表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/211

開戦

三月六日 新発田城

 俺は新発田軍四千と、応援に来た本庄繁長の兵士一千とともに笹岡城へ兵を進めた。色部長実にも援軍を打診したが、蘆名家の兵力が黒川城に集結しているため、用心のため動けないとのことだった。


 新発田・五十公野と水原・木場城の中間のような位置にある笹岡城には中条景泰・竹俣慶綱ら揚北の領地を失った上杉家臣たちと、援軍に来た斎藤朝信の合計二千の兵が籠っている。

 城自体は特に堅城という訳でもなく、山奥に建っているという訳でもないが周囲が湿地に覆われており、やや攻めるには難しい地形であった。まずは力攻めを試みようかとも思ったが、新発田領も湿地帯がひどく、湿地を攻めることの難しさは身にしみている。

 かといって兵糧攻めにするほどの時間的余裕もない。おそらく、今頃景勝の本隊も出発しているはずである。


「近隣から乾いた土を持ち込み、城まで不自由なく歩ける道を造れ」

 最初に下した命令は城攻めというよりは土木工事であった。兵士たちは一度物資を集めて荷車などを空にすると、周辺のぬかるみがまだましな地点から大量の土を集めて運んでいく。なかなかに重労働だったが、兵士は五千もいるので人手はある。それに周辺がぬかるんでいるため、城兵側も奇襲などはかけづらかった。


 工事は順調に進んだが、城に近づいていくにつれ、城内からは妨害の矢が飛んでくる。領地復帰に燃える敵軍の戦意は高く、土を敷き詰めようとする兵士たちを次々と狙い撃った。という訳で土を集めるのは順調だったが、敷き詰める方が進まなかった。


 それを見た俺は一つの案を思いつき、猿橋刑部を呼ぶ。

「刑部、攻城戦で出番はないと思っていたが出番だ」

「それがしでございますか」

 冬中、ずっと鉄砲隊の訓練をさせていた彼は怪訝な顔で現れる。てっきり攻城戦中は出番はないと思っていたようである。

「あの城中から矢を撃ってくる敵兵を黙らせよ」

「しかしこの距離で城壁の向こうの相手に弾を当てるのは不可能です」

「それはそうだ。あくまで威嚇のつもりで良い」

「分かりました」

 すぐに五百名の鉄砲隊が現れて城壁に銃口を向ける。一応城は小高い丘の上にあるため、斜線は斜め上を向いているのでかがんで土を敷き詰める分には味方に当たる心配はない。


「撃て!」

 刑部の命令で耳をつんざくような轟音とともに五百発の弾丸が放たれる。その轟音と、次々と城壁に命中する弾丸に城内の射手たちはひるんだ。

「今だ、土を敷き詰めよ!」

 その隙に兵士たちは木製の盾を構えながら荷車に載せてきた土を次々と城に向けて撒いていく。

「鉄砲は当たらぬ! 矢を射るのを止めるな!」

 すぐに城内からもぱらぱらと矢が飛んでくるが、鉄砲の轟音が鳴り響くと再び矢は止まる。こうして鉄砲隊の援護もあり、どうにか城の東側から百五十メートル付近まで近づくことが出来た。


「よし、これなら行けるか……突撃!」

「おおおおおっ!」


 ここまで土木作業を強いられていた新発田軍は勇躍して城に向かっていく。土を敷き終えていない空間に入ると足をとられる。そこへ容赦なく矢の雨が降り注いだ。が、それはただの無駄死ではなかった。その隙に後続の兵士たちは土を満載した荷車を引いてきて、その場でひっくり返す。渇いた土が湿地の上にばらまかれた。

 こうして新発田軍は死傷者を出しつつも二日ほどかけてどうにか城壁の近くまで湿地を埋め立てる(?)ことに成功する。


「もはや湿地はない、攻め上がれ!」

 ここからはほぼ普通の城攻めであった。新発田軍は次々と城壁を駆けあがり、城内からは矢が雨あられのように降りそそぐ。至近距離で降りそそぐ矢は簡単な盾で防げるようなものではなく、次々と兵士たちの体を貫いた。兵士が接近した以上、鉄砲による援護射撃を行うことも出来ない。

「くそ、やはり城兵の抵抗は頑強か……」

 これまでの城攻めは野戦で勝利した勢いや調略を用いる、もしくは圧倒的な兵力差があるなど何かしら有利な要因があった。しかし今回は兵力差もそこまではなく、城の東方は埋め立てたが他の方角からは攻めることが出来ない。そのため、城兵の抵抗も東側に集中するのである。城壁にとりついた兵士たちが次々と倒れていくのを見てさすがに俺は退却命令を出さざるを得なかった。


 翌日。昨日の出兵を踏まえて東側からの攻撃と合わせて西側の埋め立てを行わせた。東側からの攻撃は相変わらず手を緩めず、激しい攻防が続いた。その甲斐あってか、その隙に西側の地も徐々に乾いた土で埋まった。

 その夜。西側は土で埋まったものの、集めていた土はもうなくなり、南北も埋め立てるとなれば土を集めるところからさらに時間がかかる。東西からの攻撃だけで落ちるだろうか、と俺が考えていると。息せき切って一人の兵士が駆けてくる。

「殿、春日山城を出発した上杉景勝の本隊三千が木場城に来襲しました!」

「何? もはや悠長に全方位を埋め立てている余裕はないか……よし、明日は総攻撃だ」


 翌日。朝日が昇るなり攻撃の太鼓が鳴らされた。前日は東側からだけの攻撃を撃退されたが、今度は東西両側からの攻撃である。当然城兵の対応も東西に分かれ、抵抗の強さも分散した。攻め手の兵士たちも緩やかな斜面を登り、必死で城壁に辿り着くと、縄をかけて登る。元々そこまでの高さがなかった城壁は後から後から攻め寄せる兵士たちの前に、城内の射手が弓をつがえている間に突破される。


「我が名は新発田重家の家臣、志村長門! 一番槍もらった!」

 兵士たちのうちの一隊が城内になだれ込む。

「竹俣慶綱! おぬしらを揚北から追い落とすまではここは死守してみせる!」

 が、たちまち城兵も槍をとって乱戦となる。

 しかし城兵の必死の抗戦のせいか、城壁を乗り越えてくる後続の兵士はおらず、志村長門の兵士は城兵の包囲を受けた。やがて四方八方から伸びる槍により、志村長門は胴を複数刺されて命を落とした。


 結局、この日も一時は郭の一角を占拠するなどの戦果を挙げた新発田勢だったが、城を落とすことは出来なかった。

「まあいい、景勝本隊さえ倒せばこんな城後でどうとでもなる」

 俺の領地が飛び飛びになっているということは上杉方から見てもこの城は孤立しているということであり、しかも二千も兵がいれば時間さえかければ兵糧攻めにすることは可能であった。

 夕方、城攻めを諦めた俺の元に一人の兵士が現れた。そして俺に向けてちらりと佐々家の家紋を見せる。

「新発田殿、我ら織田軍三万、昨日金沢を出立しました。今頃は越中に侵入しているものかと」

 城攻めに失敗しただけに、その報告を受けた俺は少しだけほっとするが、何とかそれが表情に出ないようにする。

「そうか、こちらは見ての通り、すでに戦いが始まっている。佐々殿にはよしなに伝えてくれ」


 その後、俺は二千の兵士を残して残り三千の兵を率い、木場城に向かうことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 城攻めに失敗しているし大雑把に数を書いてるとはいえ手勢の数が全く減っていないのはさすがに不自然な感じが 損害がそれほどでも無かったとしても100人、200人くらいは命を落としてると思う…
[一言] 兼続的には新発田は重家以外大したことないからOKだと思ってるけど、果たしてそうだろうか…? 重家は木場城救援に向かうわけで上杉が引かなければ、上杉本隊と野戦になるのだろうか。 次回が楽しみ…
[気になる点] この作品は大変魅力的でこれほど心躍る作品と尊敬する作者様はおりません。私事で申し訳ないですが、日本の作品はいつも他者を管理するや支配するとか上から目線の作品しか少ないし受けないのが気が…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ