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Save82 キラは過保護だから

 時は少し遡り、キラがパーティーを倒す少し前。


「ふぅ、余裕だったわね」

「そ、そうですね」


 ミライ&カオリペアは、一つのパーティーを撃破していた。カオリは余裕の表情で汗を拭っているが、ミライは疲れが滲み出た顔で、汗を拭う体力も残っていないらしい。

 もともとミライは、運動が苦手で、ゲームの腕もそこまで高くなかった。それでもノーダメージで撃破できたのは、レベルが最大だったからだ。

 対してカオリは、運動もでき、ゲームの腕もあるし、さらに【愛縁】のお陰でステータスアップしているので余裕でノーダメージクリアだった。


「(私、今まで戦ってきてないから忘れてたけど、全然役に立ってないや……)」


 ミライは、今まで全てキラに任せていたことを思い出し、さらにさっきの戦いを思い出して、自分の役立たずさに胸を痛めた。


「(いや、私だって一対一なら勝てるはず!)」


 そう思ったミライは、カオリに内緒で一人で動き回った。


 そうして、今。動きまくったミライの前には、5人のプレイヤーがいた。


「あれ? 未来ちゃん? なんで?」

「わ、私も参加してるんです」

「そうなんだ。でも、敵だよね?」

「そ、そうです」

「じゃあ、倒さなきゃだよ」


 相手は前衛が4人の後衛が1人。職業は細剣士や剣豪、剣王なんかもいた。そう。ミライの苦手な前衛職と当たってしまったのだ。

 そして、戦闘開始。


 前衛職がミライの四方に散り、一斉に攻撃を仕掛けてくる。突き、薙ぎ払い、上から、右下から。さらには遠くから魔術師による魔法が飛んできた。躱しきることは、不可能。

 咄嗟にミライは、自身の防御を高めた。


「──【硬化(ハード)】!」


 その判断のお陰で、すぐに倒れることはなかったが、貰ったダメージは、全体の5%ほど。あと、19回しか攻撃に耐えられない。いや、【硬化】の効果時間の関係で、もっと少ない。


 ミライはこの状況を打破すべく、魔法を使った。


「───【風壁(ウィンドガード)】──【竜巻(トルネード)】!」


 まず自分の近くから離れさせるために【竜巻】を。そして自身へのダメージを減らすために【風壁】を使った。

 するとミライの狙い通り、全員がミライを攻撃するつもりだったが、数メートル先まで飛ばされた。攻撃を主目的としていないため倒せてはいないが、少なくないダメージがあったようだ。


 このまた攻撃を仕掛けてくるまでの一瞬の間に、ミライは思考する。どうやって倒すか──否。どうやって逃げるか、を。

 この戦い。レベル的にはミライの方が圧倒的に上だが、職の関係上どうしても攻撃がしずらくなる。ミライは後衛職なのにも関わらず、相手が前衛職ばかりだからだ。


 通常、後衛職は前を守ってくれる前衛職がいるからこそ十全の力を発揮できる。しかし今はミライ一人だけだ。勝てなくはないが、ミライでは難しいだろう。

 よって、ミライの選択は、逃げ。


 が、そううまくいく訳ではない。相手の魔術師の存在だ。背中を見せ逃げてしまうと、魔法か魔法で強化された相手が、攻撃してくるからだ。

 ここまで説明すればわかるだろう。そう、ミライは結構ピンチなのだ。ステータスでは勝ってるが、プレイヤースキル、冷静に判断できない心理状況などが重なり、今のミライではとてもではないが勝てないだろう。


「(あぁ、やっぱり私って足手まといですね)」


 自分のせいで迷惑をかけることになるが、それは後で謝ろうとミライは決め。諦めモードに入った。どうぞ攻撃してくださいとばかりに動きを遅くし、反撃するふりをしてわざと攻撃を外したりしていた。


 そしてやってきた、最後の攻撃。あと一回でも攻撃されればミライはHPが尽き、地に伏すことになる。


「(キラ君、ごめんなさい……っ!)」


 ミライは心の中でキラに謝り、攻撃される寸前、目を瞑った。


 と、次の瞬間。


「【縮地】」

「ぇ……?」


 ミライは体中から伝わる人の温もりに、戸惑い。さらに聞こえてきた声に、驚きの声をあげた。

 目を開けてみると、先ほど自分が謝った相手──キラが、いた。


 そこからは一方的だった。キラが武技を使えば、防ぐ術がない相手はHPを空にして地に伏していく。殲滅までに1分もかからなかった。


「キラ君……」

「ミライ! なんで一人で行動した! カオリはどうした!?」


 キラが怒鳴ると、ミライは肩をピクリと跳ね上げ、泣きそうになるのを必死にこらえた。ただただ、ごめんなさいと呟き続けて。


 それから少ししてカオリがやってきた。キラはカオリにミライを渡し、またどこかへ消えていった。


 任されたカオリは、ミライを伴って移動しようとするが、ミライの表情の変化を機敏に読み取り、声をかけた。

 それは、サクラでも、アンラでも、ブルーでもレッドでもかけられる声。だけど、カオリにしかかけられない声だった。


「大丈夫よ。キラはミライの事が心配だっただけ。キラは過保護だから、ミライに傷ついてほしくないのよ」

「……」


 そう、ミライと同じくキラの心を読み取ることが出来て。ミライと同じくキラを愛している者──カオリにしかかけられない言葉だ。

 その言葉を聞いたミライは、カオリの胸に顔をうずめた。それは、カオリの言葉に感動したからか、それとも──


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