Save162 再会
「よっと。そうそうこの感覚。久しぶりだ」
「キラ君」
「キラ~」
「……キラ」
俺がダイブしたのより少し遅れて、ミライ達がダイブしてきた。久しぶりの姿だ。現実の方でもあまり容姿は変わらないが、サクラは緑髪の方が見慣れている分、しっくりくる。
「それじゃ、行くか」
俺達は手を繋ぎ、クレアが待っている向こうの世界に【転移】した。
【転移】した先には、見たこともない光景が広がっていた。
大きな建物──とは言っても現代程の高層ビルはない。高くても三階程度──が立ち並び、過去の一階建ての家がまばらに点在するよりは街っぽくなっている。
たった二ヶ月程度でこれほどまでに発展するものだろうか。
そして一際目立つ大きな建物。白い外見に周りの建物の何倍もある高さ。それは西洋の城だった。国でもできたのだろうか。
「とりあえずクレアを探すか」
【探査】を使い、クレアの居場所を探す。
「お?」
反応があった。かなり近い。反応があった方向を向くと、城があった。丁度反応があるところも合致する。もしかしてクレアが王様?
「あの城にいるみたいだ」
「お姫様みたいですね!」
「王女様じゃない?」
「……女王、かも」
一番あり得るのは女王だろう。クレアがここら一帯を統治し、世界神たちがそれを補佐する。……ありえなくはない構成だ。
一瞬だけ、犯罪者を豚を見るような目で蔑みながら鞭を振るうクレアの姿を想像したが、頭を振ってやめる。クレアにそんな姿は似合わないし、やっていて欲しくない。
「どうする? 【転移】で近くまで行くか?」
「少し街並みを見ていきたいです」
「私も同意ね。少し興味があるわ」
「……面白そう」
俺も見ていきたいので、歩いて城に向かうことになった。
町は活気で漲っていて、あちらこちらから威勢のいい掛け声が聞こえてくる。プレイヤーのいないNPCだけの世界。
途中、商店街のような場所を通った。路地に出店を構え、果物や野菜、食器などの生活用品を売っていた。俺達もそこで串焼きを買い、食べ歩きをした。たれではなく塩が少しだけ掛かっている。
「向こうのより美味いんじゃないか?」
「そうですね。キラ君には敵いませんけど」
「確かにこっちのほうがおいしいわね。キラよりは下だけど」
「……キラの方が、おいしい」
「お前らは俺を引き合いに出さないと感想も述べられないの?」
サクラなんて俺の方がおいしいってだけでこっちの方の料理の感想も言わなかったぞ。
と、そんなこんなをしているうちに、俺達は城の前に到着した。
「待て! 貴様ら何者だ!」
門番の横を素通りしようとしたところ、剣を向けて止められた。門番までいるのかよ。
「クレアに用事があってきた」
「クレア? 誰だそれは」
「クレアは……って、お前アーサーか?」
よく見るとアーサーだった。久しぶりに会ったが、確かにアーサーだ。所持している剣だって俺が最終決戦前に渡したエクスカリバーだし。
「! 失礼しました。どうぞお入りください!」
俺だと認識したアーサーは、剣を収め門を開けてくれた。
「頑張れよ」
「勿体なきお言葉」
深々と頭を下げたアーサーは、俺達が門の中に入って門が閉じるまでそのままの体勢でいた。
「さて、マップを見るとかなりのNPCがいるな」
「そうですね。見つかって騒がれると面倒です」
「魔法で隠れてサクッと向かう?」
「……任せて」
ということで、俺達は魔法で姿を隠し堂々と城の中に潜入した。念には念をで、俺とミライとサクラで魔法を使う。
王族が住む屋敷だ。これくらいの対策はしてあると考えて、騒ぎにならないように魔法を隠す魔法を展開し、その魔法を隠す魔法を展開し……と限りなくゼロに近くなるまで魔法を隠す。これくらいならセンサーがあっても反応しないだろう。
城の中を進むこと数十分。俺達は大きな扉の前にいた。その扉の豪華さから、恐らく玉座の間だろう。クレアがいるはずだ。
俺達は扉を通り抜けて中に入った。【透視】と【瞬間移動】を使った。
そして、俺達の予想通りクレアがいた。玉座に腰掛けつまらなそうにひじ掛けに肘をついていた。
「キラよ……早く会いたいのじゃ。はぁ……」
小さくそう呟く。しかし、その声は静かな玉座の間に反響してしまった。なので俺達でも聞き取れた。
「キラはまだ来ぬのかのぅ……」
またもや呟く。先ほどと同様に響くせいで、しっかりと聞き取れる。かなり待たせてしまったようだ。確かに二ヶ月は長いかもしれない。俺だってクレアに会いたかった。
俺がミライ達をその場に残してクレアに近付いたとき、何か違和感に気付いた。なんだ?
「キラ……」チラッ
よくクレアを観察してみると、俺の方を時々見ている。気のせいかもしれないが、まぁクレアだし。そういうことだろう。
だが、このまま姿を見せると言うのはつまらない。騙されたのだから、何か仕返しをしてやろう。
俺はタンと床を踏み抜き、神速でクレアに接近した。それに目を見開き驚きをあらわにするクレア。予備動作なしの接近だったため動けないようだ。
「し、【震牢】」
少し震えた声で防御するクレア。俺はそれを【震牢】を使うことで解除し、もう一度床を踏みつけクレアに接近する。
「ひっ」
「【神足通】」
クレアの目の前にまで接近した俺は、【神足通】でクレアの背後に出現し、クレアを優しく抱きしめた。同時に魔法も解く。ミライ達も同様に魔法を解いて姿を現す。
「ただいま、クレア」
「……キラ」
クレアが俺の腕の中でプルプルと震えている。俺と会えた感激に、感涙を流しているのだろうか。
「一度後悔させてやるのじゃ! 【震牢】多重展開! 【昇格】! 【原初大爆発】!」
「ちょっと待てなんでクレアが【原初大爆発】なんて使え──うぉっ!?」
俺の周囲が空間ごと隔絶され、さらに【昇格】によって強化されたクレアの【原初大爆発】が俺の身を襲う。シャレにならない暴力の嵐があとコンマ数秒後には俺を消し済みにする。
だが、そうやすやすと喰らうわけにはいかない。命の危機を悟った俺の脳が、一気に覚醒し全てがスローに見えてくる。
その中で俺はあの時使わなかった武技を使う。
「【渡航】」
空間さえも飛び越えて移動することができる【渡航】で、【震牢】から脱出する。ついでに置き土産として【昇格】を使ってから【極超新星】を残しておいた。恐らくクレアが展開しただけの【震牢】ではもって数秒だろう。
「あれ大丈夫か? クレア」
「なんでキラが脱出しておるのじゃ!?」
「それよりも俺が【極超新星】を使ったせいで、【震牢】が壊れたらここら一帯が無に帰すぞ」
「キラは何をしてくれたのじゃ!?」
「……置き土産?」
「そんな土産などいらぬ! もうこうなったら奥の手じゃ! 【神格化】!」
これは、もう既にお前は神だろう、というツッコミを入れた方が良いのだろうか。非常に悩みどころだ。
「【超重力点】!」
クレアがそう唱えると同時に、【震牢】の中で暴れていた【原初大爆発】と【極超新星】は消え去った。【神格化】のお陰だろうな。
「キラ君……」
「キラ、あなたね……」
「……」
ミライとカオリの小言が胸に突き刺さる。サクラに至っては何も話さずジト目をクリティカルで与えてくる。俺が悪いのはわかっているので甘んじて受け入れよう。
「キラ、少し話がしたいのじゃ」
「なんだ?」
「何故こんなことをしたのじゃ……」
「だって、クレア俺達がここに来てるの知ってただろ。これ見よがしにちらちら俺を見てたし」
「む、バレておったのか」
「ほんのちょっと前だけどな」
「それでお返しにとこんなことを?」
「こんなことって、驚かそうとしただけだろ? それをクレアが……」
「もういいのじゃ!」
分が悪いと悟ったのかクレアが会話を打ち切る。【極超新星】を突かれると俺も何も言えないので、無駄に追及することはしない。
「クレア」
「なんじゃ?」
「ただいま」
「っ……おかえりなのじゃ」
ミライ達も俺達の所に寄ってきて、皆でクレアを抱きしめる。再会を喜び合うために。




