してたって?」
なんとなく言いづらくて口籠った僕だったが、貴桐さんは僕が言おうとしていた事を口にした。
「……はい」
僕は、正直に頷いた。
「そうだな」
「貴桐さん……」
はっきりと答える貴桐さんに、僕は切なくなった。
貴桐さんは、そんな僕の顔を見てクスッと笑って言う。
「死に場所を選びに来たって言ったら、納得出来るか?」
「なんですか……それ……」
「下層階の最終的な使い道ってな、代用品なんだよ」
「代用品……?」
「ああ。だからな、侯和が圭や彼を上に上げるのに必死になるのも分かるって訳。はっきり言えば、臓器を持っていかれるって事。塔に貢献出来る唯一の術って訳だ」
「そんな……だけど……貴桐さんだったら……回避する事だって出来たんじゃないですか……? それだけの力、持っているんじゃないですか……?」
「あのなあ……あの塔にどれだけの人数がいると思ってんだよ? 僅かな人数が騒いだところで、どうにかなるもんじゃねえだろ。それが出来るくらいなら、あんな塔なんか建ってねえだろうが。中間連中まで辿り着いたとしたって、天辺に辿り着けなけりゃ振り出しだ。いや、終わりだな」
「だけど……そんな……死に場所だなんて……」
「俺たちが貴桐さんに言ったんです。俺たちは、ずっと貴桐さんと行動を共にして来たんですから……」
男たちの一人がそう答えると、貴桐さんは穏やかな顔で彼を見ながら答える。
「まあ……あれは見せ掛けで、本当はそのままズラかるつもりだったんだけどな」
「まさかあなたに助けられるとは思ってもいませんでした。正直、俺たちは、あの程度なら致命傷は避けられましたから」
「あ……そう……なんですか……」
ああ……だから貴桐さん、僕に行くなって言ったのか。
なんか……僕……。
まあ……ここに来るまでのあの体力を考えたら……納得出来るか……。
僕は、彼らに追いつけなかったし……。
「よく分からなかったのは、侯和だった。このまま塔に残るつもりなのか、本当は出たいのか。だから試させてもらう事にした。まあ、『彼』の存在も気になっていたしな」
「貴桐……お前……」
「一夜……お前を塔の近くで見掛けた時、なんとなく気づいてたよ」
……だから……この人たちは、僕を一緒に連れて来たんだ。
最初から穏やかな表情でいたのも、彼らがそういう思いを持っていたからだったんだ……。
呪術師としての思いを。
「侯和、ボーッとしてないで手を貸せよ。一夜を抱えていて貰わねえと、俺の手が開かねえ。もう腹ん中、全部出しただろ。お前が全部譲っちまったんだから、俺が持ってるもん出してやる。そこで一夜と黙って見てやがれ」
「……貴桐」
「俺たちのようなただの呪術師は、こんな闇の中で細工するのは得意なんだよ」
貴桐さんは、わざとらしくも皮肉めいた言い方で、侯和さんに笑みを見せてそう言った。




