Save145 ハズレ
「シロ、体当たりよ!」
カオリの声が、【荒れ果て荒野】に響きわたる。その大声に、周りで戦闘をしていたプレイヤーもギョッとした様子でカオリの方を向く。魔物も同様だ。
カオリに命令されたシロは、対峙するシルフに向かって突撃する。その速度ははっきり言って遅い。普通に目で追えるし、当たってもそれほどダメージを食らわなそうだ。
「!?!?」
シルフも俺と同じようなことを考えていたのだろう。だが、実際に当たると予想以上だったようだ。それははたから見てもよくわかる。
「シロ……」
シルフは無傷で佇んでいる。シロは一生懸命シルフに体当たりやひっかきで攻撃している。シルフはほんわかした。そして逃げていった。恐らくこんなに可愛い敵、攻撃できない!といった感じだろうか。
これは初めてではない。かれこれ朝から既に数十回も繰り返されている光景だ。お陰でシロのレベルは一切上がっていない。
「もうカオリがレベル上げればいいんじゃないか?」
「キラ……そうよね、私もそう思うわ」
「なら」
「でも、でも私はシロに戦って欲しいのよ!」
カオリの言っていることはわからなくはない。一緒に戦いたいんだろうし、そのために経験を積ませて強くさせようとしているんだろう。だが、戦闘への向き不向きがある。それも考慮すべきではないか?
「カオリ、一旦シロを支援側に回してみるのはどうだ?」
「……仕方ないわね。一回そうしてみましょう」
俺はNPCを一体取り出す。レベルはここでギリギリ戦える程度までしかあげていない。最近手に入れたNPCだ。名前はない。ステータスにも【女剣士】としか書かれていないし。
「シロ、彼女の援護に回って」
「ピュイ!」
元気よく返事をしたシロは、【女剣士】のところまで飛んでいき、その頭上をくるくる回っている。
「カオリ、お前の獣魔ならスキルとか分かるんじゃないか?」
「わかってるわよ? シロが使えるのは【竜魔法】が面白そうね」
「【竜魔法】か……」
ステータスで【竜魔法】を検索する。余談だが、ステータスで使用可能な武技や魔法を確認することができる。俺の場合【賢者】で全魔法を使えるようになっているので、【賢者】をタップすると、一覧が出てきて確認することができる。
「なんだこれ……?」
そこに書かれていたのは、数多の魔法。普通プレイヤーが使わない魔法は数が少ない。それなのに【竜魔法】は他のプレイヤーが使う魔法(一属性)と同じくらいの量があった。割合的には、攻撃系と支援系が半々くらいか。
「はぁっ!」
【女剣士】が剣を上から振り下ろし、対峙するサラマンダーを両断せんと迫る。だが対するサラマンダーも後ろに跳ぶことで攻撃を回避する。
「ピュイピュイ!」
甲高いソプラノボイスが響けば、サラマンダーの動きが目に見えて遅くなった。これは……鈍足系魔法か? でもそれなら動く前に遅くなっていないと……。
「っ!」
そののろくなった隙を見逃すことなく、【女剣士】が怒涛の攻撃を仕掛ける。どうにか対応していたサラマンダーだが、一筋ずつ剣による線が体に奔る。
やがて、サラマンダーはポリゴンとなって爆散した。【女剣士】の被弾なし。完勝と言っていいだろう。
「ピュイ!?」
シロの驚いたような声が耳に届き、そっちを向くと、わずかにシロが光っていた。いや、光を纏っていた、と言った方が正しいか。
しかし、それはたった数秒の事で、すぐに元に戻った。元に戻ったシロの姿は、一回りほど大きくなっているように見える。
「レベルアップで姿が変わるのか」
今の光景を見ると、そうなのかもしれない。
「カオリ、今ので分かったと思うが」
「ええ、シロは戦闘より支援の方が向いていそうね」
「ああ」
先にやったように、シロが直接攻撃するよりも、攻撃することを援護した方がシロは向いていると思う。逆にブラックウェザードラゴンは攻撃の方が強いのだろうか。気になる。ものすごく気になる。
「俺は先に帰るわ。NPCは置いていくから、シロに戦闘を慣れさせるためにでも使ってくれ。くれぐれもHPを尽かせないようにな」
「わかったわ」
そうとだけ言い残し、俺は家に帰った。
「おかえりなさい、キラ君。カオリは?」
「シロが支援の方が向いているとわかって戦闘に慣れさせているところだ」
「そうですか。何故キラ君は一人で帰ってきたのですか?」
「俺も欲しいなと思って」
欲しいよね。羨ましいよね。だったらガチャを引こう、と言う訳だ。至極当然だろう。
「今から引きますか?」
「ああ、今すぐ引こう」
と、いうことで早速十連。……ハズレ。もう一度十連……ハズレ。また十連……ハズレ。ハズレ、ハズレ、ハズレ。ハズレハズレハズレハズレハズレ。
「で、でねぇ……」
いくら何でも出なさすぎじゃないか? デュランダルやミョルニル、グングニルなどの神器やオリジナルの神器、最高レアリティの武器や防具にレア度の高い希少鉱石は出るのに、何故かあの卵だけは出てこない。
さらに数十分が経った。俺の様子に不思議がったブルーとレッドが来たり、アンラが面白半分でガチャを引いてみたが結局出なかった。
進歩と言ったら、ブルーとレッドが神器などを見た時に目を輝かせて「「これ!」」と言ったことぐらい。いやな予感しかしない。一応俺はいらないので欲しいだけあげた。俺はもう知らない。




