第15話 感
「僕の中にあるもの……?」
何を言っているのか分からなかった。
それに、例えそれを彼に分けたとして、僕が彼を知る事に必要性はあるのだろうか……そう思っている自分がいた。
自分と似ている彼の姿は、確かに気になるところだが、この無表情さ……馴染める感は全くしない。
「そんなに警戒しないで下さい。君から分けて貰えるなら、僕からも一つお分けします」
「分けるって……何を……」
警戒しないでって言われても……全く変わらない表情に、何を思っているのか分からないのに、返事なんかそう簡単に返せる訳がないじゃないか……。
真っ直ぐに向けられる瞳は、見れば見る程、逸らす事が許されないようで、返事をするまで繋ぎ止められるんだと感じさせる。
それでも中々返事をしない僕に、彼は言葉を続けた。
「柯上 圭……それで彼に会えるとしたら……どうですか」
「……!」
圭に会う為の……条件だっていうのか……?
「……なんで……そんな事を僕に……?」
なんだか、悔しくなった。
まるで、圭を人質にされたみたいで。
彼が僕と圭の事を知っていると気づかされる事にも、僕の心を試されているようで腹が立った。
それを僕と同じ顔が、僕の心とは正反対に、何も感じていないと思わせる事が嫌で堪らなかった。
僕じゃないと分かっていても、僕が僕の心を押し殺す……そんな感じがしてならなかった。
彼が感情を見せない事で、人としての違和感もあったが、人が持っている二面性の一面、冷酷な部分を見ている気がしたからだ。それが僕の持っている一面なのかと思わせる程に。
「大丈夫です」
そう言って彼は、僕の額へと指先を伸ばした。
「君が、圭と同じ知識体系であるという証明でもあるのですから」
僕の額をそっと指先で触れると、彼は手を下ろした。
「……それを分けたら……本当に圭に会えるのか……?」
そう答えた僕が、どう返事をするのか彼は分かったのだろう。
うっすらと口元に浮かべた笑み。
少しだけ表した感情は。
僕の答えを揺るがせない為なのだろう。
そして、更に嫌と言えない言葉を僕に言った。
「それで……圭が作り上げるものが完成しますから」
……圭が作り上げるもの……? 完成……?
圭は一体、何をやっているんだ……?
「では……了承頂けたという事でいいですか」
「……ああ。それで僕は、何をすればいい?」
「そのままでいて下さい」
「え……? そのまま?」
「ええ、そのまま……動かずに」
彼から目が離せなくなったまま、瞬きさえ出来なかった。
彼が再度、僕の額へと指先を伸ばす。
彼の透き通るような白さが、辺りにまで広がるように光が放たれ、包まれる。
その白さに目を奪われる僕は、目の前にいたはずの彼の姿を見失っていた。
それなのに僕の頭の中に、彼の姿が入り込んでしまったかのように、目には映ってはいないが、見えているようだった。
その中で圭の姿が、彼と重なって見えた。
「……圭……」
僕の頭の中で見える圭は笑っていて、懐かしい声を僕に聞かせた。
僕は、その声を。
その言葉を聞きながら。
頬を伝っていく涙に、温度を感じていた。
「一夜。印を貰ってくれないか。それを持っていてくれれば必ず……必ず俺は、全てを取り戻して、戻るから。約束するよ」




