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Save136 マジで何があった

「いってらっしゃい」

「ああ、いってくる」

「いってきます」


 アンラと玄関で別れ、冒険者ギルドに向かう。

 メンバーはいつも通り俺、ミライ、カオリ、サクラの四人だ。

 待ち合わせ場所は冒険者ギルドで、集合してからギルドマスターの所に乗り込むことになる。侵入じゃないから〝乗り込む〟って言うよりは〝会いに行く〟の方が正しいんだが、細かいことは気にしない。


 【転移】は使わずに徒歩で移動する。同じ町に住んでいるので態々使うまでもないのと、久しぶりに【始まりの街】を散策してみたかったからだ。


 朝早い事もあり出店はとても賑わっていた。各店から屋台のおっちゃんの威勢のいい掛け声が町中に響きわたり、それに付随するように食べ物の食欲をそそる匂いが鼻腔を擽る。


「なにか食べませんか?」

「いいわね」

「……ペコペコ」


 今日は朝食を食べていない。食べ歩きしながら向かうことが暗黙の了解だったからだ。つまり、皆ここで食べ歩きしたかったってこと。

 お金を渡すと、ミライ達はバラバラに散らばった。そして数分後に帰ってきたときは一人では絶対に食べきれないであろう量の食料を持って帰ってきた。

 

 ミライはパンにソーセージをサンドしたホットドッグみたいなやつ。ケチャップどころか何もかかっておらず、シンプルな味らしい。

 カオリは何かの鳥の肉を半分に切ったパンでサンドした、ハンバーガーみたいなやつ。これも調味料は使われていないようで、肉の他に野菜が少し入っているだけだった。

 サクラは焼き鳥みたいなやつ。塩で軽く味付けがされており、所々しょっぱいが普通に食べられる。


「意外とおいしいですね」

「そうね。でもキラ達が作った方がおいしいわね」

「……仕方ない」

「スキルのレベルが違うんだから、それは仕方ないだろ」


 それに出店に出るような料理なら、手早く準備できて手軽に食べられて後片付けも楽な方が良いので、こういう料理になる。

 逆に高級店などはちゃんとした設備があるのでかなり美味い料理が出てくる。調味料も豊富だしな。


「キラ君、あ~ん」

「キラ、口を開けなさい」

「……たべる」

「だろうと思ったけどさ、俺それ全部は無理だよ?」


 明らかにミライ達が食べる量を超えていたあの食べものたちは、俺にあげるためのものだったらしい。けどね? 一人半人分余らせたとして、俺一人前以上食べないといけなくなるんだよ。そんなの無理だよね、うん。


「でももう私お腹いっぱいですよ」

「私もよ」

「……パンパン」


 仕方がないので、俺が食べられるだけ食べて残りは【ストレージ】に入れておくことにした。あとでアンラ達に食べさせよう。


 と、そうこうしているうちに冒険者ギルドまで辿り着いた。俺達は、その両開きの扉を豪快に開け、冒険者ギルドの中に入った。


 


 それから時が経ち、待ち合わせ時間になった。しかし、誰一人としてここには居ない。何やってんだあいつら。

 数分後、慌てた様子でサナとドーターが冒険者ギルドに入ってきた。


「すまんキラ。サナが寝坊して……」

「ねぼうちたのはパパでしょ!」

「え!? さ、サナ……?」


 どうやらサナが寝坊してしまったらしい。まぁ、サナなら仕方ないか。もしドーターだったら嫌がらせでもしてたかもしれん。

 これで後はカムイだけになったわけだが。一体アイツは本当に何をしているのだろうか。


 数十分後、カムイは現れた。慌てる様子もなく優雅に冒険者ギルド内を闊歩している。殴ってやろうか。


「やぁ、おはよう」

「おはようじゃねぇんだよ。おせぇよ」

「あれ? そうだった?」

「三十分以上遅刻してますけど?」

「仕方ないじゃないか。こっちだって色々あったんだ」

「あそう」


 用事があったのならば仕方ないが、もしその用事が明日でもできるやつだったら嫌がらせしてやる。


「それよりも、早く行かないか?」

「お前がそれ言う?」


 一番遅れてきたカムイが、何故皆を促してるんですかね。


「アーシャさん、ちょっといいですか?」

「はい? なんです……か?」


 カムイがアーシャを呼び、少し邪険そうな雰囲気を出しながら振り向いたアーシャだが、何故か俺と目が合った瞬間、パァっと満開の笑顔が咲き誇った。え、カムイと何があったの。


「ギルドマスターの所に案内して欲しいんだけど」

「何故あなたを案内しないといけないんですか」

「これは【ゴットギャラクシー】ギルドマスターとしてのお願いだよ」

「そうですか。お引き取りください」


 心なしか冷たいような気がする。俺と話すときのような嬉しそうな笑顔はなく、全く興味がないかのような接し方だ。マジで何があった。


「全く、つれないなぁ、アーシャさんは」

「少なくともあなたには優しくしませんよ」

「どうして?」

「自分の心に聞いてみては?」

「……心当たりないってさ」

「ではもう救いようがありませんね。おかえりください」


 どんどん険悪になっていく二人の関係。ここまで来たら本当に何があったのか気になるんだけど。


「あー、会話をお楽しみの所悪いんだが」

「別に楽しんでなどおりませんよ、キラ様」

「あ、うん。で、一体二人の間に何があったの?」

「いや、別に大したことじゃないよ」

「あなたは黙っていてください。私が説明しますね。簡単に言うと、この方に迫られました」


 カムイをじろりと見ると、口笛を吹きながら俺から目を逸らした。くそっ、口笛上手いじゃないか。


「それはかわいそうだったな」

「はい。私にはもう心に決めたお方がいるというのに……」

「そうなんだ」


 それはわかったけど、俺につぶらな瞳を向けてくる理由がわからない。さらに言うと、何故俺に抱き着こうとしてくるのかもわからない。でもミライ達が冷めた目で俺を見てる理由は一から十まで全てわかった。

 このままでは埒が明かないので、カムイに代わって俺がアーシャに交渉することにしよう。


「アーシャ、ギルドマスターのところまで案内して欲しいんだが頼めるか?」

「はい、勿論。と、言いたいところですが……」

「ですが?」

「なにかキラ様からご褒美が欲しいです」


 何この子一気に攻めてきた。ちらっとミライ達の方を見ると、彼女たちの内心を彼女たちの目が完全に物語っていた。俺帰ったら死にますわ。


「な、なにが欲しいんだ?」

「それは後のお楽しみ、ということで」

「できれば今言って欲しいんだが」

「そうですね……では、キラ様に迷惑は掛けません、とだけ言っておきましょうか」

「まぁ、それなら」


 俺に迷惑が掛からないなら別にご褒美くらいあげてもいいけど、アーシャにあげるとなったらミライ達にもあげないといけなくなるんだよな。あぁ、それは俺にとって迷惑でも何でもないか。


「ありがとうございます♪それではご案内……すみません、許可を取ってまいりますので少々お待ちください」

「わかった。お願いね」

「はい♪」


 アーシャはそう言うと、何処か軽やかな足取りで奥に引っ込んでいった。さて、俺はこのミライ達に凝視されてる状況を何とかしますか……。


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