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Save138 いやです☆

「ギルドマスター、キラ様たちをお連れしました」

「……入れろ」

「はい」


 アーシャがギルドマスターに許可を取り、その荘厳な扉を開ける。ギギギと、重い音が廊下に響く。


「どうぞ」


 アーシャが入室し、それに続くように俺達も入る。

 ギルドマスター室は、扉の真正面に暗い色の木で出来た机が置いてあり、その前に向かい合わせになるようにして高級そうなソファが置いてあった。

 俺達はそこに座った。左から、ミライ、俺、カオリ、サクラの順だ。カムイ達は後ろに立ってもらう。サナは特別に、カオリの膝の上だ。

 ギルドマスターは、机に向かい、仕事をしていた。手紙や報告書などの用紙にサインをし、判を押す。


「お茶を入れてきますね」


 そう言うと、アーシャは退室した。それから一拍置いてギルドマスターが立ち上がり、俺達の対面のソファに座る。

 歴戦の戦士と言った風貌で、その体は筋肉が鎧のように隆起し守っている。頬には一本の大きな傷跡があり、あごには立派な髭が伸びている。そして、その見た目から発せられる圧に加え、この人は本当に【威圧】してきている。


「キラ、と言ったかな。用件は?」

「ギルド【ゴットギャラクシー】及び【明誠の誓い】と、冒険者ギルドを併合して新たなギルドを立ち上げたい」

「却下だ。まず第一に、もし俺が併合したいと思っても、俺だけの権限ではどうにもできない。そしてさらに、併合することのメリットが感じられない。よってキラ、お前の提案は却下だ」


 俺の提案が一刀両断された。

 確認のためちらりと彼の頭上を見ると、NPCと出ていた。ということはここの冒険者ギルドのギルドマスターはゲームマスターでは、ない?

 いいやそんなことは考えにくい。ありえるとしたら偽造していることだろう。ゲームマスターならばできなくはないだろうし。


「別に俺は冒険者ギルドをなくして違うギルドを建てたい、と言っているわけではない。ただ併合して欲しいだけなんだ」

 

 尚も食い下がる。ここで攻めきれず、追い出されてしまっては折角のプレイヤー大量確保のチャンスが消えてしまう。


「お前は新たなギルドを立ち上げたいと言っていたが?」

「それはこっちの事だ。冒険者ギルドとの併合を機に、今まで集まってきた全ギルドを集約した新しいギルドを作ろうと思ってたんだ」

「なるほど。だが、冒険者ギルドはそれに参加しない」

「何故だ」


 冒険者ギルドにとって、この話の中にデメリットはない。ただ同じ所属になってくれればそれでいいだけなのだ。


「俺たちのメリットが感じられない、と言ったはずだが?」

「そんなにメリットが必要なのか?」


 別に運営方法に口を出したり、妨害をするわけじゃない。無所属から新しいギルド所属になるだけだ。


「必要だ。何事においても、メリットを最重視しなければならない」


 面倒くさいなぁ。


「では取引と行こう。ギルドマスター、お前が俺達に求めるものはなんだ。これを提示するならば併合してやる、というものは」


 もしそれが俺達にとってできないことであれば仕方ないが、できることなのであれば手っ取り早く併合できる。


「……お前らの所持金全部だ」

「わかっ──」

「それに加え、俺が選別した冒険者と戦え。それが俺達冒険者ギルドを率いる者に最低限必要な力だ」

「それだけでいいのか?」

「随分な自信だな? それとも、ただの高慢か?」

「いずれわかるさ」


 所持金など全て無くしても痛くも痒くもない。すぐに稼ぐことができるし、極論、Gなんてなくても俺達は困らない。

 俺はステータスの所持金の欄から一千万G取り出すと、前のテーブルに置いた。硬貨のぶつかる音がした。


「それだけか? そんなわけないだろう?」


 ギルドマスターは中空に目を滑らすようにしてから、そんなことを言った。その目は今、俺に向けられている。だが、俺にはその目が俺じゃない何かを見ているように見える。


「はぁ」


 わざとらしく溜め息を吐き、俺は追加で一億Gを置いた。


「──あんまり舐めてるようだと、取引の話はなかったことにするぞ」


 流石にそこまで言われてしまっては敵わないので、素直に残りの八億八千万とすこしを、テーブルの上に乗せた。ミライ達も後に続く。カムイやドーターは出すのを渋っているようだが、後で渡すので早く出して欲しい。


「まさかこんなに持ってるとはな」

「一生懸命貯めたんだ」

「嘘言え。対して苦労などしていないだろうに」

「想像に任せよう」


 そこで俺達の会話が途切れ、沈黙が場を支配した。誰一人とせず言葉を発さず、じっと反対側の相手を見つめている。


「お茶が入りました」


 一番最初にこの沈黙を破ったのは、お茶を入れに退出していたアーシャだった。


「なんか堅苦しい雰囲気ですね。何かあったんですか?」

「まぁ、な。……で、何故こっちに?」


 ギルドマスターの前にお茶を置いたアーシャは、次いで俺達の前にもお茶を置き、俺の隣に強引に座ってきた。ほら見ろミライが大変お怒りだぞ。お前死ぬぞ。


「何故って……そんなの私が座りたいからに決まってるじゃないですか」

「それなら私もキラ君の隣に座っていたいです! 早く退いてください」


 遂に怒りが頂点に達したのか、ミライが声を荒らげた。


「え~いやです☆」

「★★★★──【焦炎熱地獄】 ◆◆◆●──【風壁(ウィンドガード)】」

「うっ……くっ……あっつ……」


 ミライはアーシャの態度に言葉を失う程怒り心頭になり、遂に魔法を使って攻撃し始めた。

 ご丁寧に風の壁で周りに被害を出さないようにし、アーシャには風によって威力を増した炎で攻撃する。とても感心する威力上昇術だ。俺は絶対に食らいたくない。てか火力を調節しているのかアーシャにそこまで熱がっている様子はない。

 どんなに怒っていても、やっぱりミライは相手にダメージを与えないように注意を払える優しい子のようだ。


「えっと……? これいつまで続きます?」

「私の気分です」


 優しい、のかな……?


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