第12話 系
「……僕を排除しますか?」
僕がやった事を驚くタカさんを前に、僕はそう言った。
雨は降り止まず、雷鳴も響いてはいたが、僕たちに影響を及ぼす事はなかった。
目を開けた男たちが、ふらつきながらも立ち上がり、僕を囲む。
それでも手を伸ばせないのは、助けられたという思いがあるからなのだろうと思っていた。
だけどそれは、心の何処かにあった、自分が起こした行動を傲った思いが、そう錯覚させたのだろう。
僕に手を出せる訳がないだろうと。
「……面白いな」
その呟きに、僕の目が動く。
……変だと思っていた。
僕がやっていた事を、コウさんは何も答えず、平然と見ていた。
そして、その呟きも。
僕と目線を合わせたコウさんの口元が、うっすらと笑みを見せた。
「面白い」
コウさんは、再度そう答えて、あははと声をあげて笑い出した。
「おい……コウ……」
怪訝な顔を見せるタカさんに、コウさんはちらりと視線を向けると笑みを止めた。
その目は何処か冷ややかだった。
コウさんは、また僕に目を向けると、僕に向かって歩を進めた。
僕は、彼が何を思い、考えているのか分からず、これからどうなるのかと少し不安にはなったが、その場を動きはしなかった。
僕とコウさんの距離が近づく。コウさんの手が、僕へと伸びた。
……やっぱり……塔は塔……。信頼に値するはずがない……か。
僕は、諦めと同時に、小さく息を飲んだ。
塔に入らず、主義を貫いて呪術医としてやっていこうとすれば、迫害される。
使わずに隠し通していったとしても、使えないでいるものをいつまでも秘めたまま、なんて、意味のない事だ。だからといって……塔に入るなんて嫌だ。
圭はあれっきり戻って来ない。
絶対的象徴が塔である事に、誰も違和感を持たなくなっている。
あの場に行くしか助かる方法がないなんて、おかしいじゃないか。
遠方から来る者は、処置が間に合わず、手遅れでしたって一言だ。
いつ何処で、何が起こるか分からない状況の中で、安心なんか手に入らない。
『助けて下さい、お願いします……』
嫌という程、耳にしてきた。
……悔しかった。
呪術医としてやっていくなら、塔に入るしか今は道がない。
どっちの道を選んだとしても……自由はないんだ……。
それでも自分が構築したものを、簡単に奪われて、勝手に使われるのはゴメンだ。
救う人に優先順位をつける塔になんて、絶対に入りたくない。
コウさんの手が、僕の肩を掴んだ。
「随分と……自由に動けるようになったな……」
「え……?」
思いもよらなかった言葉に、驚いてコウさんを見た。
コウさんは、嬉しいような悲しいような、そんな表情で、なんだか涙を堪えているようにも見えた。
「コウさん……?」
「お前の望む事、全て、思いのまま……」
その言葉は……。
「……やっと見つけたよ……やっと現れた……」
コウさんは、僕の肩を両手で掴んで、募った思いを吐き出すように言った。
「『宿』」
『宿がどう動くかは、俺は知らない』
……それって……僕の事……?
「一夜……よく聞け。お前の持っている知識体系……それと同じものを持っている奴がいる。お前は、そいつと繋がっているんだよ。それは、お前の思いとケイの思いがおんなじだからだ」
「僕と……おんなじって……ケイって……」
「柯上 圭だ」
……圭。
圭が僕に言ったあの言葉は。
圭が僕の中に残していったもの。
『俺が戻らなかったとしても心配しなくていい。俺は……』
『いつでも自由になれるから』
圭の名前を聞けた事に、涙が溢れて止まらなかった。
圭……会いたいよ。
だけどコウさんは、その後にこう言った。
「だけど……『彼』が離してくれるかどうかは……分からない」




