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Save137 夢だったりしないのだろうか

 アーシャが軽やかな足取りでギルドマスターに面会の許可を取りに行っているころ。俺はミライ達に詰め寄られていた。


「キラ君は見境ないんですか?」

「まだ増やすつもり?」

「……不満?」


 俺は決してアーシャを篭絡しようとかそういうことは考えていないんだが、そんなことを言っても今のミライ達には通じないだろう。


「いや、俺は別にアーシャとどうこうしようとは考えてないんだが」

「でもアーシャさんを見る限り、そうですよね?」

「そうとしか考えられなかったわよ?」

「……言い訳乙」


 ほらね?

 どうにかして助からないと、これからの活動に支障をきたすかもしれないので、早めに誤解を解いておきたい。そう思いカムイの方に目を向けるが、カムイは何故か怨敵を見るかのように俺の方を睨みつけていた。

 あ、そう言えばお前フラれてるんだっけか。


「キラはモテモテなんだね!」

「この主人公が……っ!」


 サナとドーターから、そんなことを言われた。この場に俺の味方はいないのだろうか。

 ミライ達からは物理的に押し潰されそうな圧力が発せられているし、カムイは呪い殺さんばかりに俺を見つめ、ドーターはカムイと同じく俺を呪い、サナに至っては俺をモテ男だと勘違いしている。まぁ、この現状を見る限り完全な勘違いとも言い切れないのだが。


「なんて、私はそこまで怒っていないですよ」

「私もよ」

「……これくらい、で……おこらない」


 【転移(テレポート)】で【名もなき平原】に逃げようかと考え始めた時、ミライ達から発せられていた圧力が綺麗に霧散した。


「今までこういうことがありませんでしたから、何かこうなった理由があるんですよね?」

「アーサーとかアインスの時は、好意というより忠誠に近かったものね」

「……あたらしい、スキル?」


 泣きそう。ミライ達が、あの俺がいくら弁解しても許してくれなさそうだったミライ達が、俺をしっかりと理解してくれていた。


「実は、シエルを助けた時に【NPC好感度上昇率大幅アップ】というスキルが自動取得されてな……」

「そうだったんですか」

「それなら仕方ないわね」

「……不慮の事故」


 ……こいつらは本当にミライ達なのだろうか? 夢だったりしないのだろうか。あれ、ミライ達ってこんなに物分かりよ───


「で、そのスキルはどうやったら消したり無効化できるんですか?」

「そのスキルいらないわよね?」

「……消して」


 ───くないですよねぇ……いつも通りのミライ達だ。果たしてこれは安心していいのだろうか?


「俺も知らないんだ。消したいんだけど」

「本当に消したいんですか?」

「どうせこのままでもいいか、とか思ってたんじゃないの?」

「……その後の事も」


 ギクリ。た、確かにこのスキルの事は放っておいても大丈夫だろうとは思ったが、カオリとサクラが言ったようにその後の事は一切考えてないかったと断言できる。


「後でクレアシオンの所に一緒に行きましょうね、キラ君?」

「私もついて行くわ」

「……私も」

「ア、ハイ……」


 まぁ、無くて困るスキルじゃないからクレアシオンに消してもらってもいいな。てかクレアシオンはスキルも消せるのだろうか。


「なぁカムイ。キラ達のこの茶番はなんだ?」

「さぁ? 僕も知らないよ」

「ちゃばん?」


 カムイ、ドーター、サナは俺達の流れについてこれなかったようだ。それでいいんだ。ついてこなくていい。


「俺が持ってるNPCからの好感度を上昇させるスキルを、創造神に消してもらおうと話していたんだよ」

「なるほど。それじゃあアーシャさんの僕への態度も変わるのか」

「それは知らん」

「そんなスキル持ってたのかよチクショウ。これだから主人公は……」

「そんなすきるあるんだねー」

「サナも一緒に創造神の所に行くか?」

「いく!」


 俺達がいれば安全だろうから、サナ一人連れて行くくらいなんてことない。ただ、一番の問題は……


「うん、キラ達と行ってくるといい。パパはギルドで待ってるから」

「!?」


 なんと、あのドーターが、サナが俺達に同行することを許可した。明日は槍でも降るのか?


「あ、カムイは自分たちの力で攻略しろ。全員が【種族転生】してたら苦労するだろうが攻略はできる。頑張れよ」

「因みに難易度は?」

「んー、常に気を張っていないと致命傷を受けて死ぬレベル?」

「【種族転生】してても!?」

「あとは、注意深く相手を観察しないと、パーティーがたった数分で全滅とかもあり得るな」

「絶対に行きたくないよ……」

「大丈夫だ。俺達でも攻略できた」

「キラは色々規格外なんだよ」


 カムイが自分も連れて行ってほしそうにこちらを見ていたので、突き放しておいた。ついでに現実を教えるのも忘れない。

 確かに、クレアシオンのところまで行くのは難易度が高いが、絶対に攻略できない訳ではないので是非とも頑張って欲しい。


「お待たせいたしました。ギルドマスターから許可が下りましたので、キラ様方をご案内します」

「アーシャさん!」

「はい?」

「アーシャ、できる限りカムイは無視していい。いちいち話を止められたくないからな」

「わかりました。金輪際カムイとは会話どころか視線すら交わしません。ここに宣言します」

「アーシャさん……」

「いや別にそこまでしろとは言ってないのだが……」


 キッと俺を睨みつけてくるカムイ。すまん。本当にすまん。まぁ頑張ってNPCの好感度を上げるスキルを取得するか、クレアシオンのところまで辿り着いてスキルを創ってもらってくれ。


「こちらです。私について来てください」

「後ろをついていくから、腕に抱き着くのはやめてくれないか」


 アーシャってここまで大胆だっけか。俺の記憶ではそんなことなかったように感じるどころか、ここまであからさまに好意を見せてきたことなどなかった。

 いくら後でスキルを消すとしても、やっぱり気持ち的に許せないのか嫉妬心を抱いている女子三人がいるので速やかに離れていただきたい。

 あ、いやもう一人嫉妬してる奴はいるか……ん? どっかのパパ含め二人の計四人か?


「キラはまわりにたくさんのおんなのこがいるね!」


 最大の爆弾発言をしてくれたサナに最大の敬意を払って今の発言を撤回するように頼もうかな。

 そんな現在進行形で修羅場なうな俺達を、ルンルン♪と鼻歌でも歌いそうな足取りで案内しているアーシャは、一体どれほど図太い神経をしているのだろうか。


 そんな俺にとってとても居心地の悪い空気を充満させた俺達一行は、一、二分歩いたところで止まった。


 目の前には木製だが、意匠を凝らした荘厳で重厚な扉があった。アーシャの足が止まったことと、この扉の雰囲気からして、この先にギルドマスターがいるのは間違いないだろう。

 さぁ、現冒険者ギルドギルドマスターこと神帝及びゲームマスター(推測)と、遂にご対面だ。穏便に済ませ、俺達の提案に乗ってくれることを祈るばかりだ。


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