紫色の日常
おにロリ作品が世の中に足りないので自分で書くことにしました。小説を書くのは中学生の厨二小説以来のことなので拙いかとは思いますが、頑張ります。どうぞよろしくお願いします。
昼が来ない理由、だって?何を言ってるんだ、今は真っ昼間じゃねえか。昼間ッから空いてる酒屋なんてここくらいだよ。はは。
ああ、お前さん、とつくにの人間なのか。見ねえ顔だと思ったよ。そんなら仕方ねえ、教えてやるさ。
お前さんがたの国じゃあ昼の空は青いんだったかな。変な話だよ、まったく。
いいか、この国はうんと昔、世界の中でも丁度ここらの土地を担当していた神様がお作りなすったんだ。土をこねて、植物を植えて、生き物を増やして…。
その神様の名前?そりゃ言っちゃ駄目だ、神様の名前を呼んだらバチが当たっちまう。
まあそれでな、その神様がだ。ある日おっしゃったんだよ。
「ああ、いい国が出来た。しかしこの太陽という存在は忌まわしい。見たいものも見たくないものも全てを照らしてしまう。隠してしまおう。」
太陽ってやつはばかみたいに眩しい星で、見ると目が潰れちまうんだってな。
まあ、うちの神様はどうもそのビカビカ光る星が嫌いだったらしい。そんで、この空が出来たんだ。
綺麗なむらさきだろう?これはな、神様がこの国に、ちょっとばかし星を飾った大きな天幕を張ったからなんだよ。国がすっぽり覆われるくらいのな。
おれが生まれる前からこの国の空はずーーっとこの色さ。昼も夜も。
とつくにの人間は滅多にこの国に来ないけど、お客人たちはみんなこの国のことを「夜の国」って呼ぶよ。
おれからしたらおかしい話だよ、昼も夜もちゃんとあるってのにな。
……ま、ここだけの話、その神様ってのは今もこの国におわしてる。人の形を真似て紛れ込んでるらしいな。
ほらそこの窓、あすこの山の上、見えるか?神殿があるだろ?あれに住んでんだってさ。
まあおれみたいな庶民は絶対に入らせてもらえねえから、真相は闇の中、ってな。
ああ?もう行っちまうのかい。とつくに人は珍しい上にあんまりおれたちと喋ってくれねえんだ。しばらくこの国にいるってんなら、また話を聞かせてくれよ。まけてやるからさ。
おれたちゃこっから出れねえもんでな。ちっとは外が気になるんだよ。はは。
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急な雨だった。空からこぼれ出た水滴たちが、行儀良く敷き詰められた石畳にしとしとと染み入って行く。
ある人は店先に避難し、ある人は慌てて傘をさす。街の風景がぼんやりとにじんでいく中、ある少女だけが何もせず佇んでいた。
華奢な女の子だ。腰まで届く長い茶髪はゆるくカーブを描き、幼い顔をやさしく取り巻いている。
少女は空を見ていた。雨だというのに頭上には雲ひとつなく、むらさきのビロードのような天にはどこか作り物めいた星が瞬いている。ずっとだ。昼も、夜も。晴れでも、雨でも。
もちろんあたりまえのことだ。でも彼女には、これは本当に奇妙なことだった。
静かな街に、突然太い声が響いた。
「シエル、おまえって子はまた空ばっかり見て!もう昼ごはんの時間だよ!」
少女ーーシエルはびっくりして後ろを振り返った。大きな目がぱちりと瞬く。もうそんな時間だったのか。ぷりぷりした様子で声を掛けてきた女性は、彼女の母親である。
「ごめんなさい母さん、だって空が不思議なんだもの」
「何が不思議なんだね、ただ雨が降ってるだけじゃないか。おやまあ、また傘も持たずに…。」
止まらないお小言を聞かせてくる中年の女。街の人からはニュイおばさんと呼ばれている。
口調こそ厳しかったが、その目には心配の色が宿っていた。布切れでシエルの髪を乱雑に拭い、自身の傘の下に入らせる。
ニュイは少し浮世離れしたシエルが心配で仕方ないのであった。
シエルは親から見ても可愛らしい子供だ。ころころと変わる表情にはつらつとした性格、誰に対しても物怖じせず、街の人とも仲が良い。長い睫毛に縁取られた橙の瞳は、好奇心に煌めいてよく動く。器量もなかなかだ。
しかしたまにこうやってぼんやりしている時がある。シエルももう13歳、そろそろその「ぼんやり癖」が治ってくれないだろうか、ニュイにはそれだけが気がかりだった。
これも、「とつくに」から来たからだろうか。育ての親は密かにため息をついた。
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雨が窓を叩く音がする。秒針が時を刻む音がする。あとは、草が揺れる音。聞こえるのはそれだけだ。
薄暗い屋敷は広さの割に人の気配が全くせず、あまりに静かだった。
それもそのはず、この屋敷に住んでいるのは主人1人だけである。
屋敷の最奥にある小さな部屋で、青年はひたすら紙にペンを走らせていた。薄い色素の髪に青い目。作り物のように整った見目をしているにも関わらず、身嗜みには一切頓着していない様子である。
アステールは18歳にして、この屋敷にたった1人で暮らしていた。国で1番高い山の上に建った、無駄に広い屋敷。話し相手はそこらにいる動物くらいで、寂しくないと言えば嘘になる。
しかし、アステールはこの家を、この国を離れるわけにはいかないのだ。
ここで1人で研究を続けることはあたりまえなのだから。
「ああ、この術式じゃ矛盾が出る…。」
アステールはしなやかな指を曲げ、髪をくしゃりと握り込む。考える時の癖だ。これのせいで彼の頭髪はぼさぼさだが、咎める人もいないために乱れ放題である。
アステールは時々ふと考える。研究は楽しい。何年もこの屋敷にこもって試行錯誤しているが、答えのないものを探すというのは大変興味深い行いだと思う。
しかもここには膨大な文献と器具がある。幸せなことだ。寂しいなんて感情はこの大魔術師には不要なのだ。
でも、もし、この屋敷から出ることが叶ったなら…。
そんな思考をしている間に袖にインクを垂らしてしまっていたらしく、アステールは慌てて水場へと走った。
雨はまだ、やみそうにない。
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夜の国は不変である。
あたりまえの空に、それぞれのあたりまえの日々。笑い声の絶えない雑踏。路傍には四季の花々が咲き乱れている。
そして、今日も頭上には美しいむらさきのベールと煌く星。人々は皆それなりに幸せで、
ひとしく呪われていた。
2人が会うところまでいけなかった!難しいですね。
読んでくださりありがとうございました。嬉しいです!