Save159 終わりの約束
クレアの移動以来久しぶりに来たこっちの世界。いつの間にかとても発展していた。
こっちに来たのは、これで最後になるからだ。あとで必ず来るつもりだが、それがいつなのかはわからないため、目に焼き付けておきたくて。
それとGMとの邂逅。こっちは別にみるだけで話すわけではない。多少話すかもしれないが、特筆することはない。
「キラさーん!」
「ごふっ」
出会い頭に突進してきたものがいる。シエルだ。
「いつの間にか知らない場所に居たんですよ!? キラさんには会えないし、何もすることはないしですっごく暇だったんですからぁ!」
愚痴がたくさん聞けた。そして俺達がもういなくなることを伝えると号泣した。
「また、来るんですよね? 絶対ですよ」
「あぁ、また来る。絶対に」
「キラさん。私、あなたが好きです」
「ブフッ」
「なんて、冗談ですよ……」
「心臓に悪い」
「何ですか、私に告白されたくないってことですか」
「いや、そういうことじゃない」
ミライとかミライとかサクラとかが大変なことになるから心臓に悪いと言うことだ。口には出さないけど。
「いたっ」
「キラ君?」
「……キラ?」
そう言えばミライ達って心読めるんだっけ。あはは、あははははは……。ごめんなさい。
シエルとはここで別れ、途中クロとシロに会いながらも、俺達は街の外まで歩いてきた。ここで最後だろう。
「キラよ」
先頭を歩いていたクレアが、振り返る。俺達も歩みを止め、クレアの言葉に耳を傾ける。
「妾と出会ってから、キラは楽しかったのじゃ?」
「……ああ、楽しかった」
「妾、キラの役に立つことはできたのじゃ?」
「……ああ、とても役に立ってくれた。クレアがいなければ今日この日に攻略することはできなかった。ありがとう」
「キラ……キラよ。わ、妾……」
と、ここまで言ったとき。ミライとサクラが動いた。クレアのそばまで寄っていき、何か話しかけている。それに小さく頷くクレア。
ミライとサクラが帰ってきたかと思うと、小さく「よしっ」という声が聞こえた。クレアからだ。何をしていたのか、カオリでもわかったらしい。
「キラよ。妾、キラの事が──大っ好きじゃ」
頬を伝う雫と共に、クレアの口からそんな言葉が放たれた。すぐには理解できない。が、時間を刻むごとに理解していく。
「妾を、キラの四人目の妻にしてほしいのじゃ」
後ろを振り返ってみると、優し気な笑みを浮かべるミライ、カオリ、サクラがいた。そしてミライが小さく頷く。
「……わかった。クレア、俺と結婚してくれ」
「──こちらこそお願いするのじゃ!」
クレアが抱き着いてきた。ミライでもなく、カオリでもなく、サクラでも感じないようなこの気持ちは、何だろうか。安心感とも違う。けれども恋とも違うような。そんな感情。
無理やりにでもこの感情に名前を付けるのならば。一番近いのは……親愛、だろうか。……やっぱりわからん。
クレアの後ろに回り込んだミライとサクラが、クレアを俺と挟み込むように抱きしめる。横からはカオリが。今、この時この瞬間。この空間には愛で溢れていた。
〈全ての神の討伐が確認されました。プレイヤーのログアウトが可能になります。一分以内にログアウトされていない場合、強制的にログアウトさせていただきます〉
〈残り:59秒〉
唐突にそんな脳内アナウンスが流れた。
「もう、終わりじゃな」
「いや、終わらせない。絶対にここに帰ってきて、俺と、ミライと、カオリと、サクラと、そしてクレア。この皆で幸せに過ごすんだ」
「……そう、じゃな。待っておる」
「そう長くは待たせない」
「わかったのじゃ」
「クレア」
「キラ……」
空気を読んでくれたのか、ミライ達はログアウトしたようだ。
「クレア」
「キラ」
ただ名前を呼び合うだけ。なのにこれほどまでに幸福感を感じるのは、それは俺がクレアの事が好きだから、なのだろうか。
「クレア……」
「キラ……」
そして、どちらからともなく、唇を重ねた。小さい唇。記憶に焼き付けるかのように、情熱的に俺達はキスを重ねた。
〈残り:10秒〉
「もう行かないと」
「……」
「……」
「キラ!」
抱き着いてくるクレア。俺も抱きしめ返す。
「絶対に、絶対じゃ!」
「ああ」
「……っ」
「……またな、クレア」
〈残り:7秒〉
「……ぁ」
「やっぱり最後の最後まで一緒にいるか」
「キラ……嬉しいのじゃ」
「手でもつないでおくか」
「うむ」
〈残り:4秒〉
「ずっと待っているのじゃ」
「わかった」
「ずっとずっとずぅっと、待っているのじゃ」
「わかった。必ず」
〈残り:2秒〉
「もう時間じゃな。……キラ、最後にいいかの?」
「なんだ?」
「もう一度キスして欲しいのじゃ」
「あぁ、わかった」
「んっ」
〈残り:0秒〉
〈強制ログアウトします〉
「じゃあの、キラ。妾の────………………
薄れゆく意識の中、聞こえたクレアの声。それは最後まで聞き取ることはできなかった。




