Save124 MVPはサクラ
「ちょ、ちょっと待ってください! え、なんで私が元凶なんですか!?」
「お前がついてこなかったらこんなことにはなってない」
本当にどうやってついてきたんだよ……。ハピナスボアにやられるような駆け出し冒険者では絶対に追いつかないくらいのスピード出したんだけども。
「そこはほら、好奇心というか探求欲というか!」
「なるほどまったくわからん」
どうやらミライが直接聞いたらしい。だが肝心の答えは何一つ理解できなかった。え、なにこいつ好奇心と探求欲だけで限界突破したの?
「まいいや。帰れ」
「いや、それがその……」
「どうした?」
シエルはもじもじと内股で膝を擦り合わせ、胸の前でピンっと張った人指し指をツンツンしている。時折ちらちらとこちらを見てはすぐに顔を逸らす。もしこれがミライとかサクラなら悶絶していたのだろう(カオリにこのポーズは似合わないと思う)。
だが、相手はシエルだ。俺に付きまとってきたしつこいNPCだ。恐らく俺の顔は真顔に近付いているだろう。てか早く言え。
「帰れない、です」
「よーしお前らー。もっと深くまで行くぞー」
「「「「「「えぇーーー」」」」」」
「無視!?」
いやだって勝手についてきた結果帰れなくなったから送ってくれとかそんなの通るわけないだろ。
と、言いたいところだが、俺が定めたルールに【誰も殺してはならない】とあるので簡単には見捨てられない。はて、NPCはこれに該当するのかな。
失敗したなぁ。NPCのことも考えておかないといけなかった。
「助けられる範囲では助ける、というのはどうですか?」
頭を抱えていた俺に、ミライの声がかかった。流石ミライ、ナチュラルに思考を読んでいく。
それはそうと助けられる範囲では助ける、か。それでいいか。
絶対に助けるとなるとここに居るプレイヤーが危機にさらされることになるからな。それだけは絶対に阻止しなければならないため、助けられる範囲では、か。
んで? このシエルは助けられるNPCか?
「よーしお前らー。もっとふk──」
「いや私の事助けられますよね!? 助けてくださいよー!」
「うるさい」
助けられるっちゃ助けられるんだが、態々入り口まで戻って【転移】か何かで帰ってくるまでが面倒くさい。ここら辺の魔物なら俺らのNPCで十分だからここに留まらせておいた方がこいつは安全である。
そのことを説明したのだが、シエルは一切聞く耳を持たず、「着いて行く」の一点張り。
「……わかった。連れて行くから、絶対に動くなよ? カムイ、お前はここで引き続き訓練だ。アンラ、ブルー、レッド、モミジ、頼んだ。ミライ、カオリ、サクラ、行くぞ」
「待ってくれ」
なにまたぁ?
「あぁもう! わかったよ。連れて行けばいいんだろ。ただしカムイだけな。んでカムイもシエルと同じく絶対に動くんじゃないぞ。死ぬぞ」
「そんなところに行こうとしてたのか?」
カムイの質問をさらりとスルーして俺は深部へ向かって歩き出した。
【始まりの森】は深部に行くほど魔物が強くなり、草が生い茂って木は入り口の数倍の密度を誇る。
当然見晴らしが悪い。さらにここに住んでいる魔物達は集団で襲ってくるので、いつの間にか囲まれているということもあり得る。
「なぁ、僕だけこんなに楽していいのか?」
そういうカムイの声は、頭上から。
カムイは今、俺の【浮遊】のお陰で空中に浮かんでいる。しかし、ただそれだけだと敵の恰好の的なので【神護】で厳重に守っている。
カムイは自分だけと言ったが、シエルも同じだ。
俺を先頭に、サクラが殿を務めてさらに奥へ進む。
「おかしい」
「えぇ、そうね」
「いやな予感がします」
「……くるっ!」
さっきから異様に戦闘が少ない。いやそれどころじゃない。カムイのギルドメンバーから離れて既に数分が経っているが、あれから一切戦っていない。声すらも聴いていない。
そして背筋を震わせる予想が脳裏をよぎった瞬間。サクラの声でそれが現実に起こったことを知った。
「囲まれた!」
魔物に囲まれていた。効力を高めた【探査】を使うと、ざっと100以上の魔物がいた。
カムイとシエルを地面に降ろし、それを守るかのように俺達が囲む。
「キラ、魔物なんだろう? 僕も戦う」
「だめだ」
「どうして」
「まぁ、見てればわかる。カムイ、レベルは?」
「……さっき118に上がった」
118、か……。足りない。ここを攻略するのに推奨レベルは170。俺的には、だけど。それに……
「それじゃあ二、三発で死ぬぞ」
「でも」
「大丈夫だからそこで待っとけ」
言うと同時、俺とカオリは駆けだした。カムイ達の防衛はミライに任せる。
一番近くの草むらに入り込むと、頭上から沢山の魔物が落ちてきた。
それらを剣を一薙ぎして消滅させ、前方から襲い掛かろうとしている魔物達目掛け【無詠唱】で【火災旋風】を使う。一瞬にして草に引火し、断末魔が聞こえ始まる。
カオリの方もしなる細剣を最大限活用し、全て急所を一突きで屠っている。
それから数分後。そこには無傷の俺達の姿があった。今回のMVPはサクラだろう。いつの間にか姿を消し、木の上から狙撃し、誰よりも早く一体を屠っていた。誰が一本の矢で数体の急所を貫通させることができると想像できる?
しかもそれを一気に三本まで出せるんだぞ? 絶対に敵に回したくないな、うん。




