酒田湊 Ⅰ
新潟港編に続き酒田湊編もファンタジーだと思ってください。
大宝寺城の開城が終わると、東禅寺義長が大宝寺城に入城し、入れ替わりに本庄繁長と大宝寺義氏が尾浦城に入城した。まだ七歳の義勝は当然同行していないため、繁長は城主面で入城していたという。当然大宝寺の家臣の反感は買うし、東禅寺義長もおもしろくないだろう。だが娘婿の黒川為実を従えて大宝寺旧臣を威圧しているという。繁長からすればこのために戦を頑張ったのだから何としてでも大宝寺家を掌握してやろうというところだろう。
出羽衆は今のところはこのごたごたには関わる気はなさそうだった。このところ勢力を拡張していた大宝寺も、よそから来た繁長も、いきなり謀叛した東禅寺も、誰も味方するに値するか分からないからだろう。
俺もこのごたごたに関わるのはごめんだったので、知らない振りをして酒田に向かった。ちなみに鮎川盛長もさっさと新しく得た領地に向かったという。
酒田湊は尾浦城よりさらに北方の海岸にあり、新発田から陸路だとかなり遠い。距離的な遠さだけでなく、黒川・本庄・鮎川・大宝寺などの領地を通らなければならないという問題もある。今後来るときは船になるだろうな、と思いつつ俺たちは湊に入った。
事前に触れを出しておいたため、俺がやってくると有力商人たちが代官館に一堂に会して待ち構えていた。俺は矢五郎と那由、それに実務に詳しい者二人ほどを連れて館に入っていった。俺の姿を見て商人たちはひとまず頭を下げる。集まっているのは三十人ほどだろうか。
「新しくこの地を支配することになった新発田重家だ。以後よろしく頼む。早速だが、今までの支配について存念があれば申してみるがよい」
俺の言葉に早速一番前に座っていた男が手を挙げる。四十ぐらいの男で、酒井権兵衛と似て歴戦の商人といった風情がある。今も俺に対してにこにこと本心を悟らせない笑みを浮かべている。
「私は永田作介と申します。自分で言うのもなんですが、この地で有数の規模の商家で。十三湊からの蝦夷地の産物の輸入や、庄内でとれる米の取引などを行っております。問題は大きく分けて二つあります。まずは大宝寺義氏様が軍費の徴収のため、無理な徴税を行っていたこと。我らは戦争のたび矢銭を課されました。また、平時から何かと便宜を図らなければならないことも多く……」
そう言って永田作介は言葉を濁す。要するに賄賂を要求されることが多かったのだろう。義氏の意向なのか、東禅寺義長の意向なのかは知らないが。
「こほん、とにかく一つ目は我らが上げた利益を全て持っていかれるので新たに投資を行おうとしても行うことが難しいという問題でございます。二つ目ですが、船の不足です。我ら船さえあれば新潟港まで蝦夷地の産物を運ぶことも出来ます。言ってはなんですが、蝦夷地の産物を輸入してもこの地だけで売れる量はたかが知れております」
「なるほど」
本来商人は利益が出ればその利益を投資して規模を拡大する。しかし義氏がそれを軍費の徴収という形で妨害していたのだろう。
「ところで蝦夷地の産物って売れるのか?」
俺は那由に小声で尋ねる。今でもごくわずかではあるが、酒田から蝦夷地の産物を輸入していたはずだ。
「にしん、なまこ、昆布などは多少。でも、なくてはならないものとかではないからどちらかというと、春日山とかの方が売れると思う」
わざわざ遠くから輸送してるってことはある程度値も張るし、そういうのを買うのは裕福な者たちか。ついこの前までさびれた漁村だった新潟で売れる訳がないのは頷ける。だが、逆に考えれば春日山や、その先の織田領の商人には売れるのではないか。畿内の商人はかなり儲けてそうだしな。
「私も意見がございます!」
次に手を挙げたのは後方に座っているやつれた男だった。永田作介と違い、身なりも質素(悪く言えば粗末)で心なしか頬もやつれている。彼が手を挙げると若干であるが作介は嫌な顔をし、彼の周りにいた商人たちはやや期待するような目で彼を見る。
「言ってみよ」
「芦田太郎左衛門と申します。酒田を支配していた東禅寺殿は永田殿の言葉通り、賄賂を要求しておりました。永田殿のようにそれを支払える方はまだいいのです。しかし我らのようにそもそもお金がない者たちは新たに店を出すことも出来ない有様でございますこの現状をどうにかしていただけないでしょうか」
芦田太郎左衛門の言葉を聞いた永田作介は嫌な顔をする。賄賂を要求されるのは嫌だが、払った以上それで得た既得権益を手放すのは嫌だと言うことか。まあその気持ちは分かるが。
「では賄賂をなくせばいいのか?」
「はい。我らにも大商人の方々と同じ機会をいただきたいのです」
「待ってくだされ。我らとてこれ以上賄賂を要求されるのは困りますが、今まで東禅寺殿に払ってきたものをなかったことにされるのは困ります」
「領主が変わったのですから仕方ないでしょう。新発田様にとって東禅寺は関係ないことだ」
「何!?」
早くも雰囲気は険悪になりかけている。俺が仕切って反発を喰らっても困る……困ったときの那由だ。俺はちらっと横を見る。
「これどうしたらいいと思う?」
「とりあえず豪商のみ得ていた特権を全部書き出してもらったらいいかと。そしたら後で考えてみる」
一応新潟はうまくいっているから、それを基準に不当な特権と正当な権利を分けてみるか。まあそこに至るまでの経緯とかこの地の事情とかがあるから簡単にはうまくいかないが。
「他にも意見がある者は?」
その後も色々意見は出たものの、「あれが欲しい」「税を減らして欲しい」という意見を除けば二人の意見に集約された。
「では本日はこれで解散とする。近日中に二回目の集会を開くのでその際も来ていただきたい。また、数名には個別に会談を行おうと思う」
こうして初回の会合は解散となった。本当に最近会議してばかりだな。




