Save87 また、ギルドバトルで
イシスは始まると同時に上空へ飛んだ。それに即座に反応したサクラが空へ向かって矢を放ち、移動を牽制する。……カムイを守っていないことに突っ込んでいいのかな?
矢を避けたイシスは、急旋回しこっちに突っ込んできた。それに対し俺達は転がることで回避。すれ違いざまにカオリがイシスを切りつけた。
「──【風壁】!」
またもや上空へ逃げるイシスに、ミライがイシスの真正面に風の壁を展開。速度を落としたイシスは、サクラにとって恰好の的だ。一瞬のうちにイシスの背中はハリネズミのようになった。
すると、イシスの身体が薄く輝き、今までよりもさらに飛翔速度が上がった。恐らく今の輝きは【神力解放】と回復魔法だろう。
「【勝利への活路】」
どこからともなく聞こえてきた声に驚き、周りを見渡すと、カムイの隣に美しい女性が立っていた。腰からは一対の翼を生やし、豊満な胸の前で祈りを捧げるように手を組んでいた。
ハッとしてイシスの方を見ると、さらに飛翔速度を上げて遥か上空を旋回していた。あの高さでは、サクラの矢が届かない。
「ミライ、カオリ、純白翼のコートを貸すからイシス倒してこい。墜落させてサクラにとどめを刺させてもいい。俺はカムイをやる」
「わかったわ。任せて」
「……わかた」
俺はミライとカオリにコートを渡し、カムイに向かって駆けた。
「縛りプレイも面白いな!」
「その縛りを解除するくらい圧倒してあげるよ!」
「それは無理だ。予言してやろう。カムイ、お前は3分も持たない」
「それは、どうかなっ! ニケ!」
「は~い。それ~【勝利への活路】」
「よし、【居合】!」
カムイの攻撃を軽々と躱し、お返しに【居合】を使う。……ニケに。
「ニケ!」
「大丈夫だよ。HPが9割くらい無くなっただけだから」
「そんなに!? くっ、イシス!」
ニケのHPを回復させようと思ったのか、カムイはイシスの名を呼ぶ。それに釣られて俺もイシスの方を見ると、丁度空から頭から落ちているところだった。
そして、その下で待ち構えていたサクラが、弓を目一杯引き絞り──手を弦から離した。
ストッパーが無くなった矢はヒュンと風切り音を残し、イシスの頭頂に寸分違わず命中。そして地面に激突し、小さなクレーターを残し倒れたまま動かなくなった。
「イシスー!」
「行かせない。【居合】」
イシスの所へ向かおうとしたカムイに向け、俺は【居合】を使った。だが、それでもカムイは止まらずイシスのもとへと駆ける。
だが、それに対し俺は無慈悲に【縮地】を使って距離を詰め、左右合計11撃の通常攻撃を行った。当然カムイはHPを尽かせ、地面に倒れむ。
「そ、んな……イシ、ス……」
そろそろわかってる人がいるかもしれないけど、イシスはHPが尽きたわけじゃない。
ミライとカオリが上手くダメージを負わせないように落とし、そこにサクラがこれまた上手くHPが尽きないように攻撃し、ぎりぎりでHPが残っている。
でも矢が体に刺さってると継続ダメージがあるので、カオリが随時回復している。
なんでカムイはわからないのかね。HPが尽きたNPCはポリゴンになって爆散って言うのを知らないのか? 魔物倒してるのに?
そろそろ回復してもいいだろ。そう思って俺はカオリにアイコンタクトを送る。このパーティーの中で回復役は、カオリのみという設定であるためだ。
「♥♥♥♠──【全回復】」
カオリの回復魔法によって、カムイとイシス、ニケのHPが回復していく。ニケは最後の方全く存在感なかったよね。
「……負けは認めよう。またいつか、必ずキラ達を僕のギルドに入れてこのゲームをクリアしてやる」
「ま、頑張れ。もし俺達を倒せたら、考えてやろう」
「その言葉、忘れるなよ」
「あぁ、忘れないとも」
だって……
「じゃあ僕たちの降参ってことでこのギルドバトルは終了。次に会うときこそ」
「待ってるからな。早めに来いよ? 手が付けられなくなるぞ」
「安心してくれ。すぐに僕のギルドに入ることになる」
「それじゃあ───」
「それじゃあ───」
「「また、ギルドバトルで」」
俺、考えるって言っただけだもん。俺がしっかり覚えておかないといけないだろ? あ、感動的(笑)な別れはスルーする方針です。
俺達はすぐにメインディメンション(?)に飛ばされ、ウィンドウに勝利の文字と獲得経験値、獲得Gが表示された。まぁ、俺達からしたら雀の涙ほどの量だけど。そもそもおまけのようなものだろう。
ギルドバトルが終わり、元居た【始まりの街】に飛ばされた今現在。なんと夕方です。スピード勝利だな。……ほらそこ。本当なら3分かからないとか言わない。
せっかくなのでここでご飯を食べ、それから帰ることにした。
しかし、ここで食べると言っても所詮【始まりの街】だ。安くてまずい物が基本らしい。周りのプレイヤー達がそう言っているからな。
そこで俺は考えた。たっぷり3秒ほど。そして考え付いたのが、自分で作るということ。
食材は【ストレージ】に沢山入っているし、調理器具も揃っている。作れないことはない。ただ、俺が心配していることがある。それは……周りのプレイヤーがどういう反応をするのかわからないこと。
このゲームは、街や村、一部のセーフティエリア内では一切の攻撃を禁止されている。一対一で行う【決闘】も禁止されている。なので俺達の強さがバレるわけことは無いが、買取の場合は面倒くさい。
値段が安すぎるとたくさん集まってくるからな。逆に高くしてしまうと……あれ、何もなくね? よし、作ろう。なーんだ。高く売るようにすれば誰も来ないのか。何で気付かなかったんだろー。
──と、思っていた時期が俺にもありました。
なんでこんなにプレイヤー集まってくるかな。ここに居るプレイヤーでは手が出せないくらいの値段にしたつもりなんだが。
結局、俺達が十分に食べられないまま食材が無くなってしまった。本当、なんでそんなに金あるんだよ。
無くなったものは仕方がないので、現地調達して、俺が調理した。今度は誰にもあげてない。




