Save133 真のチーターは俺じゃなくて
夜が明け、昨日から見た明日が来た。
早速俺は三人を呼び出した。と言ってもサナを来させるのはなんか俺が嫌だから、俺達がサナたちの所に行く形になる。勿論カムイ達とは現地集合だ。
俺達は、俺、ミライ、カオリ、サクラの四人で向かう。
【転移】で一瞬にして【オーネスト】まで移動した俺達は、すぐにサナたちのいる【明誠の誓い】ギルドハウスに向かった。
ドーターの名前を入り口で伝えると、既に話が通っていたのか簡単に通してもらえた。ギルドマスター室のような場所への道は何度か来ているのでわかっている。案内をしてくれようとしていたプレイヤーに礼を言い、俺達は四人だけでそこに向かった。
「よ、ドーター」
「おお、もう来たのか」
「キラ! きてくれたの!?」
「ああ、ちょっとドーターに用事があってね」
「よーじ?」
「ああ、サナも聞いてていいぞ。ギルドマスターだからな」
「あたちぎるどましゅたー!」
なんかいつもより滑舌が悪いと言うか、舌足らずじゃないか?
「寝起きはいつもこうなんだ、悪いな」
「そう言うことか」
まぁ、寝起きと言っても今は十時近いんだがな。
「カムイが来るまで暇なわけだが、どうだドーター? Gは足りてるか?」
「足りてるどころか多すぎて使い切れなくて逆に困ってるんだよ。なんであんな大量のGを渡してくるかね……」
「大量って、たった五枚じゃないか」
俺が渡したのは大黒金貨五枚だけだ。たった一桁。それなのに多すぎるとは一体どういうことなのだろうか。
「絶対わかってて言ってるだろお前……」
「さぁ?」
いや実際わかってる。大黒金貨は一枚一億Gなので、合計五億Gもあるのだ。そりゃあ多すぎるよな。
「でもドーター言ってたじゃないか。武器を与えたりGを与えたりするって」
「それは無くなった者にだけなだけであって、全員に配るわけじゃねぇぞ」
知ってる。別に俺達は五億Gあったとしても数週間で稼ぐことができるのでそこまで痛手ということじゃない。
確かに大金だと言うことは自覚しているが、ドーターならしっかり使ってくれると信用して、それだけのGをあげたのだ。カムイだったら大聖金貨10枚程度しかやらん。
「それでも黒金貨一枚分もあげるなんて優しいですね」
ごく自然に俺の思考を読んだミライが、俺に生暖かい眼差しを送る。なんだその目は。
「ウチは最高の鍛冶師がいるから低コストで高クオリティの武器や防具があるからGは余るものね。素材となるオリハルコンとかはダンジョンでオリハルコンゴーレム倒せば手に入るし、クレアシオンに創ってもらうっていう手もあるからGは掛からないのよね。本当にチートだわ」
「いまさらだろ」
実は、クレアシオンに会いに行くために攻略した【機械仕掛けの迷宮】にはすべての鉱石のゴーレムがいるので、誰でも手間さえ考えなければGを掛けずに入手することはできる。
ただ、ヒヒイロカネゴーレムとかアダマンタイトゴーレムとかは極稀にしか出現しないので、手間とGを天秤にかけた結果Gを捨てる方が楽だ。
「それで、今どれくらい使ったんだ?」
「あの時までに武器や防具を紛失又は破損した者にGを与えたから、それで大体五百万G。それと全員に食料を与えるために大量買いしたからそれで百万G。だから、まだまだ残ってる。四億九千万近いな。ホント、どうやって使えばいいのやら……」
「使わないくてもいいんだぞ?」
俺は必ず使い切れと言っているわけではないので、別に大量にまだGが残っていても問題ない。
それに、俺達……いや、俺の【ストレージ】には数十億ものGが入っているので五億G無くなったところでどうということはない。
因みに、プレイヤーが持てる最高額は9億9999万9999Gなので、恐らく俺が渡したGは全てドーターが持っているのだろう。
「ギルドマスター、カムイ様が来られました」
「とーちてください」
「……通せ」
「はっ」
サナが許可を出しても、伝えに来たプレイヤーは無視をしていた。やっぱりドーターがギルドマスターだと思ってるんだな……。ていうか、娘の命令を無視されたことによるドーターの怒りが留まるところを知らないので、誰かどうにかして欲しい。
「……おちつく」
いつの間にかドーターに接近したサクラが、ドーターの首に一発チョップを打ち込んだ。それだけでドーターは床に倒れこみ、動かなくなった。
確かあれは……【手刀】だった気がする。相手に強力な一撃を食らわせて、気絶状態にするスキルだ。俺の場合は【武神】に入っている。マジかよサクラ……お前いつの間にそんなスキルを……
「因みに【概念属性魔法】は全部使えますよ。まだ連発は難しいようですけど、近いうちに完璧に使えるようになるはずです」
ミライからそんな情報も追加された。これ、真のチーターは俺じゃなくてサクラなんじゃないか?
「因みに因みにっ! 私も攻撃系の魔法は完璧に使えるようになりましたよ」
「おお! 凄いぞミライ! やったな!」
「はい!」
「それならキラ? 私も回復魔法完璧よ?」
「補助魔法は?」
「……」
「それが完璧に出来るようになってから言おうな。できるようになったら何かしてやるから」
カオリが最初目指していた後衛の像は回復系なので、回復魔法は勿論、補助系の魔法もできなくてはならない。
ミライはアタッカータイプの魔法使いなので攻撃魔法さえ完璧に出来れば十分だ。
サクラはというと、既に魔法も弓術の方も完璧だろう。森霊族ということも関連しているのだろうが、それでもこの上達速度は目を見張るものがある。やっぱりチーターじゃないかな。
「いつまでも気絶させておくのはあれだから、起こしておいてくれ」
「……わかた」
この状況にした張本人のサクラにドーターを頼み、俺はこちらに向かってくる複数のプレイヤーをどう対処するか考え始めた。




