Save73 数多くのプレイヤーがプロポーズするところ
「うぅ……なんでこんな奴と戦わないといけないの……?」
カオリが何か泣き言を言っているが、無視だ。
カオリの前に立っている魔物は重そうな鎧を着ていて、立派な体躯の馬に乗り、手にはリーチの長い槍を持っている。さらに背中に大剣も見えることから、槍と大剣を交互に使いながら戦ってくるのだろう。
そして、一番の特徴は、その見た目から騎士とわかる魔物の首がない事。つまり、デュラハンということだ。
……凄い。今度は大剣が小さく見える。このゲームに丁度いい大剣の使い手はいないのか?
「とりあえず、攻撃してみましょ」
「【昇華】 ──【身体性能強化】【昇華】 【強化〈攻〉】【昇華】 ──【上昇〈攻撃力〉】 ──【衰退〈防御力〉】【昇華】」
カオリに聞こえないように小声で魔法と武技の名を言う。
このゲームは思考することで魔法が使えるとかそういう機能は無くて、使う度に言わないといけないのが面倒な所だな。【無詠唱】持ってなかったらいちいち詠唱しないといけないからもっと面倒だ。
「【電光石火】!」
スパッ
「え……?」
カオリが武技を放った瞬間、敵のデュラハンの身体が真っ二つに分かれた。
予想はしてたけど、俺も少し驚いた。馬鹿みたいに強化(【賢者】による威力弄り+【昇華】)しまくった攻撃と、馬鹿みたいに弱体化しまくった防御力が衝突するとそうなるわな。
一応騎士の魔物っぽいから防御力とHPは高いはずなんだけどなぁ。
守護していた魔物を瞬殺した俺達は、その穴の奥に進んでいた。
「ここには魔物がいないのね」
「……【機械仕掛けの迷宮】の時と同じトラップか?」
「あのトラップはもうこりごりよ」
あの時と同じく、この穴に魔物が一切出現しないのだ。理由はいくつか考えられる。まず、もともと出現しない。次に魔物部屋のよう場所が至る所にある。他には、たまたま遭遇していないだけとかもあるな。
「キラ、今更だけどこんなところに何しに来たのよ?」
「そりゃ、鉱石採掘に決まってんだろ」
「なんの?」
「指輪に使う鉱石だよ」
「(指輪……ミライの、よね)」
「ん? なんだ?」
カオリが小さく何か言っているようだが、上手く聴き取れない。聴力強化系のスキルあったかなぁ。
そんな話をしながら進んでいき、遂に最奥まで辿り着いた。そこには壁だけなく天井までもがゴツゴツした岩肌に、輝く宝石の原石があった。これを見ただけでここに来てよかったと思えるような場所だ。
「ここが最奥ね。で、何をどれくらい集めればいいのかしら?」
「ここの中だったらどこでも採掘できるんだな。一応鶴嘴はたくさん持ってきたから、全てなくなるまでだな。種類は、トリカラートルマリンだ」
「トリカラ―トルマリンね。わかったわ」
いくつかカオリに鶴嘴を渡し、手分けして採掘するこちにした。早めに出るといいけど。
「キラ、出た?」
「いいや、全く。本当に出るのか?」
「キラから言い出したんでしょ。ちゃんと調べてきなさいよ!」
採掘開始から1時間程経ち、俺達は一旦採掘はやめて休憩していた。
あ、全く、全然、これっぽっちも関係ないけど、視界が悪いので一時的にいくつかのウィンドウは閉じておいた。
例えばマップとか、空腹ゲージとか。今視界に残ってるウィンドウは、HPバーとMPバー。それとログくらいかな。
そう言えば……
「なぁ、カオリ。俺カオリのHPバーが見えないんだけどこれって仕様か?」
「何言ってんのよ? 自分のHPバーの下に私のHPバーがあるでしょ?」
え、無いんですが。もしかして設定しないといけないとか?
……設定に『パーティーのHPバーを表示』っていうタグがあった。見落としですね。ってか普通設定しなくても出てくるよな? 何だこのゲーム。優しくねーなぁ。
「視界に何も映さないで楽しむ人用の配慮でしょ」
「お、また思考読んだのか? いい加減やめて?」
ウィンドウを使わずに楽しむって、それ危険じゃね? もしかして、死ぬかもしれない恐怖を楽しんでる? アブナイ人や。
「キラ、結構掘ったと思ったんだけど全然この鶴嘴壊れないわよ?」
「当たり前だろ。それオリハルコン製だぞ?」
早めに壊れたら意味がないんだから頑丈なの持ってくるだろ普通。そんなこともわからないのか?
「全部で幾つ鶴嘴持ってきたのよ?」
「え~っと……10本だな。それだけあれば足りるだろ?」
「一時間で5%くらいしか耐久値を消費してないから、20時間で1本。それが一人当たり5本だから……100時間!?そんなにやるの!?」
「やりたい?」
「そんなわけないでしょ!」
思った以上使えるんだな。ま、多めにあって困ることはないし何も問題じゃないけど。とりあえず、今日は泊り掛けで採掘しておくか?
「今日中に帰りたいか?」
「え。それって今日はずっと採掘してるってこと?」
「そうだが?」
「……仕方ないわね。いいわよ。付き合ってあげる」
「サンキュ」
カオリが嫌なら別に返してもいいんだけど、折角やってくれるって言ってるんだから、その言葉に甘えよう。それと、今ってどれくらい集まってるんだろう?
「カオリ、今それくらい集まってる?」
「パープルサファイア、カラーチェンジトルマリン、ブルーダイアモンド、後は鉄鉱石や銅鉱石、魔石とか屑石くらいね。ほとんど知らない鉱石だわ」
「お、そんなに集まってんのか」
俺は主にミルキーオパールとブルースピネル、金鉱石や銀鉱石だから、あと少しで集まるのか?
……あれ? 後トリカラートルマリンだけじゃね? 案外早く終わるかも。
「カオリ、トリカラ―トルマリン手に入れたらどこか行くか?」
「なによ? 量は少なくてもいいの? それなら早く終わりそうだから……そうね。【マジエンスシティ】の夜景でも見たいわ。キラも見たことない? AWOの紹介パンフレットに載ってたのよ?」
あぁ、あの夜景か。確かに綺麗だった。科学技術が発展してるから街の家々の光が密集してて、まさに夜空に煌めく星々のような感じで。
あの光景をレストランとかで見たらどれほどロマンチックか……恐らくあそこは数多くのプレイヤーがプロポーズするところになるだろう(パンフレットより抜粋)。
あ、あと魔法と科学の融合ってことで花火みたいなのもあるんだっけ? すごいなー【マジエンスシティ】。あの時は全然観光してなかったからギルドバトルが終わったら皆で行くか。




