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「う、うむ……わか、った。それならば、妾にも、い、異論は、ない」

「自分で出来そうか?」

「だ、大丈夫じゃ……」


 クレアシオンに提案したのは、先ほどクレアシオンが言った方法に一つだけ工程を加えただけの事だ。

 それは、記憶をコピーした方に移す、というもの。これだけだと何が違うのかわからないと思うので、もう少し詳しく説明しよう。


 まずクレアシオンが自らのコピーを作成するところまでは同じだ。違うのはここに一つ加えると言うこと。ここで、コピーした方に今のクレアシオンが持っている記憶を移動させる。

 因みに、コピーされるのは機能だけなので、中身まではコピーできないらしい。なのでコピーした方はクレアシオンの記憶はもっていない。


 記憶を移動させたクレアシオンは、向こうの世界に移動し、再読み込みしてもらい、補完される。そしてこっちに帰ってきて記憶を戻し、コピーの方を消去する。


 最初の案は新しい体に記憶を移動させるものだが、こちらの案はクレアシオンが治療されるまでの一時的な身代わりに過ぎない。

 これならばクレアシオンの要求はクリアだ。


 コピーを作成したクレアシオンは、さらに疲れているように見えた。作成されたクレアシオン(偽)は、無表情で佇んでいる。


「よし、向こうの世界に行こう。クレアシオン、行けるか?」

「……あと、二度、し、かっ、つか、え、そうに、ない、のじゃ……」

「わかった。向こうには俺が連れて行こう」


 その二回は記憶を移動させるのと、自分を読み込んでもらうのに使ってもらおう。移動するくらいなら俺でもできるので、ここで力を使ってもらいたくない。ついでに同じ方法で世界神も連れて行く。戦神もついてきたいらしいので、俺につかまってもらう。


 クレアシオンを抱きかかえ、お姫様だっこ状態になる。ぐったりとした様子のクレアシオンは、拒否するでもなく俺の胸に顔を埋めた。若干顔が赤いかもしれない。


「──【転移(テレポート)】【昇華】」


 転移した先は、クレアシオンと世界神に合同で創ってもらった新しい世界だ。まだ基幹となる部分しかできておらず、これからクレアシオン達に創ってもらおうと思っていたのだ。


 ここには既に全NPCがいて、家もかなりの量建っている。そう言えば移動終わったって言ってたっけか。

 【転移】で来たのは市街地のような場所で、沢山のNPCが行き来する場所なので、クレアシオンを再読み込みさせるのは別の場所にしよう。


「【神足通】」


 武技の【神足通】を使い、目にも止まらぬ速さで郊外に向かう。気持ちが逸り、自分の移動速度が遅く感じてしまい嫌になる。

 なので今できる限りの俊敏強化バフをかける。勿論【昇華】も忘れない。ステータスにも【昇華】をかける。一気に速度が上がる。目に映る景色が目まぐるしく変わっていく。さっきまでどうにかついてこれていた戦神ももはや見えない。声すらも聞こえない。


「……ここでいいか」


 ある程度離れ、広い土地を見つけたのでそこに止まった。

 クレアシオンに声をかけ、最後の力を振り絞って再読み込みをしてもらう。


「システムに接続……リロードを要求……」


 次の瞬間、クレアシオンが光輝いた。爆発的に光量が増し、まるでクレアシオンを起点として爆発したかのようだ。

 そんな状態が数分続いた。その数分の間に戦神が追い付いてきた。俺は戦神にクレアシオンを見ているように頼み、世界神を連れてきた。そして世界神も同様に再読み込みされる。


「うっ……」


 突然光が爆ぜた。一際強く輝いた光は、俺の視界を真っ白に染め上げる。が、それは一瞬の事で、光が無くなったそこにはクレアシオンがいた。

 目を瞑っている姿は神秘的ですらある。


「ここは……」


 その瞳が、ゆっくりと開いた。周囲を見回し、俺と戦神の姿を認める。


「お主は、誰じゃ?」


 数分前の苦しんでいるクレアシオンではなく、いつも通りのクレアシオンだ。顔色も元に戻り、記憶がないだけでいつものクレアシオンだ。


「ちょ、な、何をするのじゃ!」


 俺は無意識にクレアシオンを抱きしめていた。地に膝を突き、抱きしめていた。

 嬉しかった。そして俺の中に罪悪感が芽生えた。それは次第に大きくなっていき、クレアシオンの顔を見る勇気が出ない。今クレアシオンを抱きしめていてよかった。ここにいるクレアシオンは何も知らないとはいえ、クレアシオンであることには変わらない。


「ごめん……」

「よくわからぬが……許すのじゃ」


 クレアシオンは抱き着く俺の頭に左手を乗せ、ポンポンする。右手は俺の背を摩り、俺が抱き着くのと同じほどの力で抱きしめ返してくれている。


「ふむ、これで解決じゃな」


 いつの間にか復活していた世界神が、そう言った。解決、か。確かにクレアシオンも世界神も元に戻って解決だろうけど、俺の中ではまだ解決していない。

 俺が言ったように、ここにいるクレアシオンはあのクレアシオンじゃない。だから、あのクレアシオンに謝って許してもらうまでは解決したことにしてはならない。勿論それは世界神に対してもだ。


「……帰ろう」


 俺のその一言で、クレアシオンは俺を放した。

 立ち上がって世界神と戦神の方を見る。彼らは頷いて、先に帰っていった。クレアシオンは一人で帰ることはなく、無言で俺の手を握った。柔らかい。


「──【転移】【昇華】」


 俺達は元の世界に戻った。


「お、おかえり……なのじゃ」


 迎えてくれたのは、クレアシオンだった。心が痛む。こっちのクレアシオンは、あと一回だけ力が使える。それは記憶を戻すのに使う。

 クレアシオンは早速力を使い、元の体に記憶を戻した。そしてコピーの方も消す。世界神も同様に。


「キラよ。ありがとうなのじゃ」

「……ごめん」

「む。何故謝る? キラに謝ることなど皆無なのじゃ?」

「いや、俺はクレアシオンと世界神を苦しめた。だから──」


 だから、俺はクレアシオンに謝らなければならない。一度は許されたが、あのクレアシオンは何も知らないから許してくれたのだと思う。


「──キラよ。もう一度問う。何故謝るのじゃ。答えよ」


 俺の声を遮ったのは、クレアシオンだった。


「だから、それは……」

「キラが妾達を苦しめた? どこにそんな事実があるのじゃ。世界神の事は知らんが、妾はちっとも苦しいとは思っておらぬぞ」

「え……?」

「妾は全てを覚悟してキラに協力した。妾達の動きがゲームマスターにバレれば、消去されてしまうかもしれない。それは怖いが、それでもいいと思った。キラになら、協力しても良いと」

「でも……」

「故に、妾はキラが言うようなことは一切感じておらぬ」


 目頭が熱くなる。


「……ごめん」

「だから何故謝る。キラが謝る必要など──」

「俺が謝りたいから。俺の心が、謝らないと許してくれないんだよ。だから、謝られておいてくれ」

「……わかった」


 俺は、先ほどしたように、クレアシオンを抱きしめた。クレアシオンも、抱きしめ返してくれる。

 それから俺は謝り続けた。俺の心が許してくれるまで。クレアシオンは、毎回許してくれた。俺の心は全く許してくれなかった。


「キラよ。そろそろ己を許してはどうかの?」

「……だめだ」

「…………では、妾から一つお詫びとして命令させてほしいのじゃ」

「わかった」


 そうすれば、俺は俺を許せるかもしれない。


「自分を許せ。もう妾に謝るでない。これが命令じゃ」

「ぇ……」


 耳を疑った。それではまるで、俺が俺を許すために命令させてくれと言ったようなものじゃないか。


「よいな?」

「……」

「良いかと聞いてるのじゃ」

「…………」

三度(みたび)繰り返す。キラ、自分を許し、もう謝るのはやめるのじゃ」

「………………わかった」

「うむ」


 結局俺は、クレアシオンによって救われた。


「もう帰るがよい。キラの嫁たちが心配しておるであろう」

「……あぁ、そうだな」


 あまり遅くなりすぎるとミライ達を心配させてしまうかもしれない。


「クレアシオン、最後にいいか?」

「謝罪以外ならばよいぞ」

「──ありがとう」

「うむ!」


 俺はそう言って、【転移】を使って家に帰った。


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