Save157 最後の戦い 〈後〉
「調子に乗るなよ小僧。〝システムコマンド【神帝】〟っ!」
やっぱりか……。
俺が危惧していたこと。それはRPGでは定番のボスの第二形態。大抵は強くなっているので戦いたくはなかった。だけどもしあった時のために手は温存してあるので、何とかなるだろう。そう信じたい。
「〝来い〟」
たったそれだけ。たった二文字言葉にしただけで、全ての神が集束した。消して大きな声ではなかったにもかかわらず、一秒もかからずに集まった。ほとんどの神がボロボロで、既に戦力にはならないはずだ。
「〝修復〟」
またもや単語のみの言葉。しかしそれだけなのにもかかわらず神たちの体が修復されていく。GMであっても例外ではない。俺が切り落とした片腕も復活している。
「全員、〝総攻撃〟」
どうやら全員で俺を倒そうとしているらしい。
だが──
「無駄だ」
確かに一般のプレイヤーならば絶望するかもしれない。ただのβテストをクリアしただけのプレイヤーならば先ほどの戦闘で瀕死になっているかもしれない。
だが、俺は違う。圧倒的なステータスを誇る化け物だ。自分で言うのも照れるが、このAWO最強のプレイヤーだ。たかがGMを除く神七柱程度の攻撃で倒れるはずもない。
「【創星】」
俺の前に小さな恒星が生まれる。世界神の新たに取得した武技だ。正確には奥義を使う上で必要な武技なので、これ単体で使うことは滅多にない。
こうしている間にも、創造神の、世界神の、戦神の、龍神の、魔神の、悪神の奥義が俺に殺到している。俺に着弾するまで、およそ一秒。だがそれだけあれば十分だ。
「護れ。爆ぜろ!」
俺が【震牢】を発動すると同時に、俺に創られた恒星が急速に収縮する。そして次の瞬間。盛大な音を立てて爆発した。
【超新星】。世界神が新たに取得した奥義の一つだ。
膨大なエネルギーを誇るその爆発は、神の攻撃の悉くを相殺し、超越し、反撃する。この場でダメージを受けなかったのは、俺。そしてもう一人。
「初めて見る奥義だ。一体どういう組み合わせなのかね?」
「教えるわけがないだろ」
GM。俺の攻撃が届くとは思ってもいなかったが、実際その通りになると驚きを隠せない。
どうやらさっきの攻撃で神は大体一掃できたらしい。生き残ったとしても、もう戦えない。流石に回復もしないだろう。
「もしかしなくても、決着がつかない可能性がある。素直に負けを認めてくれないか」
「拒否させてもらおうか。もし死ぬことになったとしても、それは本望だ」
一応言っておくが、俺はこいつを死なせる気がない。そう約束したからだ。究極には少々強引な手でこのゲームを攻略する必要がありそうだ。
「【衝震波】」
「【衝震波】」
さっきのとは比べ物にならないほどの衝撃を伴った正拳突き。それを俺も同じことをして相殺する。こんなことを続けていれば終わることはないだろう。
「【空震】」
「【天狼】」
直接空間を震わせて攻撃してきたので、快く受け入れる。その代わり【天狼】で燃やし尽くすまで消えない蒼炎で攻撃する。狼の姿をしたその炎は、大口を開けてGMに噛みついた。
単発の攻撃なのか一撃しかダメージが入ってこない。一秒後には全回復する。
「〝状態異常無効〟」
やはりそうするよな。んでHPも回復されると。マジでジリ貧なんだが。
仕方ない。一気に仕掛けて一気に決めるか。
「降参する気はないんだな?」
「勿論」
「わかった」
遠慮することはない。どうせ死なないように保険でも掛けてあるのだろう。それにさっき神が来たと言うことはクレアシオン達も戦闘が終わっているはず。俺の事が見えていなければならないのだが、さっきクレアシオンからこんなものが届いたと言うことは俺の事を見ているはず。なら大丈夫だ。
「【震牢】多重展開!」
クレアシオンが向こうの世界と【賢者】を繋いでくれたおかげで、一つの魔法を多重に展開することができるようになった。コートの機能ではできないが、直接魔法を使うだけなのでさして手間は変わらない。
【震牢】でGMが逃げられないように囲う。幾重に展開しているので、中にいるのが俺だとしてもすぐには脱出できない。
「耐えられるものなら耐えてみな」
「ふん、〝守れ〟」
世界神が新たに手に入れた最強の奥義。その絶大な威力から使うのを封印していたが、仕方ない。
「──この世の理よ──万物等しく無に返せ──無を有に──有を無に──今こそ力を開放せし時──【原初大爆発】!」
宇宙の始まりに起きたとされるビッグバンを起こす奥義。その威力は測り知れない。
俺が展開した【震牢】が早くも悲鳴を上げ、一枚、また一枚と破られていく。
「【震牢】多重展開!」
全コンピュータを使っての多重展開。これなら流石に一分はもってくれるはず。だが、足りないかもしれない。念には念をだ、もう一回くらい違う奥義を使おう。同じ奥義だとすぐに【震牢】が壊れる。
「【極超新星】!」
【超新星】よりも威力が桁外れに大きい【極超新星】。これならば完全に削りきれるはず。
そして待つこと数分。やっと【震牢】の中の爆発が収まった。破られた【震牢】の数は百を優に超えていたはず。恐るべし【原初大爆発】。絶対に使われないように、使わないようによう。
さらに驚くべきことが、未だにGMがいると言うこと。
「凄いな。よく耐えられたな」
「さ、流石に死ぬかと思ったね……。システム使ってなかったらヤバかったかも」
やっぱりシステムの壁は越えられない、か? いや、アレを使えばワンチャン……。
「降参する気は?」
「ない」
ないらしいので遠慮せずに使いますか。
「【昇格】」
クレアシオンからもらった新たな力。今ここで始めて使ってみる。
「あ、あのさぁ……」
震える声でGMが文句を言ってくる。どうしたのだろうか。
ゆっくりと歩いて近付く。今の状態ならば攻撃を仕掛けられそうもないしな。見た目はそうでなくても心は満身創痍だ。
「まだやるか?」
「くっ……殺せ! 殺せよ! そうすればここから脱出できる!」
「いや、普通に降参して欲しんだが」
「いやだね。負ける位なら死んだほうがましだよ」
「その二つの何が違うんだ……?」
少なくとも負けるから殺されるのであって、殺されている時点で負けているような気がするのだが。
「わかった。倒してやる。好きな武器を選べ」
【装展】を使い弓をしまうと、別の言葉を発する。
「【神装展開】」
黄金に光り輝く武器たちが、俺の周りを宙に浮かんで回る。輪状に後ろで回したら後光とかにできそうだ。しないけど。
「ファンタジーと言ったら、剣と魔法だろう。だから剣で殺してくれ」
首を素直に差し出すGM。素直すぎて裏がないのか心配な所だ。まぁ関係ない。その時はその時だ。
俺は回っている武器の中から剣を取り出す。
【天叢雲剣】。日本に古代から伝わる神剣だ。
「じゃ、またあとでな」
「え?」
驚いたような顔をしているGMに向かって、俺は【天叢雲剣】で切りかかった。
流石神剣。スパッと切れた。ここからは俺じゃなく、クレアシオン達の出番だ。任せよう。
俺はミライがいる方へ駆け出した。もちろん【昇格】は解いている。




