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Save125 女ァよこしな

 それからは何事もなく(何度か襲われるだけで)俺達は最深部まで辿り着くことができた。カムイはまだ起きているが、シエルは既に夢の中だ。今日の夕飯はなしにしてやろう。


 無事に到着することはできたが、空はもう真っ暗だ。アンラ達もご飯を食べているか何かしているだろう。

 今日はここで野営をすることにした。と言っても簡単にテントの周りに【神護(ゴットプロテクション)】を掛けておくだけだ。


 周りから数本の木の枝を持ってきて、燃やす。その上に鍋を置いて夕飯を作り始める。ミライ達はテントの設営をし、俺が料理をする。これが俺達のパーティーの役割分担だ。


 もうそろそろ出来上がるという時に、シエルは起きた。いい匂いにでもつられたのだろか。

 涙目で懇願するシエルに夕飯を与え、俺達は床に就いた。一応万が一があるといけないので、俺、ミライ、カオリ、サクラでローテーションを組んで見張りはするつもりだ。


 翌朝。【始まりの森】の木々の間からこぼれる木漏れ日に差され、俺は目を覚ました。最後の見張りがサクラだったが、大丈夫だろうか。

 カムイは俺の隣で寝ている。寝顔も怨めしい程に整っていて、男の俺でも見惚れてしまう。


 シエルはどうせ爆睡中だろう。俺の見張り当番の時、女子のテントからは大音量で寝言が漏れていた。

 さっさと全員を起こし、朝食を食べてから俺達は出発した。


 目的地はそう遠くない。昨日の内に最深部まで来ているからだ。後はこの森の中心へ行くだけ。恐らくそこに戦神がいるはずだから。

 カムイはどこに向かっているかわかっているようで、緊張からなのか顔を強張らせている。逆にシエルはどこに行っているのかわからないようで、笑顔でミライに話しかけている。


「さて、着いたぞ」


 俺達の目の前には、広場があった。鬱蒼と茂りほぼ隙間などないように生えている木々の中に、ポツンと円状の広場がある。


「気を付けろ」


 警戒を最大限まで引き上げる。ここに戦神がいないと言うことは、どこかに潜んでいる可能性が高い。俺やミライ達ならまだしも、カムイとシエルが不意打ちでも喰らえば一発ドロップアウトだ。

 マップに目を向ける。戦神が隠れていないか探すためだ。俺の眼球が動いた、その時。


「キラ君!──【神護(ゴットプロテクション)】!」

「……──【瞬間移動(インスタントムーブ)】!」


 一瞬周囲から目を逸らした瞬間、俺達目掛けて一つの影が襲ってきた。とっさの判断でミライが防壁を張り、サクラがカムイ達を安全そうなところまで連れて行く。


「おゥ、ンなとこに何の用だァ?」


 引き締まった体。口にはひげが生えていない。背も低く、俺よりも小さい。


「ロリの次はショタ?」

「オレ様はチビッ子じゃねェぞ」

「いやでも見た目が」

「こいつァ勝手に決められたんだァ」


 どこからどう見てもショタだった。ランドセルとか似合いそう。

 だが、戦闘をするうえでその見た目はかなり有利だろう。小さいと何かと便利だ。例えば相手の物理攻撃が当たりにくいとか、小回りが利くだとか。


 力はさっきの攻撃を見ればわかる。滅茶苦茶強い。流石戦いの神。その名前は伊達じゃない。

 でも俺に勝てるわけじゃない。力の差ははっきりしている。【完璧鑑定】で調べたからわかる。こいつは俺よりもステータスが下なので俺が勝てない訳がない。


「まァ、ンなこたァどうでもいいんだァ。何の用だって聞いてんだよォ」

「お願いがあってきた」

「オネガイ?」

「あぁ、俺達に力を貸して欲しい」

「そんなことかァ? 別に力ァ貸すくれェかまわないぞ」

「ありがとう」

「ただし、条件があるなァ」

「条件?」


 難しい事じゃなければいいなぁ。


「女ァよこしな」

「は?」


 待ってこれどっかであったような気がするぞ? 気がするだけか?


「まぁ、シエルでいいなら、どうぞ」

「おゥ、オメェ、仲間を売るのかァ?」

「いや、仲間じゃないんで」

「……」

「って、なんで私が!?」

「今更かよ」


 反応遅いぞ。そんなんだからハピナスボアに殺されそうになるんだよ。

 だが……ふむ。こうして戦神とシエルが並ぶと姉弟みたいだな。


「なにか変なこと考えてねェか?」

「姉弟みたいだなって」

「よっしゃオメェ殺すからそこでじっとしてろよォ?」

「まぁ、断るんだが」


 クレーターを残す踏み込みで俺に迫ってきた戦神を、軽く片手でいなす。その時の戦神は目を見開き、驚きに感情を支配されていた。ま、戦いの神であるこいつが片手で攻撃を防がれたとなっちゃ、驚くなって方が難しいよな。


 それよりもカムイがさっきから黙ったままだ。いつもなら俺がシエルを差し出した時に何か言ってくるはずなのに。

 そう思いカムイの方を見ると、顔が青くなっているような気がした。


「どうした?」

「き、キラ、君は平気なのかい……?」

「何が?」

「え、う、嘘だろう?」

「だから何がだよ」


 カムイの声は酷く震えていた。カムイが何を感じているのかは分かる。恐らく怖いのだろう。

 戦神は常に圧を放っている。俺やミライ達はレベルアップや【種族転生】、俺との模擬戦などのお陰でなんともないが、圧倒的な力量差がある場合、普通はこうなるのだ。シエルが何故あそこまで元気でいられるのかが不思議だ。

 でも、いくら怖かろうがカムイには慣れてもらわねければならない。これからのために。


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