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Save149 私情で俺は動く

 あくる日の午前中。リビングには、俺達とクレアシオンの他にカムイとサナ、ドーターの姿があった。


「そろそろ終わらせるぞ」


 早速本題を切り出す。ミライ達にはすでに話してあるので驚きはない。カムイ達が息をのんだのがわかった。幼いサナでも意味を理解しているようだ。


「それは全ての準備が整った、ということかな?」

「正確には違うが、大体その認識で合ってる」

「そうか……ごめん。完璧に準備が整うまで僕は動きたくない」


 カムイならばそう言うと思っていた。全てのプレイヤーを救いたいカムイにとって、絶対と言えないのならば決断することはできないのだろう。


「わかってる。だから……」


 そこまで言って、ちらりとクレアシオンを見る。それだけで察したクレアシオンは、小さく頷くと、カムイの方を向いて言った。


「心配は無用じゃ」

「なんで言い切れる?」

「簡単なことなのじゃ。全ての神を倒せばよいのじゃ」

「それじゃあ……」


 今のたった一言で全てを察したのだろう。すなわち、クレアシオンを含めた全ての神を倒せばよい、と。

 勿論カムイも最初はそう考えていたのだろう。だが、俺が倒さなかったり、一緒に話してみて、その気持ちは薄れていった。それだけではなく、倒したくないとも思ったはずだ。俺だってそうだ。だから。


「安心せい。妾は今、この世界のNPCではないが故、この世界が崩壊しようとも妾が消えることはない」

「え?」


 本当は別世界があることは秘密にしておきたかったのだが、一緒に攻略するのに隠しておくのはおかしい、とアンラやモミジから言われたのだ。


 さらにいつもは俺の意見に口出しせずに協力してくれるミライやサクラ、カオリまでもがその意見に賛成したので伝えることにしたのだ。どうせ遅かれ早かれ話すつもりだったので、問題はない。


「じゃあ、今のこの世界の神は……?」

「それは妾の分身じゃ。と言っても、姿形は違うじゃろうが」


 今頃世界神たちもクレアシオンと同じく分身体を創って互換作業をしていることだろう。クレアシオンにできたことなので、世界神と戦神はできるはずだ。魔法神たちも最悪協力してもらえばできるはずだ。


「ということは、もう全て準備は整った、ということなのか?」

「そうだ」


 信じられないと言った様子で、俺を見るカムイに、力強く頷く。後は覚悟を決めて戦いを挑むだけ。そして勝つ。それだけですべては終わる。


「し、信じらんねぇ……」

「す、すごいね!」


 ドーターとサナもカムイと同じ気持ちのようだ。


「で、どうする。俺達はもう動ける。カムイ、ドーター、サナ。後はお前たちの返事次第だ」


 俺はそう言って、虚空を見つめる。【魔力感知】が膨大な量の魔力を知らせたからだ。


「キラよ。わしらも終わったぞ」


 現れたのは世界神たち。どうやら互換作業が終わったのでこっちに来たらしい。


「すまない。僕は動いてもいいんだが、ギルド全体で動くことになるからどうしても独断はできないんだ」

「俺もだキラ。ギルメンにも聞いてみなくちゃわからん」

「キラ……サナは、サナはね?……こわいよ」


 サナの気持ちは分かる。相手はどれくらい強いのかもわからない。どんな手札を持っているのかすらもわからない。未知の相手だ。もしかしたら手も足も出ずに倒されるかもしれない。


「サナちゃん。その気持ち、よくわかります」


 サナに語り掛けたのは、ミライだった。慈愛の籠った瞳でサナを捉え、逃がさない。


「私も過去、とても怖い思いをしました」


 ミライが言っているのは、俺と出会うまでのこのゲームの中での出来事の事だろう。

 ログアウト不可になり、襲われかけ、死に物狂いで逃げ続けた過去の話。


「でも、そんなときにキラ君は私を助けてくれました。私を危機から、救ってくれました。だから今回も、キラ君は救ってくれると信じています。私だけではなく、全てのプレイヤーを」


 俺の意見は昔と変わらず、ミライ達だけでも現実世界に戻すことだ。プレイヤーがいくら死のうとも、自分が死のうともどうでもいい。せめて彼女だけは、彼女たちだけは幸せに暮らしてもらいたい。


 だが、そんな考えは、その彼女たちが受け入れることを拒否した。妹も拒否した。俺はそれを受け入れた。

 でも、幸せに暮らして欲しいと言う願いだけは捨てない。捨てられない。だから、俺は彼女たちを幸せにするために他のプレイヤーを救う。恐らく俺には、そのための力があるから。


「私もよ。ダンジョンで殺されかけた時に、キラが助けてくれたわ。助けてって、そう願ったら、本当に助けてくれた。だから私は、キラに他のプレイヤーの事も助けて欲しいって願ったのよ」


 ミライの次に語り掛けたのは、カオリだった。

 ダンジョンでゴーレムに囲まれ、絶体絶命の状況に陥った、死を覚悟したあの出来事を。


「……私、は。……なにか、あった?」


 最後はサクラだった。

 確かにサクラは俺に願ったことはなかったはず。俺が助けたのも初めて出会ったあの時くらいで、それも食料を分けただけ。


「……ん。私は、キラのお嫁さんにしてって願った。ミライが一番だと言う考えを変えさせるって宣言した」


 それは、カオリが妻になった翌日の出来事。

 突然俺の部屋に押し掛けてきたサクラが、俺に告白して。それで、俺のミライが一番だという考えを変えさせると、そう宣戦布告した、あの出来事。


「……キラは受けて立つと言った。私の挑戦を受け入れてくれた。わがままを受け入れてくれた。だから、私はキラを信じる。必ずどちらかが負けを認めるまで、どちらも死なせないと」


 珍しくはっきりと喋るサクラ。彼女がこういう風に話すのは、俺に告白した時以来、久しぶりに聞いた。だから思う。彼女のこの喋り方は、大事なことを言いたいときにだけ表に現れるんだと。


「ミライさん……カオリさん……サクラさん……」


 少し感動したのか、潤んだ目でミライ達を見つめるサナ。そしておもむろに瞳を閉じたかと思うと、一拍。何かを決意したのか覚悟を決めた瞳がそこにはあった。さっきまでの不安に揺れる瞳は、もうどこにもない。

 これは、万が一の時のために用意していた救済措置は言わない方が良いのかもしれない。


「そこまで重い話じゃないんだ。ただ、誰も死なせないし、殺させない。それが俺達の、ルールだ」


 最愛に、助けてと言われたから。特別に、救ってと言われたから。唯一に、信じてると言われたから。たったそれだけの理由で、俺は俺の全力を尽くす。

 彼女たちに失望されたくないから。そんな私情で俺は動く。纏めるとこういうことだ。


「カムイ達は決まったらまたここに来てくれ。サナはどうする?」

「ギルドマスターなので、いっしょにかんがえます」

「そうか。わかった。待ってる」


 そうして、今日の所はお開きになった。


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