Save5 え?やだけど
一方その頃学校では、会議が始まっていた。
「で、具体的にはどうすんだよ」
「そうね。とりあえず皆で【始まりの街】の中を探しましょう」
「そうだな。それがいいと思う」
「あぁ、そうしよう」
「それがいいよね」
「それじゃあ、分担を決めていいかない?」
「俺が西方面を探すよ」
「じゃあ、俺は東」
「私は北の方を探すわ」
「あたしは南の方をやるね」
「それじゃあ、──────。この分担でいい?」
「「「うん!」」」
「さて、問題は……」
「雲母、か?」
「そうね。ねぇ、雲母君。君も手伝ってくれるかしら?」
八雲の危惧していたことが起こった。そう、未来探しの手伝いだ。おそらく八雲が一日走り回れば見つけ出せるだろう。だが、八雲は正直気が進まなかった。理由は単純、
「え? やだけど。レベル上げたいし」
レベル上げだった。クラスメートとレベルを天秤にかけて、レベルをとったのだ。薄情だと思うだろうか?
でも仕方ない事なのかもしれない。いくら女子と仲がいいと言っても、薫ほど話したことなく、薫ほど親しくもない女子を態々探すのは面倒だ。因みに、八雲と薫の関係性はかなり良くて、冗談を笑って言い合えるほど。
閑話休題。八雲が未来を探すのを拒むと、各クラスに一人はいるであろう正義感の強い奴が突っかかってくる。
「雲母、君はクラスメートが心配じゃないのかい? 僕はとても心配だ。僕は本サービスが開始した時、未来や他の人とパーティーを組んでやっていた。未来はリアルと同じでとても可愛かった。だからとても心配なんだ。他のプレイヤーに何かされてないか、ってね」
そう言ってきたのは神崎神威だ。彼は容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能、いやサッカーしかできなかったっけ。まぁそれは今はどうでもいい。そんな彼は人一倍正義感が強い。
それはもう異世界召喚なんかされたら勇者になると疑われないほどに。因みに身長は180㎝程で黒髪黒目だ。
あとサラッと『かわいい』と言えるくらいには凄い奴。
「いや、心配も何も、そもそもあまり関わった事すらないやつにどうやって心配しろと?」
「なら心配はしなくてもいい」
「いいんだ」
「あぁ。だが、探すのは手伝ってほしい。頼む」
「えー、面倒くさい」
「そもそも、レベル上げって、一体君のレベルは幾つなんだい?」
「言わなきゃダメか?」
「できれば言ってほしい」
神威はできれば、などと言っているが、八雲は絶対に引かないと分かっていた。何故なら、神威のその眼の奥に必ず聞いてやる、というどうでも良い硬い意思があったからだ。
「はぁ、19だよ」
「「「「「な、なにぃぃぃぃいいいい!?」」」」」
「き、雲母、それは本当か?」
「ああ、本当だ」
「じ、19……」
「高すぎだろ……」
「公式HPにあった最高レベル19って雲母だったのかよ……」
「頼む雲母、未来を探すのを手伝ってくれ」
「断る。って言っても、引き下がらないよな」
「ああ。だから頼む」
「仕方ない。わかったよ。探すの手伝ってやる。ただし、俺が探すのは明日からだ」
「何故だい?」
「レベルが20になって第一職業に就けるからだ」
職業。それは自身のステータスを大幅に上げることができる。
それにプラスして、その職の特色がステータスに現れる。
例えば剣士。これは攻撃力などのステータスと【剣術】のスキルレベルが上がりやすくなる。これが戦士なら、防御力と魔法防御力、【槍術】のスキルレベルが上がりやすくなる。
これが職業だ。レベル20からは40、60、80、100と、20レベル上がるごとに一つ、職業を増やすことができる。勿論、職業によるステータスプラス値は上乗せされる。八雲の場合は、単なる誤差でしかないが。
「そうか。なら明日から手伝ってほしい」
「ああ、わかった」
「ありがとう」
その日の八雲の部屋。
「はぁ~、面倒くさいことを引き受けっちゃったな。どうしよ」
八雲はそんなことをつぶやきながら、【Another World・Online】にログインした。
「《ダイブ・イン》」
俺が目覚めたのは宿屋の一室だった。ここは、最近俺が使っている宿屋だ。安いしな。
「さてと、あとどのくらいだったかな?」
俺はそんなことを呟きながら、自分のステータスを確認した。
キラ
男
種族:人
状態:正常
Lv.19
HP:110,000
MP:95,000
体力:20,000
攻撃力:8,100
防御力:8,700
魔法攻撃力:8,100
魔法防御力:8,700
俊敏:8,400
運:63
〈スキル〉
[Master]
・HP自動回復量増加Lv.10 ・MP自動回復量増加Lv.10
[ユニークスキル]
・身体強化Lv.10 ・武神Lv.10 ・賢者Lv.10 ・経験値自乗 ・ステータス上昇値自乗
・スキルレベルアップ速度上昇Lv.10 ・ストレージ ・完璧鑑定 ・完全偽装
・レアアイテムドロップ率上昇Lv.10
[コモンスキル]
・跳躍Lv.9 ・ステップLv.7 ・料理Lv.5
[耐性]
・苦痛耐性Lv.10
〈称号〉
・βテストクリア者
〈所持金〉
568,427G
「何度見てもぶっ壊れだよな」
そして次に、レベルの部分をタップした。
Lv.19 785/1000
と、表示される。
この数値は、/の前が、今の経験値、後ろがレベルアップに必要な経験値だ。つまり、後215経験値を稼げば、Lv.20になる、ということ。
これは通常のプレイヤーの場合。俺の場合は、経験値を15稼げばレベルアップ。チート過ぎである。因みに、魔物で最弱のスライムは一体の付き16程経験値がもらえる。
「第一職業何にしようかな。剣士か、魔術師、他にもいろいろあったよな。迷うな~」
第一職業を何にしようか迷いながら、宿屋から出て、【始まりの草原】に向かった。
【始まりの草原】はこのゲームのスタート地点となる街の一番近くにある。
そこにはスライムの他、ゴブリンとハピナスボアがポップする。経験値はそれ程変わらない。なので強さもあまり変わらない。
つまり、ある程度戦えるようになると安全にレベル上げが出来る、ということだ。レベル10程までならレベル上げが出来るだろう。それ以上は経験値が少なすぎる。何が言いたいかというと、
「人多すぎじゃね?」
人が多いのである。流石にリリース直後の時よりも少ないが、それでも、魔物を見つけるのが大変だ。とはいえ、一体だけでいいので気が楽だ。何体も倒さないといけない、となると、面倒くさすぎる。
「さて、ちゃっちゃと終わらせるか」
そう言って、俺は地面を蹴った。