Save158 戦いを終えて
「キラく~ん!」
「お疲れ、ミライ」
俺がミライの所に行くと、ミライは俺を見つけるなり駆け出し抱き着いてきた。やっぱりミライが一番安心するなぁ。
よしよしと、ミライの頭を撫でる。そうすると、ミライがふにゃっとした笑顔を見せてくれる。その笑顔、プライスレス。
「大丈夫だったか?」
「はい、攻撃もあまり受けませんでしたし、【魔道王】を使っていたのでそれほど苦戦はしませんでした」
「良かった。とりあえずカオリとサクラの所にも行こう」
「はい!」
俺とミライは手を絡ませ歩き出した。ここから近いのはカオリだったはず。
「あの、キラ君」
「どうした?」
カオリの所に向かっている途中、ミライが話しかけてきた。
「もう、終わっちゃうんですよね……」
「そうだな。もうすぐ終わる」
「……なんというか、私……」
「寂しい、だろ?」
「……はい、多分そうだと思います。このAWOというゲームのお陰でキラ君に出会えて、カオリと遊べて、サクラちゃんとも出会うことができました。勿論クレアシオンだってそうです。だから……」
「大丈夫だ。またすぐ会える」
「……」
「俺達だけじゃない。クレアシオンもそうだ」
「え……?」
感傷に浸っていたのか、少し涙目のミライが俺の方を見る。
俺は「これは俺の予想だが……」と前置きをしてから、
「このゲームは無くならない。少なくとも、そんなすぐには」
「ど、どうして、言い切れるんですか……?」
「それはな。このゲームにGMが囚われるからだ」
「え?」
「実は秘密裏にクレアシオンと世界神と一緒に新しいワールドを作ってたんだ。そこにGMをぶち込んで出れなくする。あっちはあっちのAIがプログラミングしてるから好き勝手することはできないし、逆にこっちはGM、つまり神帝が倒されたと認識される。と、同時に神様たちが神帝以外の神様を倒していてくれているはずだから、全神を倒したとシステムが判断し、プレイヤーが全員解放されるって訳だ」
「……」
ぽかんと口を開け、ミライが俺を見つめる。
「す、凄いですね……。でも、それが何で無くならない理由と……あっ」
「そう、運営だ。運営はGMがまだいるのにゲームを消すことはできない。さらに新しく創ったワールドにすぐに干渉することはできないようになっている。つまり、GMがあっちのワールドにいる限りこのゲームを消すことができない訳だ。最悪の展開はGM関係なしに消去されることだが、一日以内に何とかする」
「なんとかって……?」
「う~ん……。俺のPCにデータだけ移動する、とか?」
VRゲームだとしても、所詮はゲーム。プログラムで動いているはずだ。それをPCに移せば多分大丈夫なはず。MMOとしてネットにつないでやるから大規模なコンピュータが必要なだけで、データだけならば大丈夫なはずだ。
「だから、このゲームから解放されても、いつか絶対にクレアシオン達に会うことはできる。俺だってクロに会いたいし、シエルだって色々言っていたが、一緒にいて楽しかった。そう簡単になくしたくはない」
「キラ君……」
「ま、よーするに。ミライは何も心配いらない。安心しろってことだ」
「……キラ君」
「ん?」
ミライに呼ばれて横を向く。そこには優しい笑顔を浮かべたミライがいて。こう、言葉を紡いだ。
「──私はやっぱり、キラ君が大好きです」
「あぁ、俺もだ。ミライ、大好きだよ」
少々照れ臭いが、二人きりだからこそ、こういうことを言える。ミライだからこそ、というのもあるかもしれないが。
「……」
ミライが瞳を閉じる。心なし唇が震えているような気がする。
少しだけ突き出された唇は、俺を誘っているかのよう。俺に断る理由はないので、俺も俺の唇をミライの唇に重ねた。
俺達二人の中間で、固く絡み合った手が二つ。数秒間はそうしていたと思う。
ミライとの、振り返ると少し恥ずかしいやり取りの後は、カオリに合流した。ミライにしたような説明をすると、カオリは大体察しがついていたようだ。
何をしているのかはわからなかったが、攻略後のために色々動いているのは知っていたとのこと。流石カオリだ。ミライはそんなカオリに嫉妬しているようだ。可愛い。
その後はサクラに合流して、カオリと同じように説明する。俺達が現れた瞬間、ミライの関所をいとも容易く突破し俺に抱き着いてきた。最近はなかった久しぶりの感触。
ミライと同様頭を撫でるとふやけたような笑顔が浮かぶ。守りたい、この笑顔。
こうして俺達は全員揃い、カムイの所へと向かった。クレアシオン達も直に来るだろうし、ひとまとまりになっていた方が良いだろう、ということだ。
カムイとの情報交換が終わった。死者はいないらしい。ひとまず安心だ。そして後はGMの件さえ終われば晴れて皆は自由の身。このゲームから解放される。
と、噂をすればなんとやら。クレアシオン達が飛んできた。
「お疲れなのじゃ、キラ」
「クレアシオンもな」
「うむ。キラよ、神帝の移動は終わった。まもなく全てが終わるじゃろう。……っすまん」
クレアシオンは俺から体ごと顔を背けた。腕で目元を拭い、絶対に嗚咽を漏らさんと歯を食いしばっているということが良く分かる。
「クレアシオン……いや、クレア」
いちいち長ったらしい名前を呼ぶのはもうやめた。面倒だから。
名前を呼ばれたクレアは、赤く腫れた目を隠さず、俺の目を見つめる。
そして俺はおもむろにクレアを抱きしめた。
「ありがとうな、クレア。また、絶対に会いに来るから」
「絶対じゃぞ……絶対だからなっ」
「あぁ」
「来なかったら許さぬからな……許さないのじゃ……」
服が湿っていく。だが今はこのままにしておこう。クレアの思う存分、泣いて欲しい。
背後を見ると、ミライも、カオリも、サクラも泣いていた。わかっていても、別れというものは悲しいものだ。
「クレア、この後あっちの世界に行こうと思う。俺とミライ達だけで。クレアも来るか?」
「……行くのじゃ」
「わかった」
俺はクレアの下から離れ、カムイにこの後の事を頼んだ。事情を聞かれたが、今は急いでいると伝え、後で必ず説明すると言い残し帰ってきた。
「それじゃあ、行くぞ」
そして俺は、もう一つの方に【転移】した。




