第11話 力
……なんで……僕を見るんだよ……。
僕が知らない、僕に似ているという人。
胸騒ぎを覚える僕は、落ち着かず、彼らから視線を外した。
少し緊迫した空気が流れているのに気づく。その空気感を増すように、強い風が木々を揺らして吹き抜けた。
風が土埃を捲き上げ、咄嗟に腕を盾にして目を覆った。
風は直ぐに止み、腕を下ろして辺りの様子を見る。
……急に……暗くなった。
男たちの騒つく声が、不穏を伝えるようだった。
空を見上げたら、暗雲が立ち籠めている。
ポツリポツリと雫が落ちて来る。次第に粒を増し、大雨が降り出した。
止んだと思った風がまた吹き始め、枝から葉っぱを奪っていく。
「……コウ」
タカさんがコウさんを呼んだ。その声は何かを察したようで、警戒を示していた。
「……ああ。逆なんじゃねえか、タカ」
「荒らす方って訳か……」
タカさんがそう答えた直後、バキバキと大きな音が空間を裂くように響き渡った。
その音に僕たちは驚くが、それは一瞬の出来事で、なす術もなかった。
木が次々と倒れ、他の男たちを巻き込み、叫び声を飲み込んでいった。
風と雨が勢いを増し、体のバランスを奪おうとする。
空を走る稲光と雷鳴が、まるで出ていけと威嚇しているようだ。
僕は、木の下敷きになった男たちの元へと走った。
それと同時に再度、雷鳴が轟いた。いつ落雷するか分からない。
「おいっ……! お前……! やめろっ……! もう……」
タカさんが僕を止めたが、僕は足を止めなかった。
「危険だから行くなって……! それに、もう無理だ……!」
「じゃあ……! 何の為に塔はあるんだよっ……! 目の前の命さえ、救う事が出来ないのかっ……! 僕はっ……」
雷鳴に僕の声が掻き消されても、誰にも聞こえない声になったとしても、それでも僕は。
「これでも呪術医なんだっ……!」
そう叫ぶ。
あり合わせの材料……ブリコラージュ。
それらを用いて出来るもの。
僕の知識体系は。
圭……。
『なあ、一夜。呪いってね。何種類かの材料を使うだろう? それは、呪文も同じ事。一つじゃ効力は弱いけど、それを組み合わせて一つのものにするとね、それぞれが役割を果たしてくれるんだ。薬だってそうじゃないか。組み合わせて、混ぜ合わせて、効果をより良くさせる。だから、あり合わせの材料でも、その材料が何に使えるかを理解したら、それらを使って、最大限に活かすのがブリコルールだろ? その知識体系は、最高じゃないか?』
そうだよな、圭。分かっているよ。
だから僕は。
風も雨も雷も全て。
僕が使う材料に変えてやる。
僕は、木の下敷きになった男たちを前に、深く息を吸い込むと、目を閉じた。
強く吹き付ける風の音。轟く雷鳴。激しく降る雨の音。その音で、それぞれの力を理解する。
「……その力、僕が使う」
僕は、閉じた目をパッと開いた。
その声は、何処から流れてきたのだろう。
『僕が望む事、全て、思いのままに』
その言葉が、僕の中を擦り抜けて行った。
風は木を吹き飛ばし、雷は暗くなった辺りを明るく照らす。雨は傷を洗い流し、気絶した彼らを目覚めさせた。
「……これで……とりあえずは大丈夫……後は塔で診てもらって下さい」
「……お前……その力……」
タカさんの顔に、困惑が見える。
僕は、タカさんが思っているだろう言葉を、自分から告げた。
「僕は、塔には入りません。そう答えたらあなた方は、僕を排除しますか?」
助けた命に奪われるものがあったとしたら。
僕は……。
助けた事を後悔するのだろうか。
そんな問いを繰り返すようになったのは、随分と後になってからだった。




