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第10話 宿

 「お前こそ、名前は?」

 「藤邑 一夜(いちや)です」

 「何歳?」

 「二十三歳……コウさんは?」

 「俺? 二十六。で? お前んとこも呪術医だったの? 塔が出来てから、続けられなくなっただろ。どうしてる訳? 塔に入ろうと思って来てた?」

 「……いえ。入る気はないです。友人が……友人が塔にいるんです。随分と会っていないけど」

 先の問いには答えず、後の問いにだけ答えた。

 「そっか……まあ……階級にもよるだろうけど、そうは会えないよな。上に行けば行く程、中での仕事が多いからな」

 コウさんは、さらっと僕の言葉を聞くだけで、それ以上詳しく聞く事はなかった。

 ……圭の事……聞いてみようかな。

 「あの……ここに来る前に、一緒に来ていた人たちが話していた町医者の息子って……」

 「おい、コウ! 何してんだよ? みんな待ってるぞ」

 「ああ。悪い、今行く」

 先を行っていた男が彼を呼び、僕の声と重なって遮られた。

 「どうした? 一夜、なんだって?」

 「あ……いえ、いいんです」

 ……安易過ぎるか。

 彼は他の人とは何処か違うと思っても、塔の人間だもんな……。

 コウさんの後をついて行く僕を、他の男たちが見るが、なんでこの人たちは塔の人間でもない僕を、ましてや僕の素性だって知らないはずなのに、平気で連れて来れたんだろう。

 そう何度か浮かぶ疑問は、コウさんの言葉の中にもあった事を、コウさんを呼んだ男の言葉で知る。

 「似てんな、お前……本人じゃないよな……?」


 『お前、兄弟いる? 似てるんだよな。上階にいる奴に』


 「おいおい、本人だったらお前、近づき過ぎ」

 コウさんがそう言って笑った。

 「はは。それはそうだな。でもなんか、懐かしいんじゃないのか? コウ」

 「ん?」

 「仲良かっただろ、同じ階にいた時はさ」

 「いいよ、その話はさ……」

 ……コウさん……?

 「だってお前、彼を上に上げる為に、お前が持ってるもの全部譲ったんだもんな。だからお前は、いつまでたってもそのまんま。俺たちみたいな何にもない奴が上に行けないのは分かるけど、お前は行けたんじゃない?」

 「タカ……俺は、そんな風に思った事はないよ」

 「……そうだな。お前はそういう奴だよな。だけどな、みんなが知らないと思うなよ?」

 ……どういう事……。

 タカと呼ばれた男は、コウさんに真剣な目を向けると、彼に伝える。

 「もし……この場所に新たなブリコルールがいたとして、そいつが本当に自然環境を治癒出来る程の能力を持つ呪術医だとしたら、彼は来るだろう。他の奴はお前と彼の繋がりを疑ってる。それはお前がケイに託したものなんじゃないのか?」

 今……ケイ……って言った。

 「繋がっていたとしたら、なんだって言うんだ?」

 「分からないのか? それとも、(とぼ)けているのか? ケイが望む事、全て、思いの……」

 「タカ」

 コウさんは、タカさんの言葉を強い口調で遮った。

 「判断の是非は、宿(やどり)にある」

 ……宿……?

 「……コウ……お前……だからそれはケイじゃないって言うのか……? まさかお前……」


 「それには答えない。宿がどう動くかは、俺は知らない。それに……」

 コウさんの目が鋭くなった。


 「ケイの事を知る事は出来ない」


 ケイの事って……それは、圭なのか……?

 それにコウさんは…… 一体……?

 他の人とは違う、それは感じ取れていた事だったが……。それ以上に何かを持っているような気がした。


 「それでも知りたいと言うなら……」

 コウさんの目が、ちらりと僕に向いた。彼の目の動きに合わせて、タカさんの目線も動き、僕を見た。

 ……何……。

 「彼が来るなら、答えてくれるかも……な……?」


 ……彼って……誰……。


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