Save1 ダイブ・イン
暗い、通路の中。一人の少年が剣を片手に持ち、何かと戦っていた。その剣を振る速さは、一般的な人間が出せる速さではない。それもそのはず、何故ならここは、ゲームの中なのだから。
「《二連切り》!」
少年がそう叫んだ。すると、剣が今までよりも速く動き、敵を二回攻撃したところで止まった。同時に敵もHPが尽きたのか、一瞬光ったと思うと、ポリゴンとなって爆散した。と、ここで少年の頭の中にシステム音が響いた。
〈レベルが29から30に上がりました。βテスト版ではこれ以上上がりません〉
「やっと上がったか。どれだけ倒したと……。疲れた~」
少年はそう言いながら、自分のステータスを確認した。
キラ
男
種族:人
状態:疲労(弱)
Lv.30
HP:2560/3200
MP:2470/4000
体力:450
攻撃力:230
防御力:245
魔法攻撃力:225
魔法防御力:250
俊敏:260
運:60
〈スキル〉
・剣術 Lv.4 ・気配察知 Lv.4 ・筋力上昇 Lv.3 ・脚力上昇 Lv.3
「疲労(弱)とか……。間違っては無いけどさ。さてと、このβテスト最後のボスに挑むとしようか」
少年はそう言うと、アイテムボックスに入っているアイテムを確認し、通路の奥に向かって歩き出した。
「思ったより、弱かったな」
あれから一時間後、少年がそう呟いた。ただここでボスをフォローするとしたら、「相手が強すぎただけだ。気にするな」。これしかないだろう。何故ならこのゲーム、【Another World・Online】 のβテスト版では、レベルが20あればクリアが出来るようになっているからだ。
しかし、未だに最後のボスが倒されていない。その理由は簡単。倒せないのだ。何言ってんだ?と思うだろう。だが、このクリアレベル20とはレイドパーティーで挑んだ場合の話。他のプレイヤーはその人数を集められなかった。
いや、それでは語弊があるか。正しく言えば集められただろう、時間を掛ければ。だが、それよりもレベルが30にいき、ボスを撃破するのが早かったのだ。この少年の方が。
「よし。ラスボスも倒し終わったし、ログアウトするか。……ん?」
少年がログアウトしようとした矢先、ボス部屋の奥に扉が現れた。少年は疑問に思いつつ、扉を開け、中に入った。
その先には、とても明るい部屋があった。広さはそこまでではなく、人が三人入れる程度、そして、壁・床・天井全てが真っ白だった。その部屋の中央には宝箱が置いてあった。少年は宝箱に近づき、開けた。
「な、何だ、これ?」
その中には、見たことの無いアイテムが入っていた。
「【スキルの素】? ぅわ!」
そのアイテムは、少年がアイテム名を確認すると、少年の中に入っていった。
「何なんだ? ……ま、いいか」
少年はそう言うとメニューからログアウトボタンを押し、ログアウトした。
※
【Another World・Online】のβテストが終わって、数週間。
「さて、あと30分か」
クーラーが効いている部屋で、【Another World・Online】をクリアした俺──雲母八雲は、部屋の中をウロチョロしていた。その理由は……
「あ~早くAWOやりたいよ~」
午前10時から始まる、【Another World・Online】の本サービス開始時刻が待ち遠しいからだ。
「おにぃ、気持ち悪いよ?」
今俺に毒を吐いたのは俺の妹の雲母瑚白。黒髪黒目で成績優秀、スポーツ万能。おまけに見た目も可愛い、完璧な子だ。
因みに俺は、黒髪黒目、成績普通、運動神経は普通、見た目は、背は高いけど、他が普通の所謂フツメンだ。それはいいとして、今の瑚白からの口撃はグサッときた。何か言ってやらねば。
「そういうことはもう少しオブラートに包んでくれよ~。お兄ちゃん、ちょっと心に来るものがあるぞ~?」
「おにぃ……やっぱ無理だわ。だからはっきり言うね。キモイ」
「ぐはっ」
「まぁ~気持ちは分かるけどね」
「だろ?」
「でも、もう少し落ち着こうよ。ほら、これでも読んでて」
そう言って、瑚白は【Another World・Online】の紹介パンフレットを投げ渡してきた。俺はそれをキャッチし、中身を読んだ。
1:【Another World・Online】はVRMMORPGの最新作品である。
2:【Another World・Online】の世界
【Another World・Online】はライトノベルなどによくある『異世界』をテーマにして作られている。勿論人間もいれば、魔物もいる。さらに、獣人族に森霊族などの亜人族。他には、魔物とは別に竜がいたりする。
そして、ここが【Another World・Online】のオリジナル要素で、行く先々によって、環境は勿論、文明発達度まで変わる。現在の地球よりも劣っているところから、とても優れているところもある。
3:【Another World・Online】で出来ること
【Another World・Online】で出来ることは無限である。完全自己学習型AIを組み込んでいるので、国を作るのも良し、組織を作るのも良し、結婚するのも良し。
完全自己学習型AIがいつもプログラミングしているので、バグが起きることもない。サーバーは世界中の人がプレイしても、全く問題が無いので、動きがしにくいなどの心配はいらない。
キャラクターメイクのところで、人族以外にもなれる。
4:【Another World・Online】の目的
【Another World・Online】の目的は無い。一応魔王がいるが、倒さなくても良い。魔王を倒そうとするのならば、専用のストーリーがある。
5:【Another World・Online】に居るNPC
これらにも、完全自己学習型AIが入っているため、プレイヤーとあまり変わらない。ただし、戦闘や鍛冶などは出来ない。
【Another World・Online】で出来ることは無限なので、勿論、NPCとの結婚も可能。子供はとあるコマンドを実行すれば、作ることが可能。
「おにぃ、もうすぐ時間だよ? 早く」
「おう! 始まりの街の広場集合でいいか?」
「いいよ。あ、名前は『アンラ』だから」
「了解。俺は『キラ』だ」
と、瑚白との軽い打ち合わせをやってから、自室へと向かう。
自室に入ると、ベッドに横になる。楽しみすぎて準備は完璧に出来ているので、後はログインするだけだ。
時計を見と、そこには9時58分と示されていた。こみ上げてくる興奮を押さえつけ、チョーカー型のハードを自分の首につける。
よく分からないが、このチョーカーから針が出て、神経と接続し、脳から送られてきた信号をゲーム内のキャラに反映するらしい。うん、わからん。
もう一度時計を見る。9時59分50秒。心の中で10秒数えてから、起動コマンドを、口にした。
「《ダイブ・イン》!」
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