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Save156 最後の戦い 〈前〉

 場を沈黙が支配している。空中に佇む二人の男。互いに互いを睨み、一挙手一投足をも見逃さんと集中する。


 片方は俺──キラ。自分で言うのもあれだが、プレイヤーで最強だと自負している。

 俺に相対するのは、このAWOの神様の一柱であり、この惨状を作り出した張本人であるゲームマスター。白髪でひげはない。しかしその顔には深いしわが刻まれており、仙人と言われても納得するだろう。


 手には何も持っていない。一見無防備に見えるが、その実俺は手出しできないでいた。隙が無いわけじゃない。今の俺のErrorを超越したと思われるステータスならば一瞬で肉薄し一撃を食らわせることはできるだろう。


 だが相手はゲームマスターだ。何をするのか、どんな手札を持っているのかすらわからない相手に無暗に突っ込むほど、俺は馬鹿じゃない。

 相手も同じだろう。立場上俺のステータスを見ることができるはずだ。しかし結果は不明。装備すらAWOには無かった代物であるからして、手出しができない。


『汝、我に勝機を見出すか』

「それは戦ってみないとわからねぇな」


 実力が不明な以上、言葉で揺さぶりをかけようと思ったのか、話しかけてきた。


「それと、その喋り方やめろ。キャラ作りなのかもしれないが、普通にしゃべってくれ」

「ふむ。確かにキャラ作りであるし、喋り辛かったので普通に喋ろう。して、お前は勝てると思っているのか?」

「だからやってみねぇとわからねぇって」

「奥義【エターナルフルバースト】」

「それって」


 確かクレアシオンが使ってた奥義のはず。

 そう思うのも束の間、俺の周囲に多数の物体が創造された。だが、焦ることはない。今の俺はあの時の俺よりも格段に強くなっている。それに……。


()()


 そう呟くと同時に、俺の周りに防御壁が展開される。球状に俺を包み込み、一切の攻撃を遮断している。

 これは【神護(ゴットプロテクション)】ではなく【震牢】。クレアシオンが新たに取得した魔法にカテゴライズされている防御魔法だ。


 クレアシオンがこっちで使えるのを知って、【賢者】を使って使用してみようと思いやってみたらできたので、コートに【神護】の代わりに設定しておいたのだ。これならば耐久もないし、空間干渉系の攻撃以外は無効化できる。


()()


 お返しとばかりに【切断】をプレゼントする。

 当然回避されるが、その意識が逸れる一瞬を逃さずに続けて攻撃する。


「奥義【エターナルフルバースト】!」


 またも新たにクレアシオンが取得した奥義だ。こちらは【武神】のお陰で出来るようになった。

 流石に無視することはできないのか、攻撃の手を止めて迎撃に集中するらしい。

 なので俺も攻撃を中止した。


「これでお互いの実力を測れたか?」

「ふむ。少しはわかった」


 俺も今の実力は大体は測れた。俺よりも弱いな。だが、俺が今危惧していることもある。それは……。


「とりあえず戦うか。得意武器は?」

「全て使える。そっちが決めていいぞ」


 【武神】のお陰でどれもが得意武器だもんね。


「では戦槌で戦うことにしようか」

「なら俺は弓だな」


 弓はサクラが一番得意ではあるのだが、俺も負けてはいない。【魔法の矢(マジックアロー)】は【種族転生】の特典なので使えないが、【賢者】を使えば似たようなことができるだろう。その他のスキルも買って育ててあるし、今の俺がサクラと戦ったらいい勝負になるんじゃないだろうか。


「【装展】」


 新たな機能【装展】。登録しておいた武器を自分の周囲を取り囲むように展開することができる。

 その中から俺は弓を手に取り、残りは戻した。今手の中にあるのは、ブルーとレッド力作の弓だ。サクラのと比べてしまうと見劣りするが、十分に強い。


「〝システムコマンド【転送】〟:【対象】戦槌・ミョルニル」


 GMはシステムコマンドを使って武器を取り出した。しかも神具かよ。だが問題はない。俺のこの弓は神具と比べても負けないどころか勝ってすらいるはず。


「【破城震】!」


 大きく振りかぶってGMが突っ込んできた。初速は俺でも捉え切れなかったが、攻撃する時に認識できたので大丈夫だ。


 サクラの速度に迫らん勢いで矢を放ち、戦槌の軌道を少しずらす。

 そのおかげで空間を震撼させながら俺に迫る戦槌がギリギリ俺に当たらない。一応半歩下がって避けていたが、予想通りだったので、その足で攻撃する。


 戦槌よりも小さく細いため、風切り音を出しながら音速を超えてGMの脇腹に突き刺さる。そのまま衝撃に逆らうことなくGMは飛んでいき、数十メートル先の民家に衝突して止まった。

 俺も追いかけるように地面に足を付ける。


「【神足通】【居合】」


 苦悶の声をあげているGMの目の前に出現し、目にも止まらぬ速さで腰に差していた【白百合・黒薔薇】で切りつける。弓じゃないからと言って反則にはならない。当たり前だ。

 すんなりと通った白刃は、容易くGMの片腕を切り落とした。


「【衝震波】!」


 片腕を失ってもなお俺に攻撃を繰り出すGMは、軽々と持ち上げた戦槌を地面に振り下ろし、地面を衝撃で揺らした。

 その揺れは収まるどころか次第に大きくなっていき、立っていられないほどにまで大きくなった。


 それを俺は宙に浮いて回避する。背中からは白い翼が生えている。純白(漆黒)翼のコートに似たような能力もあるのだ。


「【模倣】」


 久しぶりに使った【模倣】で【衝震波】を取得する。


「【衝震波】」


 ほぼ力尽き項垂れているGMの胸に掌を当て、【衝震波】を使う。そうすることで相手の体内が衝撃によってかき乱され、大幅にHPを減らすことができる。さらに継続的にダメージも入るので、戦闘が長引くだけ苦しくなってくはずだ。


「フフ……フフフフ……フハハハハッ!アハハハハハハハッ!」


 勝負あったかと思われたが、突然GMが狂ったように笑い出した。


「調子に乗るなよ小僧。〝システムコマンド【神帝】〟っ!」


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