Save56 その瞬間、私は悟った
その後すぐに俺も眠り、ミライに起こされてから安全地帯を出た。因みに、俺を起こすときにミライがキスしようとしたり、サクラが飛び乗ってきたりした。サクラめぇ……何故お腹じゃなく胸なんだよぉ。超痛いじゃんかよぉ……。
「キラ君! ありましたよ!」
胸の痛みを思い出していたらミライが12階層へと続く階段を見つけたらしい。
「じゃ、行くか!」
俺はミライ達の声をかけて一気に階段を駆け下りた。
階段を駆け下り、ミライ達に叱られてから数十分後、俺達は異変を感じていた。
「何も出ない……?」
「キラ君、可笑しくないですか?」
「キラ、いったん引き返しましょう?」
「……撤退?」
一体も魔物が出てこない。カオリやサクラが言ったように一旦引くっていう手もあるけど、どうするか……。
「決めておいてね。私少し休憩するわ」
カオリは疲れたようで、壁に寄り掛かり休憩しだした。……ん? その壁、色が少し違くないか? しかも何か落書きのような円が書いてあって……
「ん? キラ、どうしたのよ? 私の方見て」
「カオリ! そこから離れろ!」
注意はした。が、遅かった。くそっ! さっきは間に合ったけど今回は間に合わねぇ!
「──【目印】!」
咄嗟に【目印】を使ったが、それがカオリにかかると同時にカオリは眩い白い光に包まれ、忽然と俺達の前から姿を消した。
「カオリ!?」
「……え?」
ミライとサクラは驚いていたが、今はそんなこと言ってる場合じゃない!
俺が使った【目印】は、使った相手の位置と、周りの状況がわかる魔法だ。それの情報はミニマップ(全プレイヤー所持)に映し出される。
そして、そこには──夥しい量の魔物に囲まれたカオリのマークがあった。
推測できる魔物の種類はオリハルコンゴーレム。そしてカオリには有効打となる攻撃がない。つまり、このままだと待っているのは──死だ。それだけは阻止しなければ!
こんなに呑気に考えてる場合じゃねぇ! 早く移動しないと!
「ミライ、サクラ! 急ぐぞ俺に付いて来い! NPCを使うんだ!」
「っはい!」
「……わかたっ!」
高速で移動しているが、ここからカオリのところまで結構な距離がある。今はカオリが【百花繚乱】でも使っているのか機敏に動き回っているが、それもいつまでも続くわけじゃない。一刻も早く辿り着かなければ!
……焦っても仕方ない。何故こうなってしまったかを考えよう。
この階層で魔物が出るのは魔物部屋しかないのだろう。何もいない所を探索させ、疲れたところで壁に描かれている“転移魔法陣”で魔物部屋へ強制的に移動させ、倒す。そういう階層。くそっ! もっと早く気付いていれば!
「キラ君! 今は自分を責めていないでカオリを助けることだけに集中しましょう!」
あぁ、ミライ。こういう時は心を読んでくれて助かると思うよ。
「わかってる! 先に行くぞ!──【神護】【神足通】!」
先に行くので、ミライ達に【神護】をかけ、【神足通】でほぼ瞬間移動ほどの速さで移動していった。
◇◇◇
「カオリ! そこから離れろ!」
最初は何を言っているかわからなかった。でもすぐに分かった。いや、分からされた。だって──浮遊感を感じだんだもの。
この浮遊感は“転移”の証。そして、ダンジョンで“転移”といえば、トラップしかないじゃない。
私が転移させられたのは、とても広い部屋だった。遮蔽物は何も無くて。平らな床と、平らで飾り気のない壁。照明も何もついていない天井で囲まれた、そんな部屋だった。
一瞬、どんなトラップかわからなかったけど、すぐにわかった。だって──沢山オリハルコンゴーレムが沸いてきたんだもの。
その瞬間、私は悟った。──私はここで、死んでしまうんだと。
転移で移動させられたからここがどこかわからない。マップにはキラたちを示すポイントもない。完全な孤独。
「【明鏡止水】【百花繚乱】」
出た言葉がそれだった。今更叫んでもどうしようもない。でも──精精、命尽きるその時まで、必死に足掻いてみようと。そう思った。
それからはどうやったのかは分からない。我武者羅に、一心不乱に、攻撃を受けないように立ち回り、カウンターを入れる。それの繰り返し。でも──必ず終わりは来る。
「あ……」
疲労の所為か、私の片足に、もう片方の足が引っかかって、私は倒れてしまった。
いくら動きが遅いゴーレムであっても、数えきれないほどの量がいるこの部屋で、私が攻撃を捌きながら動き回れる範囲は当然広くなかった。
なので、一瞬で今まであった空白がオリハルコンゴーレムで埋め尽くされ、今にもその最前線──つまり私に近いオリハルコンゴーレムが一斉に腕を振り上げ、私を圧し潰そうと迫ってきそう。
私は無意識のうちにこの部屋から脱出しようとしていたのかもしれない。何故なら、私の前方は、たった数体のオリハルコンゴーレムがいるだけで、その後ろはこの部屋から脱出するための扉だったから。
私の周りにいるオリハルコンゴーレム達が一斉に腕を振り上げた。もう10秒もしないうちに私はぐちゃぐちゃに潰されてしまう。
そこで、私は、世界がゆっくりに見えるようになった。あぁ、走馬燈ってこんな風に見えるのね。と呑気に考えていた。だって、もう、死んじゃうから。
私は幼いころからママに『情けは人の為ならず』と言われ続けていた。『誰かを助けることは、まわりまわって薫のためになるから』と。
だから、人助けをたくさんしたし、誰もなりたがらなかった学級委員にもなった。なら、私の今の願い事くらい叶えてくれても、良いんじゃないかなぁ? いい加減、この感情を誤魔化すのも難しくなってきたよ?
だから、さ。この私の願い、叶えてくれないかなぁ?
────誰か、助けてよ! いやだ! 私はまだ死にたくないのよ! まだまだやりたいことはたくさんあるの! だから!
「だれか、たすけてよぉ……」
今されいくら懇願しようとも、私の願いは叶えられることなく。目の前まで迫ったオリハルコンゴーレムの振り下ろされた腕に押しつぶされる──はずだった。
「──【神護】!」
「え……?」
「お望み通り、助けにきた」
「キラ……キラぁぁぁああああ!」
「おう、俺だ。カオリ、無事か?」
キラ……良かった。私、助けてもらえたのね? もう危なくないの、よね?……あぁ! キラ一人だけじゃ絶対に勝てない! 私も一緒に戦わないと!
「キラ! 私も加戦するわよ!」
「ばか。こんなの俺一人で大丈夫だって。お前は、ミライ達と後ろで観戦してろ。あ、あと涙拭いとけよ?」
キラのその言葉で、私は自分が泣いていることを初めて知った。その時にはもう彼は戦っていて。息を切らせながらこの部屋に入ってきたミライとサクラに寄り添われながら安全な場所まで退避した。
……キラが戦ってる姿をミライ達と見ているときに、胸がざわついていたのは、何故かしら?




