Save155 キラだけ
「俺達で遊んでいたのかッッ!」
その答えにたどり着いたフェーアに、サクラはにっこりと笑みを向けた。その表情が意味するものはただ一つ。即ち、
「……正解っ♪」
「貴様ァァァアアアアア!」
酷い憤りを隠さずに吠えるフェーアに、サクラはさらに油を投下する。
「……もっと、あそぼ?」
倒せるものなら倒してみろと。精々遊び相手になってくれと。そう言っているかのようなサクラの声に、フェーアは体を燃え上がらせた。
真紅に燃える灼熱の炎が、サクラの髪をチリチリと焦がす。
一定の距離を開けていたフェーアがサクラの目の前にまで迫ってくると、丁度いい位置にサクラを浮かせ、ブンッという空気が唸る声と共にサクラを殴りつけた。左右から。連続で。
殴られたサクラは右に左にと顔を向かせられる。その凄まじい勢いに首が早くも悲鳴を上げていた。
「おらおらどうした! さっきの威勢はどこへいった!」
反撃してこないことをいいことに、フェーアはさらに苛烈に、過激に、過酷にサクラを責め立てる。反撃すら許さないほどに。挑発したことを後悔させるかのように。
「貴様は所詮! 口先だけだろう!」
顔を殴るのに飽きたのか、フェーアは拳を止めた。
またもや俯いたサクラに、今度は自分から目を合わせる。片手で頬を挟み込み、強引に持ち上げる。未だに爆発は続いている。
「結局挑発だけして反撃しないではないか!」
空いている方の手で固く握りこんだ拳を作ると、サクラの小さなお腹に勢いよく埋め込んだ。
「うっ」
サクラの口から洩れる呻き声。流石に声が出てしまったらしい。
それに気を良くしたフェーアは何度も、何度も何度も殴り続ける。
鎖を使って股を開かせ、両手を上にあげて横にする。背中を地面の方に向かせ、下から鎖による爆発でダメージを与える。顔も鎖で固定し、服をめくりあげ腹部を露出させる。
真っ白く綺麗なそのお腹に人差し指を這わせたかと思うと、小さく可愛いおへそに指を突っ込んだ。体が少しへこみ湾曲する。
「くっ……」
服を胸までめくり、ピンク色の下着を露出させる。が、それも束の間下着を強引に剥ぎ取る。
下着の下からでてきた胸には目もくれず、手にした下着を燃やし尽くした後、炎を宿した拳を小さな胸に振り下ろす。
「かはっ」
強制的に空気を排出され、呼吸困難に陥る。が、次の瞬間には腹部に衝撃。空中でくの時に曲がった体は地面に激突し、盛大な爆発音を響かせた鎖のお陰で元の位置に戻ってきてしまった。
そこから始まるのはバスケのドリブルような攻撃。フェーアがサクラの胸を、腹を、腕を、脚を、下腹部を殴ることで地面まで一瞬で落ちたサクラが、爆発の勢いで元の位置にまで戻される。
「お前には恋人がいるんだろう? この姿を見たら幻滅するだろうなぁ?」
大笑いしながらそんなことを言うフェーアに、サクラは気を悪くしたのかお遊びをやめたらしい。
「……私の体を見ていいのは、キラだけ」
そんな声と共に、フェーアの胸に一本の矢が突き刺さった。前からではなく、後ろから。
「き、きさ、ま……何故……」
「……簡単。……それ、私じゃない」
そう言って指さすのは、今まで散々フェーアが殴り続けてきていたモノ。
慌てて見てみると、確かにサクラではなかった。のっぺりとした顔面を持つ奇妙な人形だった。あれだけ炎で殴られたと言うのに焦げ一つないその白さは、汚れを知らない幼子の心のよう。
「……魔法使った。……それだけ」
魔法を使って人形を自分に見せ、まんまと引っかかったフェーアを傍観していたサクラは、楽しそうにそう言った。
入れ替わったのはフェーアが【永劫爆鎖】を使った時。
【瞬間移動】を使ってすぐさまその場から脱出し、代わりに【アイテムボックス】から人形を取り出してNPC全体に【概念属性意識魔法・催眠】をかけたので、人形がサクラではないと気付かなかったのだ。
正確にはブルーとレッドがサクラに似るように加工してたゴーレムで、素材は色々掛け合わせて偶然できた衝撃にも斬撃にも強いという特性を持った鉱石だ。
その上石のように固いのではなく適度に柔らかいため人間に似た柔軟性がある。それも気付けなかった要因の一つだろう。因みにこれはキラたちも持っている。
「そんなことが……」
「……ある。……それじゃ、チェックメイト」
サクラは弓に一本の矢を番え、上空に向けた。
「……【魔法の矢・五彩光烈牙】」
放たれた矢に全てのNPCがその行く先を見つめる。しかし、あるのは空のみ。速度的にもそこまで高くは飛ばないはずだ。
「……とどめ。……【幾千の矢・改】」
放った矢が失速し、鏃を真下に向けたと同時に、サクラがそう呟いた。
放たれた矢はどこからか出てきた光を吸収し、激しく発光していく。
光の出所をたどると、建物の壁に突き刺さったままだった【魔法の矢】がある。どうやらそれぞれの効果を吸収しているらしい。
吸収し終わったのか、光が途切れた。何故か落ちてこない矢は、漆黒に染まっていた。そしてそれに纏わるように蒼炎があり、そのすぐ外側を渦巻く暴風で抑え込み、キラキラと光を反射しているところを見るとその暴風の中に霜が混ざっているのだろう。バチバチィッと音を立てているところから雷も含まれている。
その矢が、二つに増えた。さらに二つから四つに、四つから十六個に。どんどんと増えていく光景に、フェーアを含めたNPCは動くこともできない。
「……いけ」
指揮者が指揮棒を振るうように、ピンと伸ばした人差し指を振り下ろすサクラ。数舜遅れて、矢が上空に向かうときよりも早く落下してきた。
その矢は一つ残らずNPCを貫くと、凍らせ感電させ切り刻み、燃やし尽くしてポリゴンすら残さずに消滅させた。
全てがいなくなったその場で立っていたのは、サクラ一人だった。




