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Save151 戦いの火蓋が今、切られた。

 そしてとうとう、冒険者ギルドに到着した。


『控えよ』


 そんな声が聞こえてきたのは、カムイが扉に手をかけたのと同時だった。

 天から降ってくるようなその声は、自然と従いたくなるような声音だった。

 声の主の方を向くと、案の定ギルドマスターがいた。中空に佇むように浮かび、俺達を卑下している。


『汝ら。我が神帝と知っての行いか』

「当たりまえだろう?」

「お前を倒してここから出てやる」

『良かろう。汝らの愚行、汝らの身をもって知るがよい』


 そう言ってギルドマスター──神帝は両腕を水平に広げた。

 途端に周囲が陥没するほどのプレッシャーが放たれる。俺達には全く効かないが、一般プレイヤーはそうはいかない。何人ものプレイヤーが地に伏していく。ダメージは食らっていないようだが、動くことができないようだ。これが、神帝。圧倒的な力の差を見せつけたのだ。


()()


 そんな神帝に、不可視の斬撃が飛んだ。俺の攻撃だ。【切断】をコートに設定し、すぐに使えるようにした。

 俺の今の恰好は他のプレイヤーの装備とあまり変わらない。だが、それらは全て幻影だ。腰には二振りの【白百合。黒薔薇】が差さっている。


 俺の攻撃により【威圧】を中断せざるを得なくなった神帝は、少しイラついたような表情を俺に見せた。

 さて、暴れますか。目立たないことをルールとしていたが、やむを得ない。ここまで圧倒的だとは思っていなかった。プレイヤーに攻撃されて死人が出るよりも、俺が目立って引き付けた方が良い。


『汝。我が直々に相手してやろう。来い』


 直後、神帝の周囲に大量の魔力が集まるのを感知した。刹那、次々と神帝の周囲にNPCが出現する。その中にはクレアシオン達の分身である新しい神たちもいた。


「ミライ、カオリ、サクラ。お前たちは他のプレイヤーの援護を頼む。NPCは全部使え」

「わかりました……気を付けてくださいね」

「わかったわ……死ぬんじゃないわよ?」

「……わかた……勝って?」

「任せろ」


 NPCを全て放出し、戦力を増強する。相手も丁度全て召喚し終わったらしく、目が合った。相手の数は百を優に超える。数えるのも馬鹿らしい。

 対するこちらの戦力も、NPCだけの数ならば下だが、プレイヤーを含む数の面ではこちらが上だ。有利なのだろうか?

 一応クレアシオン達も呼ぶ。


「妾も手伝うぞ」


 二つ返事で協力することを了承してくれたクレアシオンは、自らの分身へと向かって行った。


「昔の妾と、今の妾。どれほど強くなっておるのか試してみたかったしのじゃ!」


 クレアシオンに続くように、次々と神様たちが己の分身へと向かって行く。


 戦いの火蓋が今、切られた。




 【始まりの街】の至る所で戦闘が繰り広げられている。ほとんどがプレイヤー対NPCで、自分のNPCを出して共に戦っているプレイヤーもいる。

 次々と神帝側のNPCは倒されていき、みるみる数を減らしていった。

 状況的には、神帝側の劣勢だろう。


「妾、もう少し愛嬌があると思っておったのじゃ」

「……」


 空中に佇む二人の少女。片方は現在の創造神であり。もう片方は昔の創造神だ。

 無機質な表情に、何の感情も籠っていない瞳。空中に浮かぶその姿はまるでその容姿と相まって操り人形のよう。

 対する昔の創造神──クレアシオンは、心にもない感想を述べた。少しでも感情が見えるのならば、戦いかたが変わってくるのだ。


「余計な問答は無用、か。良かろう。早速始めるのじゃ」


 クレアシオンは虚空に大剣を二振り創造すると、片手で一本ずつ握った。軽々しく振るわれる二振りの大剣は、空気を切り裂きながら振り回される。


 両刃の大剣が二振り。それも幼女と言っても過言ではないほど小さな女の子が操っている。その光景は異常であり、目を疑う。

 しかし相対する創造神は顔色を一切変えず、クレアシオンと同じく二振りの大剣を創造し、構えた。

 途端に重くなる空気。物理的な圧力さえ生じさせるそのプレッシャーは、空気を震撼させる。


「ゆくぞ」


 その瞬間、クレアシオンの姿が掻き消えた。かと思うと創造神の目の前に出現し、両断せんと大剣で切りかかる。

 しかしそれを予想していたかのように創造神は己の体とクレアシオンの大剣との間に二本の大剣を滑りこませ、受け止めてしまう。

 が、受け止めたと思った大剣には衝撃が伝わらず、逆に背中に激痛を覚える。

 初めて創造神がその顔に驚愕を見せた。


「驚いたか? 妾、空間までも創造できるようになったのじゃ」


 つまり、今クレアシオンが行ったのは、本当は背後にいたのにもかかわらず空間を湾曲させ、あたかも目の前に出現し攻撃しようとしているように創造神に見せかけた。

 更に気配までも創造し、その見せかけの姿に付与して見せた。もはや神業以外に表現のしようがない。


「他にもこんなことまで出来るようになったのじゃ」


 クレアシオンが創造神に人差し指を向けると、クイッと右方向に振った。それに少し遅れるようにして創造神も右側に飛ばされる。


「ほい」


 次に左側に指を振れば、創造神も左側に飛ばされる。上へ、下へ。前後上下左右に揺さぶられた創造神は、先ほどから驚愕しか浮かべない。


「わかるか? 妾が何をしたのか」

「……」

「重力じゃ」


 クレアシオンは重力を創造し、創造神を前後上下左右に引き寄せることで意思に関係なく動かしていた。ただ、それだけだ。

 空中に浮いていようが、浮いている力以上に強力な力で引っ張ればいいだけの事。


「こっちへ来い」


 人差し指をクイッと曲げ、クレアシオンは創造神を引き寄せる。


「──【加重(ウェイティング)】」


 そして重量を増した大剣で切り裂こうとする。更に創造神に引き付けられるように重力を創造し、剣速をあげる。その剣筋は目視では捉えられず、ヒュンと空気を切り裂く。

 そのまま創造神を切り裂くと思われたが、そうはならなかった。何故なら。


「重力に抗うか……」


 速度は遅いものの、創造神はクレアシオンが創造した重力に抗い、クレアシオンから離れていっていた。

 普通は抵抗できないほどの力を待たせてある重力を、正面から抗うその姿にクレアシオンは驚きを隠せない。


「【神力全開放】……奥義【エターナルバーストストライク】」


 十分に間合いを取った創造神から放たれたのは、クレアシオンがキラに使ったことのある奥義だった。

 クレアシオンの周囲に幾つもの物質が創造され、次々にクレアシオンへと襲い掛かる。


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