Save84 キラはにっこりと笑顔で
どれくらいたっただろうか。恐らく3分も経っていないだろうが、ミカエルには永遠に感じた。
性能差ではミカエルの方が断然上だが、このゲームの仕様──天使NPCと神NPCの相対時、天使が不利になるように設定されている──やMPの少なさのせいでとれる選択肢が少ない。
なので空を飛んで回避という選択肢が取りにくいのだ。
しかも魔法を使うことはできれば控えたいため、今のミカエルには回避することしかできない。
「いい加減諦めたらどうですか」
「……だめだ」
「では、倒されますか?」
「……だめだ。それだけは絶対に」
倒されるということは、もう二度と主に合えないということだ。
今回のギルドバトル。プレイヤーはHPが尽きることはないと言っていた。だが、NPCは別だ。HPが尽きれば当然、消える。それはミカエル自身とても嫌だ。
さらに今回は必ず帰って来いという命令もされている。なのでミカエルに諦めて消えるという選択肢はない。
「仕方ありませんね。これは使いたくなかったのですが」
「なに?」
「【神力解放】」
「!?」
ミカエルは、イシスの力が増していることに気付いた。
【神力解放】。クレアシオンが使う【神気全開放】と違い、こっちはガチャで出る神系NPCが使える技だ。【神気全開放】よりもグレードは落ちるが、ランダムで1,5倍~2倍までステータスが上がる。
これにより、ミカエルとイシスの拮抗していた力関係が崩れた。
それからはミカエルは必死に避けるものの何発かは当たるようになり、それが繰り返された今はもう、あと少しでもダメージを食らうと消えてしまう程にHPが無くなっていた。
「では、さようなら」
「ぇぇぇぇえええええええい!」
そんなピンチに現れたのは、遊撃NPCであるトールだった。結果だけ言うと、トールはミカエルと同じくボッコボコにされた。
理由はいたって単純。攻撃速度が遅いからだ。トールはハンマーを使って攻撃するが、攻撃モーションに入ってから攻撃までの時間と、イシスの攻撃までの時間が面白いまでにマッチしていて、イシスの攻撃ばかりが当たっていた。
何しに来たんだトール。という目を送るミカエルさん。あなた、自分のミス棚に上げてません?
「少し邪魔が入りましたが、まぁいいです。まとめて始末しましょう」
「それはどうかな?」
「またですか。今度は誰ですか?」
「プレイヤー、って言ったらわかるかな?」
声が聞こえた方を向くイシス。つられてミカエルとトールも見ると、そこには。
「そこのミカエルの主、キラだ。良くもまぁ俺の従者を瀕死にしてくれたな?」
背中から腰にかけて七対十四翼の翼を、半分は純白、半分は漆黒に染めたキラだった。
ここでトール。あれ、俺は……?と思ったが言わないで置いた。自分の主怖い。
「プレイヤー、キラ。あなたをカムイ様の脅威とみなし、排除します」
「おう、やってみろ。返り討ちにしてやるから♪」
キラはにっこりと笑顔で対決を始めた。
そこからはキラの独壇場だった。
イシスが【光矢】を放てばコートの障壁で防ぎ。上空へ逃げれば翼を使い追いかけ、さらに逃げるのであれば翼を全て純白に変え先回りし。
蛇行して巻こうとするならば今度は漆黒に変えぴったりくっ付いて飛行する。強力な魔法を使えば【反射】でイシスに返した。
これを繰り返した結果。イシスは疲れ果て、MPもなくなった。対してキラはMPも十分にあり、疲れてすらいなかった。何ならミカエルを回復してるくらいだ。トールは後で主に泣き付こうと思ったが返り討ちにされそうなので即座に頭からその発想を振り払った。
「さて、お前を消すこともできるが、あえて生かす。カムイに伝えろ。『転移水晶前広場で待っている』と」
「……わかりました」
そう言ってイシスは飛び立っていった。残されたのは、キラと、キラにしがみつき先ほどの戦闘に感動し主との約束を守れそうになかった自分に涙するミカエルと、優しい主が欲しいと涙するトールだった。
少し時間が経って、俺達は集合していた。転移水晶前広場で。
既に出していたNPCはしまい、俺達プレイヤーのみの集まりになっている。このNPC達がかなり役立ってくれて、俺達はそこまで苦労せずにギルドバトルを進めることができた。
六体ずつ生まれた天使達はそれを一個隊として行動し、パーティーを撃破。これで2班は消えることになる。まぁ、全員が撃破したわけじゃないから計算は合わないよ?
ブルーとレッドも生産職がいなかったため無傷。……どうやって二人を倒すつもりだったんだ?
今回のギルドバトルでHPを減らしたプレイヤーはミライだけだった。
ミライは今、カオリのそばから離れず、ピッタリとくっついている。
「それにしても遅いなぁ、カムイのやつ」
なんとなしにそう呟いた瞬間。
「【縮地】【居合】」
「【縮地】」
背後から声が聞こえた。咄嗟に回避のため【縮地】を使い、距離を取る。
振り返ってみると、カムイが天之河先輩と、数人の女子をつれてやってきた。その中にはいつか見た神楽とかいう人もいる。
「なるほどねぇ。一瞬で移動してからの一瞬の一撃か。うん、考えたね」
「初撃を先手で取りたいなら誰でも行きつく考えだ」
「へぇ、ならこれも? 奥義【擦違】」
「……──【結界・〈侵入〉】。……やらせない、よ?」
【縮地】と【居合】を組み合わせた奥義、【擦違】。
その名の通り、相手の脇を一瞬で通り抜け、さらにすれ違いざまに一回攻撃する技だ。因みに、【居合】のところを【縦横無尽】とかにすると連続で切り刻まれるようになっている。【天衣無縫】より怖そうだな。
俺が避けようとしたところ、サクラが魔法で俺とカムイの間に結界を張ってくれた。これで攻撃は防げた。が、ここで問題点が一つ。
「ところでさくらちゃん」
「……名前、じゃ、なく、て……ニック、ネーム、で」
「サクラちゃんはどこで【無詠唱】なんて覚えたんだい?」
「……ぁ」
「秘密だ。教えるわけにはいかない。特に敵には」
そう、サクラに【無詠唱】スキルがあることがバレた。
このスキル自体、俺やミライ、アンラも持ってるから俺達の中ではそこまでレア度が高くないが、一般的に見れば取得条件がわからず、もし得られたとしても沢山のPPが必要、ということでなかなか手に入れられないほどのレア度だ。
「じゃあ、僕がキラに勝ったら教えてくれないか?」
「あぁ、いいぞ。勝てたら、だがな」
そう言って俺達は、相手に切りかかった。




