Save153 最強
キラの下から離れたミライは今、複数のNPCに囲まれていた。数えきれるだけで十は下らない。もしかしたら百以上いるかもしれない。
「数が多いですね……アレを使うしか……でも…………よしっ」
使うか使うまいか葛藤している様子だったが、決めたようだ。
葛藤している間にも襲ってくるNPCたちを片手間に杖で殴り爆散させる。魔法職とは物理戦闘職だったらしい。
「行きます。【魔道王】!」
過去に一度だけキラが使ったことのあるノータイムで発動でき、全ての魔法をノータイムで発動できるようになる【全概念合成魔法・魔道王】。
ミライも【概念属性魔法】を全て使えるようになっていたのだ。サクラ程上手くは使えないかもしれないが、今はコントロールなど関係ない。
さらに装備のお陰で毎秒3000のMP消費もカバーできているので、この魔法を使わない手はない。それでも葛藤していたのは、自分に使いこなせるか不安だったからだ。
「【水素爆弾】!」
ブーツに付与された【飛翔】の効果で空中に跳びあがったミライは、眼下に群がるNPCに向かって最大威力の魔法を放つ。
それだけで地上のNPCは一掃できたが、今度は空中のNPCが襲ってくる。
天使に女神に神に空想動物。それらが全方位から攻撃を仕掛けてくる。地上のNPCのように特攻してくるのではなく、遠くから魔法などで攻撃する。
接近してくれれば対処は楽なのだが、遠距離だと少々面倒臭い。魔法は【魔道王】の能力で無効化できるのでさほど気にしていないが、NPC専用の遠距離攻撃技などは気にしなければならない。
ミライにとってそれらの攻撃は痛くもかゆくもないのだが、もし対処を間違えたら他のプレイヤーの所に飛んで行ってしまう恐れがある。それだけは避けなければいけないので、ミライは相殺することにした。
「私にもNPCがいれば多少は楽になったのですが……」
今現在、キラ達が有するNPCは全て他プレイヤーの援護に回っている。
空を飛べるNPCはHPが危なくなっているプレイヤーを救い上げ上空に退避させ、地上のみのNPCは致命的な一撃を受けさせる前に盾となり防ぐ。返す刀で相手を両断し、次のプレイヤーへと奔走する。
大体こんな感じで動いているが、例外がいないこともない。カオリのゼウスなどは広範囲に攻撃ができるので一人で何体ものNPCを屠っている。ミカエルなどもそうだ。召喚した天使の半数と隊列を組み、多数のNPCと交戦している。
「【反射】!」
あまりに数が多すぎたので、NPCの攻撃を返す。いくらNPCとはいえ遠距離から返された自分の攻撃は対応できる。
軽々と攻撃を避け、視線をミライの方へ向ける。が、
「どこを見ているのですか?」
そう声が聞こえた途端、一体のNPCが上下真っ二つに裂けた。いや、千切れたと言った方が良いだろう。
攻撃回避のために自分から視線を外した隙に、ミライは気配を消し、姿を魔法で消し、NPCの背後まで忍び寄ると、手にしていた杖をフルスイング。結果は先の通り、下半身だけその場に残して引きちぎれた。これが魔法職ミライの接近戦の実力である。
それからも圧倒的優位に立っているミライが一方的に戦局を運んだ。
MPCからしてみれば魔法は効かないし、自分専用技も効いているようには見えないし、注意を少しでも逸らせば倒されるし、接近しても倒されるしと、有効打を見つけられないでいた。
だからこそミライは簡単に勝利をもぎ取ることができた。
「少し疲れましたね……」
そう言い残してミライは地上に降りて行った。気配を消すことを忘れずに。
少し遡ってミライがNPCと交戦を始めて少し経った頃。カオリは既に多くのNPCに囲まれていた。上を見ると天使や女神が見えた。竜もいるらしい。
「はぁぁあああ!」
カオリの手には細剣の柄の部分だけが握られている。鋭利な先端は見当たらない。が、突き出した柄の先にいたNPCは、何かに貫かれるように風穴を開けた。
カオリの新武器の能力だ。
透明なのではなく、存在しない。自由自在に剣の形を変えることができ、それは見ることも感じることもできない。
今の形状は突き出した瞬間に細剣を一直線に伸ばしたような形だ。
「はぁ!」
大声をあげてカオリはその場で回転した。すると今度は、カオリの周囲にいたNPCが分断された。上半身と下半身に。
やったことは簡単。NPCを貫いたままだった細剣を、刀のように片刃の形状に変え、そのまま一回転することで横から切った。それだけ。だが見えない白刃が己を襲うと考えれば実に恐ろしい武器だった。
自分の周囲のNPCを片付け終わったカオリは、上空に目を向けた。
「今の私じゃああれくらいの距離もここから届くのよね」
そう言ってカオリは上に向けて柄を突き出した。
コンマ終秒遅れて上空にいたNPCがカオリの目の前に落ちてきた。そして数秒もしないうちにポリゴンとなり爆散した。
もうわかっているかもしれないが、カオリは今この場において最強である。見えない刃に尽きなさそうな体力。装備のおかげで魔法も効かず、近付く事すら不可能。カオリは少々強くなり過ぎたらしい。




