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Save139 アーシャは丸焼き

 アーシャがミライの魔法で焼かれてから数十分後。アーシャは丸焼きではなく蒸し焼きになっていた。何故蒸されているのかは知らん。

 そんなアーシャを傍目に、俺はギルドマスターと向かい合う。そろそろこの話も大詰めだ。


「──では、後日また俺が冒険者を選別し終わったらここに来てもらう、ということでいいか?」

「ああ、構わない」


 流石に今日中に冒険者を選別してここに来てもらってから戦う、ということは不可能なので、後日また日を改めてやることになった。何故これだけの事を決めるのに数十分もかかったのかというと、アーシャの事を見ていたからである。


 因みに俺はアーシャに攻撃しながら恍惚の表情を浮かべるミライの顔を見逃していない。俺にそっちの趣味はないので俺にだけはやらないで欲しいと切に願う。


 冒険者ギルドから出た俺達は、もう別れることになった。


「じゃあ僕はもうギルドに帰るよ。もし何かあったら呼んでね」

「俺ももう帰るわ。キラ達はこれから創造神の所か?」

「勿論です」

「お、おぅ……ま、まぁキラ、頑張れよ」


 おいドーター。それはどういう意味だ。一瞬で理解したくないのにわかってしまったではないか。言っておくが、俺はミライ達の尻に敷かれているわけではない。逆らえないだけだ。


「サナもキラたちといっしょいってくる!」

「おう! 俺じゃあサナをそこまで連れて行けないだろうから、楽しんで来いよ」

「うん!」


 ドーターはサナとの別れを惜しみ、抱きしめた。若干目元が光っているような気がする。そこまでかよおい。


「もう行ってしまうんですね……」

「また来るから」

「必ず。必ずですよ……?」

「うるさいですね。また来ると言っているでしょう。そんなこともわからないんですか? これだから自分の事をメインヒロインだと勘違いしているイタい雌豚は……」

「ミライ、口を閉じようか。イメージがどんどん崩れているから」


 ダークミライの誕生である。是非ともすぐに封印されていただきたい。


「それじゃ、行くか」

「またな、キラ」

「またね、キラ」


 ドーター、カムイがそれぞれ俺に別れの挨拶をし、それぞれの行く先に沿って俺から離れていく。一瞬チラッと名残惜しそうにアーシャを見たカムイだが、少し俯くようにするだけで、すぐにその背中は小さくなり、やがて見えなくなった。


「皆俺につかまってくれ」


 ミライ、カオリ、サクラ、サナが俺につかまったのを確認すると、俺は【転移(テレポート)】を使ってクレアシオンの所に移動した。




 【転移】した俺達を待っていたのは、圧倒的な暴力の嵐だった。そうとしか表現のしようがない。『無』であるはずの神界に、風の流れさえ可視化された嵐が出現していたのだから。

 それはただの風ではない。何らかの影響を受けた当たるだけでHPを削られる、いわば死の嵐とでもいうべきものだった。

 俺は即座に全員を囲えるほどの大きさの【神護(ゴットプロテクション)】を展開し、ダメージを防ぐ。そして、この嵐の中心──クレアシオンの下に向かった。


 クレアシオンの近くには死の嵐が全く吹いておらず、まさに台風の目を連想させるような静けさだった。見える景色もまさにそれで、少し先では白んだ風が轟々と吹いている。クレアシオンの右側は、他の所よりもさらに激しいような気がする。


「あー、クレアシオン?」

「む。……おおキラか。よく来たの」


 クレアシオンが俺の姿を認めると、途端に今まで吹いていた風がやんだ。けれども右側の風はまだ吹いているので、この風はクレアシオンが起こしているわけではなかったようだ。


「ちょっとお願いがあってな」

「それならば妾と戦ってもらう──と、言いたいところじゃが、生憎妾は疲れておるでの。素直に聞いてやるのじゃ」

「疲れてるなら別の日に来るけど」

「大丈夫じゃ。少しくらいなら協力できる」


 見るからに疲れているが、本当に大丈夫なのだろうか。目の下には隈ができているように思う。NPCにそんなことがあるのかわからないけど。


「実は俺のスキルを消して欲しいんだ」

「ふむ。良かろう。して、どのスキルじゃ?」

「【NPC好感度上昇率大幅アップ】というスキルだ」

「わかった。少し待っておるのじゃ」


 クレアシオンは集中するように目を瞑り瞑想する。そして五秒も経たないうちに目を開けた。


「ほれ、消してやったのじゃ」

「あぁ、ありがとう。それでクレアシオン。なんでこんなにここって荒れてるんだ?」


 俺はここに来てからの疑問をクレアシオンに尋ねる。


「それは、妾達がNPCを新しい世界の方に移動させているからじゃ。大変な集中力が必要な故、ああいう弊害が出てしまうのじゃ」

「それにひどい疲労がたまる、と。なんか悪いな」

「いいのじゃ。妾のやりたいことでもあるのじゃ」

「ありがとう」


 クレアシオンは、俺が話しかけた時よりも疲れているように見える。本当に大丈夫だろうか。心配だ。


「クレアシオン、最後にいいか?」

「なんじゃ?」

「あとどれくらいで終わりそうなんだ?」

「……少なくともあと二週間は必要じゃな。そう急ぐでない」

「わかった。よろしく頼んだ」

「任されたのじゃ」


 俺はそう言って、会話を打ち切った。ミライ達の顔を見て、誰も何も言いたそうにしていないので帰ることにした。

 俺達が、このゲームこ攻略するにあたって、クレアシオン達の協力は不可欠だ。勿論その他の事だって。そのどれかが無くなるだけで、俺達に攻略の光は射さなくなる。


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