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Save129 胃が痛い……

 シエルが仲間に入り、一晩が明けた。

 シエルが仲間に入ったことにより、俺達には新たな目標ができていた。それは、何よりも優先すべきことだった。


「シエルを早く【種族転生】させるぞ……!」


 そんな俺の一言で、シエルを除く全員が真剣な顔つきになった。それもそうだろう。

 シエルは、ガチャ以外で俺達に初めてできたNPCの仲間だ。それだけならばまだそこまで真剣になる必要はないのだが、彼女はとても危なっかしいので、いつ俺達が危険になるかわからない。


 今のこいつのレベルで少し危険なレベルならば対処は楽だが、勿論それ以上に危険な時もある。その時に俺達が対応するよりも早くこいつが死んでしまっては約束に反することになる。それだけは阻止しないといけないので、俺達は早急にシエルを【種族転生】させる必要があった。


 それに付随して、モミジのレベル上げも行おうと思う。モミジは、カムイ達と一緒に訓練をしているほか、ミライやカオリと共にレベル上げをしに行ったり俺達と闘技場で模擬戦をしていたりするのでかなり強くなってはいるが、レベルはまだあと少し足りない。

 

「どうやってレベル上げしますか?」

「やっぱり【始まりの森】かしら?」

「……【荒れ果て荒野】?」

「流石に【龍神山】はないと思うけど……」

「「今まで行ったことがないところですか?」」

「ボクは【始まりの森】か【荒れ果て荒野】がいいな」


 順々に質問が来た。綺麗に聞き取りやすいくらいの間隔をあけて。地味に凄いなオイ。

 レベル上げをする場所はまだ考えていないので、モミジの行きたいところに行くことにする。つまり、【始まりの森】か【荒れ果て荒野】になるわけだが、今日はカムイ達の訓練もできるので【荒れ果て荒野】にしよう。もしかしたらサナたちもいるかもしれないし。


「【荒れ果て荒野】に行くぞ」


 いつの間にか帰ってきていた龍神に乗って、風を切りながら【荒れ果て荒野】を目指す。俺の後ろにはミライとサクラが乗っていて、他の皆は俺の蒼龍やカオリのペガサスに乗っている。


 ブルーとレッドは防具を作るためにここにはおらず、俺達七人で移動する。カムイ達には先に行くと伝えてあるので、あっちで待つことにする。

 にしても久しぶりな気がするな、カムイ達の戦闘を見るのは。どれくらい強くなっているのだろうか。決闘を申し込まれなければいいのだが。あんなの体力を浪費するだけだ。


「ミライ」

「──【水球(ウォーターボール)】」


 丁度眼下に一体の魔物が見えたので、ミライに手で矢印を作って合図を出した。

 ミライが放った魔法は綺麗に魔物に吸い込まれていき、綺麗なクレーターを残して、ポリゴンとなった魔物と一緒に消えていった。


 この距離でしかも動いているのに命中させるのは普通に凄い事だ。このゲームはエイムの補正が少ししかかからないからな。それで百発百中のサクラはサクラで化け物なんだが。

 そんなことを考えているうちに、少し先に【荒れ果て荒野】が見えてきた。


「到着っと」


 大地に足をつけ、ここの魔物に挨拶代わりの【落雷(ドンナーシュラーク)】をプレゼントする。皆弾けるほどに喜んでくれた。うれしい。


「流石ですね……」


 シエルが軽く引いているが、はて、何のことやら。


「カムイ達が来るまでは自由に行動してくれ。モミジ、お前はミライとかカオリをひっ掴まえてレベル上げしとけ」

「はーい」

「私は?」

「お前は待機」

「戦いたいですよぉ!」

「んじゃ、行ってくれば? ほれ──【神護(ゴットプロテクション)】」


 防御障壁を展開して、シエルを魔物の方へ向かせる。それに怯えることもなくシエルは堂々と全くない威厳を振りまきながら近づいていった。

 当然自分よりも力が弱いと思われているシエルは押し倒さんばかりの勢いで襲われた。が、その攻撃は当たらなかった。


「いだっ!」


 転んだからだ。何も無いところで。自然とため息が出る。マジかよ。何もないところで転ぶとか才能ありすぎかよ。てかAI本当に組み込まれてんのか?

 一度目は奇跡的に攻撃を免れたが、二度目はそうはいかない。倒れているシエルの横から横腹にヒュンという音と共に鋭い蹴りが撃ち込まれる。


 簡単にシエルは宙に浮いた。【神護】のお陰でダメージはない。【神護】も全然余裕で耐えている。

 宙に浮き、未だに防御姿勢を取っていないシエルの背中に、今度は大振りに振りかぶられた巨大な拳が叩き込まれる。一瞬にして地面に衝突したシエルは、彼女を中心としたくぼみの中で呻いていた。


 ダメージはない。【神護】があるからだ。その【神護】も、あと数百発は耐えられるだけの耐久力がある。

 シエルはまた横腹を蹴られ、宙へと投げ出される。しかし今度は地面には落ちてこない。落下する時に首を掴まれたからだ。

 【神護】は自分を中心とした球状に展開されるのではなく、発動する時に自由自在に形を変えられるので、俺は体にジャストフィットするように展開していた。そのお陰で首は絞まってはいない。


 持ち上げられたままのシエルの下に、小さな魔物が集まる。そしてそいつらが口を開いたかと思うと、真紅に染まった炎が吐き出された。シエルに到達する瞬間、シエルを掴んでいた魔物は離れる。ダメージはない。


「げほっ……がはっ……」


 だが、痛みはある。HPが減らないだけ。ダメージが入らないだけで、痛みはある。シエルは、最初の攻撃の時から痛みだけは感じていたはずだ、その証拠に目尻に涙が溜まっている。

 シエルは震える足で立ち上がった。まだ戦うつもりなのだろうか。正直言って無理だ。彼女はここの魔物の速さについて行けていない。


「──【神足通】」


 一瞬でシエルのそばに移動すると、魔物達がたじろいだ。恐らく警戒しているのだろう。


「き、キラさぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああん!」


 とりあえずシエラを含めた全員に【落雷】を発動させた。


「キラさぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああん!?」


 とても元気な声が聞こえてきた。大丈夫だ、ダメージはない。

 シエルが俺に詰め寄ってくるのと同時に、カムイ達が到着した。カムイの後ろのプレイヤーの衰退具合を見るに、かなりの強行策でここまで来たらしい。別に急いでないんだけどな。


「ずいぶん早かったな」

「キラに早く会いたいっていう子がいたからね」


 おい待てこれ以上ミライを不機嫌にするような怖いワードを出すんじゃない。


「ひさちぶり!」

「なんだサナか……驚かせんなよ」

「みんなー! キラいたよー!」

「えっ!?」

「どこー!?」

「はやくあいたーい!」

「うちがさきだよー!」


 サナかと思ってほっと一息つく間もなく、カムイの発言以上の爆弾っぽくない爆弾が俺に目掛けて集中的に投下された。マジでミライになんて言われるかわからねぇ……うぅ、胃が痛い……


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