大葉沢会談 Ⅰ
六月三十日 新発田城
「殿、鮎川殿から使者が来ております」
大船建造の手配を終えて居城に戻った俺の元に鮎川盛長からの使者が現れた。本当は新潟攻防が終わった後から時々来ていたのだが、優先順位が低いと感じて無視していたところがあった。とはいえ、そろそろ後ろを固めなければならない気がする。俺は使者を通すよう命じた。
「我が主、鮎川盛長殿は現在本庄家・黒川家・中条家・色部家に攻め立てられ劣勢です。そこで新発田殿に和睦の仲介をしていただけぬかと」
「ほう、和睦の仲介か」
今までは単なる救援要請だった。しかし救援するほどの余力はないと断っていた。まあ事実ではあったが。
「はい、このままでは我ら城を追われるしかありません」
使者は悲痛な声で言った。せっかく味方してくれた鮎川家が滅びるのは困るし、今回の戦いで四家が結束し、俺に牙を剥かれても困る。和睦の仲介という場で彼らと一度話し合ってもいいかもしれないな。
「分かった。すぐに他家にも使者を出そう」
「ありがたき幸せ」
使者は深々と頭を下げた。俺はすぐに四家に使者を送り、会談を行いたい旨を述べた。
七月十二日 大葉沢城
(どうしてこうなったんだ……)
現在俺は鮎川盛長の居城、大葉沢城にて今回の会談を行う面々と向き合って座っている。こんな近くに集まるだけなのに二週間ほどもかかっているし、俺が呼んでいない者も混ざっている。
そもそも俺が和睦を呼び掛けてから、鮎川を滅ぼしたい本庄繁長が和睦の前に総攻撃をかけようとしたり、繁長の娘婿である黒川為実がそれに同調したり、その話を漏れ聞いた蘆名家や伊達家が出てきたりで色々あった末、この日になっていた。
結局この場には俺・繁長・為実・盛長の他に中条景泰、色部長実、金上盛備(蘆名家臣)、遠藤基信(伊達家臣)がそろい踏みするという豪華な顔ぶれになっていた。
伊達と蘆名は全く来ないで欲しかったが、俺が蘆名家の支援を受けていたり、黒川為実の降伏時に伊達家が仲介していたりで無関係ではないんだよな。
「まずは皆様お集りいただきありがたい。皆様と鮎川家の和睦、及び今後の揚北のことなどについて話し合っていきたいと思う」
別に蘆名と伊達の者が集まったのはありがたくないけどな。
「この度の戦いでは我らが優勢であった。従って鮎川殿には大葉沢城を明け渡していただくか、人質を出して降っていただきたい」
開口一番、本庄繁長が叫ぶ。思えば繁長は御館の乱の折からずっと争っていたからな。いい加減決着をつけたいのだろう。繁長の言葉に黒川為実もうんうんと頷いている。父清実が景虎に味方して降伏したという経緯があるので、為実もここらで存在感を示しておきたいのだろう。
「そのようなことは出来るか! この城にはまだ武器も兵糧も半年分はある!」
対する盛長も屈辱的な条件を突き付けられて憤慨している。
「まあまあ、お互い争っても問題は解決いたしません。ここは領地をいくらか割譲することで妥協しては」
これは遠藤基信の発言である。が、それに色部長実が疑問を呈する。
「遠藤殿。そなたは金上殿とともに和睦を仲介し、仲介料として所領をもらうつもりではないか?」
「それについては我らと鮎川殿の間での話。他の方々には関係のないことだ」
そう述べたのは金上盛備である。苦境に陥った鮎川盛長を助けるためと称して新たなハゲタカがやってきたというのが現状のようである。元々蘆名家や伊達家が御館の乱や俺の反乱に首を突っ込んでいたのはそのためだし、俺も蘆名家が本庄秀綱を支援したおかげで勝てたところがあるのであまりでかいことは言えないのが辛いところである。
「何を言う。もし伊達殿や蘆名殿の所領が増えれば我らと接することになる。これは揚北全体に関わることではないか!?」
中条景泰も反論する。彼らには伊達や蘆名がハゲタカに見えるのだろう。さて、どうしたものか。彼らは実際ハゲタカなのだが、俺は現状蘆名とは協力関係にある。しかし俺の背後にいる揚北衆とも協力関係は結びたい。
「分かった。和睦の仲介料に関しては和睦を呼びかけた俺が払おう。ただし領地ではなく金で出す」
「いや、新発田殿の手を煩わせるのは……」
金上盛備が恐縮している振りをしているが、おそらくこいつは金ではなく領地で欲しいのだろう。が、遠藤基信の表情は変わる。
「そう言えば新発田殿は所領が広がり、羽ぶりがいいと伺っております。当家としてはそれでも構いません」
蘆名家と違い、伊達家は所領が越後から離れている。そのため、領地を得ても維持することは難しい。金でもらえる方がありがたいのだろう。遠藤基信はちらちら、と金上盛備を見つめる。見つめられた盛備は渋い顔をした。
「分かり申した。でしたらこちらは金で手を打つ代わりに本庄殿が蘆名の下にあること、栃尾城周辺の蘆名が切り取った領地は秀綱殿が保有することは確約願いたい」
「……」
そう来たか。正直本庄秀綱には蘆名から独立して欲しかったんだよな。こいつらがずっと越後にいるのは気持ち悪いし。ここで秀綱が蘆名の下にいるのを認めれば、俺は秀綱が独立する際は止める側に回らなければならなくなる。とはいえ、ここは仕方ないか。
「分かった。その代わり揚北にはこれ以上の介入は控えてもらう」
「承知いたしました」
よし、これで伊達と蘆名は黙らせた。なぜか俺の金が減っているが。ただ、逆に言えば金を出した俺の発言権が高まったのは事実。ここからこいつらをどうにかしてやる。
ぐちゃぐちゃになった人間関係を清算しようの会




